「え、伝言でんごん?」

急にコエンマ様から伝言があるとぼたんから伝えられれば
なぜかスマホが急に鳴り出した。

出てみると、LINEの画面にこれまた何故なぜかコエンマと名前が書かれたアイコンが出ている。

「はっ…はい?」

恐る恐る出れば、おかしなことにやっぱりコエンマの声が聞こえてくる。

ああ、とうとうネットのしすぎとアニメの見過ぎで頭おかしくなったのかと思ったが
ぼたんが繋がってる、よかったと口にしていたのでどうやらこのLINEが
私だけに見えて聞こえているというわけではないことに少しだけ安心した。

朝っぱらから元気だなと思う反面、なぜLINEが霊界と繋がっているのかと不安になったが
霊界はなんでもアクセス権限を持っているとか聞かなくても答えてくれた。

つまり、私がいつも使っているパソコンにもコエンマクラスになれば干渉かんしょうできるらしい。
ただ干渉するのは疲れるので、LINEに至ってはふつうにアカウント持っているのだと意気揚々と答えていた。

霊界にネットが?死後の世界もネットがあれば困らないなとぼんやり考えていると
さっそくだがと急にコエンマが真面目な声を作ってきた。
思わず背筋がのびる。いやな予感しかしないのは何故だろう。

「それでこの子の護衛を引き受けたってわけか」

途中で合流した幽助の言葉に項垂うなだれながらも小さくうなずく。

なんでも、目の前の小学1年生くらいの女の子を今日一日だけ護衛して欲しいと頼まれたのだ。
ピンク色のふわふわした綿菓子のような髪の毛をツインテールにし、これまた珍しい綺麗な青い瞳の美少女。
物凄いフリルのついた洋服はアニメのお姫様を彷彿ほうふつとさせる。
しょせん子守こもりかと思ったのもつかの間、まさかの霊界きってのセレブご息女らしい。

コエンマから粗相そそうのないように丁寧に扱えと釘をさされ、それだけじゃなく
この子の性格が物凄くワガママ、気まま、自分勝手のお嬢様気質だったので
お昼が過ぎる頃にはすっかり疲れ果てていた。

「アタシね〜、どうっしても人間界見てみたかったの〜」

可愛い顔をしても無駄だ。もうその手には通じない。
道が混んでいればアタシのために道を開けさせろだの、好きなスイーツが売り切れてたら
アタシのためだけに材料買ってきて作れだの店にクレームつけるし
なんなら私のこともイケメンがよかっただの可愛くないチェンジだのさんざん文句をつけていた。

今は先ほどパシられて10秒で買ってこいと言われたアイスを渡したので
なんとかおとなしくベンチに座って食べている。

そこだけ見れば可愛いお嬢ちゃんなだけに、幽助はまだ私の話を信じられなさそうだった。

「ハハッ。そう言っていられるのもこのアイスを食べ終わるまでだよ」

疲れた顔で精一杯笑えば不気味な顔だなと引いていた。
もはや笑顔を作る元気もないということか。

「でも、霊界にくるだけならコエンマ様の部下一人つければいいのに」

なんでわざわざ霊界探偵に頼る?

もしかするとただあいてる人手ひとでが私たちだけだったという落ちもあるかもだけど
考えすぎだろうかと悩んでいれば、隣から少年の悲鳴があがった。

チラッと見れば、すっかりアイスを食べ終わった少女が
少年に甲高い声で叫びながら駄々だだをこねているところだった。

「ねぇ〜つかれた〜、おんぶ〜」

「俺、こんだけ荷物もってんのに無理だろ!!」

かわいそうに、先ほど私が持たされていた荷物を今度は幽助に持たせようと
押し付けていた。両手で持つのがやっとの家へのお土産みやげ

「おんぶ〜、つかれた〜!!アンタの方が見晴らしよさそうだもん〜」
足をジタバタさせながらずっと叫んでいる。

悪かったなチビでと青筋を立てながら、無理やり笑顔で近づけば
顔がこわーいと悪態をつかれた。思わず舌打ちがもれる。

「レティシア様……ほら、行きたがってたサン〇オランド行きましょう」

急にさっきまで足が痛い、疲れたと叫んでいた少女が
パッと飛び上がり、ベンチから降りた。

「そうだったわ!!アンタたち、早くいくわよ!!」

10個近く年齢が離れている少女にあごで使われながら
幽助と荷物を半分こしてついていくしかなかった。

………
……

「つ……つかれた」

ようやく任務終了の時間を迎えた瞬間、私と幽助は膝から崩れ落ちた。
大量の荷物と上機嫌のお嬢様。

恐らく本物の彼女の従者らしき2人が入れ替わりで霊界から迎えに来ている。

助かったと目線で訴えればあちらも相当苦労しているのか
ご苦労様ですとねぎらいの言葉と深々とお辞儀を返してくれた。

問題はこの少女レティシア様である。
うっかり呼び出してしまったコックリさんしかり、ただでは帰ってくれない。

いやだ、帰りたくない、もう少し遊びたいと駄々をこねており
コチラも何とかなだめようとアレコレ声をかけているが聞きやしない。

どうしましょうかと従者の二人組に目をやれば
二人はアレを使うかと小さく目配せをした後に小型のパソコンを取り出した。

なんだろうと思って見ていると、エンターを押して動画を再生しだす。

「お兄様!!」

画面から出てきた美少年に思わず息を飲んだ。
確かに目の前の美少女もこの年にして相当の美形であることは間違いない。
その原理でいけば確かに血縁関係とおぼしき兄が美形でないわけなかった。

少し気が強そうなネコ目でピンク髪、青い瞳の妹とは正反対の
まだ幼さを少しだけ残す優しそうな色っぽいたれ目と、青い髪、ピンクの瞳。

声変わりをしはじめたばかりであろう、まだ青年よりは少年ぽさを残している声と容貌から
私や幽助とさほど年齢が変わらなさそうに感じた。

「レティシアの兄、ロメオです。この度は妹が大変お世話になりました」
画面越しとはいえ、深々と頭を下げる少年に面食らいながらも
こちらもいえいえとんでもないですと何度も頭をさげる。

その様子に小さく笑みを返し、少年は妹に寂しいから早く帰ってくるようにお願いした。
そのお願いの効果が絶大すぎて、すぐに従者に荷物を持たせた少女は帰ると画面ごしに叫び返す。

「アンタたち、楽しかったから名前くらい覚えておいてあげるわ!!
いい?もしまた人間界にくることになったらアンタたちが護衛するのよ!!」

「はっはい」

もう来ないでほしいと願いつつ、でも楽しそうだった少女のことを思い返せば
いやですとは言えずにうなずいた。

心のどこかでどうせもうないだろうと思っていたこともあるが。

「もうくるなよー!!」

幽助は馬鹿正直に答えている。小さく失礼でしょと小突いた。


「それじゃあ……また」

最後に少しだけ見せた悲しそうな顔は、人間界そんなに名残なごりおしいのかなと
こっちまでセンチメンタルな気分になったが、彼女が去ってから数日間で
慌ただしい日常に戻った私たちは彼女のことをすっかり忘れていた。

そう、霊界からパーティーの案内状が届くまでは。 Page Top