!?

「霊界でのパーティー?」

意味が分からず繰り返せば、言葉の通りじゃと通話越しにコエンマが苦々しく呟いた。

ワガママお嬢様の人間界案内ツアーを無事終了した矢先、突然きたコエンマからの連絡。
先方がどうしても今回世話になったからと参加を促してきたらしい。

「それって参加必須ですか?――というか、人間界の……しかも霊界探偵とは言え
ただの人間の私たちが参加してもいいものなんです?」

探るように問いかければ、電話越しで叫び返された。

「ワシだって断れるものなら断っとるわい!!
本来なら人間界とは干渉してはならんのじゃ。
どうしても必要な時だけ、霊界探偵をとおしてのみ干渉できる。
しかし、相手は霊界屈指の大貴族じゃ。無下むげにもできん」

めんどくさい。というか霊界でも貴族とかいるのかと聞けば
昔はなかったらしい。しかし、コエンマの父親の代から出来始めたとのこと。

霊界でも身分制度とかあるのか……いやだなぁ。

招待客でも、13歳以上はパートナーをともなわないといけないらしく
幽助にぼたん、私には大人の姿になったコエンマが同伴することになった。

私はコエンマがどこからか用意したAラインの乳白色にゅうはくしょくのドレスを身に着ける。
隣の幽助も用意されたタキシードを窮屈きゅうくつそうに着こんでいた。
髪をおろしているせいでいつもより幼く見える横顔にクスリと笑う。

「似合わねぇって言いてぇんだろ?」

「意外と似合ってるよ。可愛い」

「それ褒めてんのか?」

「褒めてる、褒めてる」

コエンマの手にひかれて会場入りすると、まばゆい光に一瞬間がくらんだ。
すぐに眼がなれて、あたりを見回すとまぶしいと思っていたのは
シャンデリアの光だけでなく、会場内の人々のきらびやかな服装だった。

特に女性たちのつけたドレスのなんと豪華絢爛ごうかけんらんなことか。
大ぶりの宝石の一つ一つが光を反射してきらめきを放っている。

「霊界ってこんなに贅沢なの?」

問いかけるようにコエンマをみやれば、少し眉をよせて苦々しそうな顔をしていた。
それ以上何も言えなくなり、繋がれた手を小さく握り返すのが精一杯だった。

「あ、この人達よ!!」

いつかのレティシアお嬢様がこれまた年に似合わぬ豪華な装いで近づいてくる。
後ろから青髪の青年が近づいてくる。

「本日はパーティーにお越しくださり感謝致します」

礼儀正しい青年に頭をふる。

「いえいえ、こちらこそご招待感謝致します」

隣の幽助は早く帰りたそうな顔をしていたが
空気をよんで悪態をつかずに、小さく頭まで下げた。

その様子にホッとする。後は、このパーティーをつつがなく終え
帰宅すれば私たちの任務は完了だ。

「妹の護衛をしていただき、お会いして礼をしたかったんです」

本当にあの傍若無人ぼうじゃくぶじんな妹の兄かと疑いたくなるほど礼儀正しい青年と
その美しい顔立ちに照れながら謙遜して顔を横にふる。

「いえいえ!!私たちも楽しい時をすごさせて頂きました」

「…そうですか。それはよかっ……ん?
――貴方は霊界の長である閻魔大王のご子息…コエンマ様ではありませんか?」

コエンマという言葉に会場中がどよめきはじめる。

「なぜワシのことを…」

探るように、呟いたコエンマの言葉をさえぎるように
次々と会場内から声があがる。

「コエンマ様に聞きたいことが!!」
「私はお願いが!!」
「私も!!」
「俺も!!」

詰めかけた人々によってコエンマの姿はすぐ見えなくなった。
幽助の隣にいたぼたんも慌てて悲鳴をあげながら人込みの中を追いかける。

私も慌てて追いかけようとすると、誰かに手をひかれた。

「貴女はこっちに…」

「え?」

次々と押し寄せる人の群れに、手を引く人物が見えない。
けれど声やゴツゴツした手からは男性だと分かった。

「…っはぁ〜。やっと抜けれた」

ようやく人込みを抜けたかと思えば、人気のない廊下まで来ていた。

「あっあの…ありがとうござ…あ」

息を整えながら顔をあげれば、人の好さそうな笑みを浮かべたレティシアの兄。

「ロメオさん」

なんだろう。さっきと少し空気が違う気がする。
人当たりのいい笑顔なのに、どこか寒気がする。

本能的に後ろに下がろうとすると、何かにぶつかった。

パッと振り向けば大柄の男性。見上げた表情は無表情で
感情が読み取れないのに恐怖を感じた。

「つれてけ」

「え、ロメオさん…?」

笑顔を崩さないロメオの言葉に面食らいながら
どういうことかと狼狽えていると、後ろから伸びてきた男の腕に絡めとられる。

「んんんっ!?」

口元にあてられた布のせいで呼吸が制限される。
一瞬嗅いだその甘い香りにヤバいと思った瞬間、意識が落ちた。



………
……

「まだ見つからぬのか?」

がパーティー会場で行方不明になってから3日になる。

あの後、パーティーどころの騒ぎではなくなり
コエンマはぼたんと幽助を無理やりつれて会場を後にした。
その後にそういえばドレス姿の少女の姿が消えていることに気づいたのだ。

パーティーの主催者にも問い合わせても知らぬ存ぜぬの非情な回答。

「クソ、ワシのせいじゃ……。
あんなハイエナの群れに連れていったせいで…」

「ハイエナ?」

「ああ。そうか……ぼたんは知らないのか」

霊界でも確かに地位はあった。
しかしそれはあくまでも正当な実力に見合ったもので
その地位には責任やキチンと役割がついてまわる。

しかし、貴族制度を導入してから贅沢三昧の成金が多く誕生した。

「彼らは贅沢に飽き足らず、気に入った人間を霊界に呼び出そうとしたり
挙句に、自由に人間界に行き来できるようにと要求してきておる!!」

「そんな!?」

「ああ。ワシも流石にそれは容認できん。
しかし前回のレティシアの人間界視察の件は
なぜか閻魔大王からの要請だったのじゃ」

苦々しそうにはきすてるコエンマの言葉に、ぼたんは面食らった。

「コエンマ様のお父様からの!?」

コエンマが静かにうなずく。しかし表情はどこまでも納得しきれておらず
不満がにじんでいた。

「父はおかしい。なぜ……貴族制度なんぞ作った」

コエンマは机に拳をたたきつけて、頭を抱える。

「霊界中を探してもこうも見つからんとは……。
賢いあの子のことじゃ。どうにか無事でいると信じておるが……」

嫌な気がする。ろくに寝ていないせいかクマの濃くなった瞳を細め
コエンマはまた頭を抱える。

その予想が的中し、霊界を震撼しんかんさせる大発表が起きたのはそのすぐだった。 Page Top