地面に突き立てた拳はすさまじい音を立てて地面をえぐっていく。
一直線に伸びた地割れが乱童に向かって走り出した。

これには流石の乱童も面食らったが、すぐにつかんでいた幽助を
縛った状態で木の上につるすように投げつける。

そして自身は素早く真横に飛ぶことで地割れを回避した。

「チィッ…拳を突き立てただけでこの破壊力!?」

憎々しそうにつぶやく乱童。彼が攻撃をよけることも想定内。
これはあくまでも幽助と引き離すため、そして彼に威嚇することが目的だった。

この力を何度も使えばこの土地が穴だらけになるし、生態系にもあまりよくない。
しかし幽助を手から離せば……こちらの方が霊力を借りてとは言え
スピードとパワーはうえだ!!パワーに圧倒され私と距離をとろうとする乱童。

彼が一瞬ひるんだすきをついて、私はかけだした。

音をほとんどたてず、滑るように風を切り乱童に向かっていく。
幻海が後ろでわめいていたが、関係ない。
このままだと幽助が死ぬ!!――ならもうこんな勝負私には関係ない。

乱童に一発くらわせようとしたその時、乱童が放った霊丸のような攻撃で
木の上で宙づりにされていた幽助が縛られたまま沼に落ちた。

私が呆気にとられて、沼のほうに意識をむけた時
乱童はぶつぶつ唱えてはじめる。低く、何語かは分からないが寒気がする言葉を。

「幽助!!」

縛られたまま、頭から落ちた幽助に慌てて池に近づこうとすると
何かが私の前を舞った。

ガチッと歯と歯を噛み合わすような音が響いた直後、沼にざぶんと飛びこんだ。

一瞬見えた鋭い歯、生臭い臭い……ぬめっとしたウロコに面食らう。

「魚…?」

「ハハッ!!危なかったぜ!?俺のペットを魔界から召喚させてもらった!!」

「なっ!?」

魔界のペット!?しかもこいつ一匹だけじゃない。
沼をのぞけば、怪しく回遊する黒い大きな影がいくつも見える。
ヒッと息を飲んで、すぐに泳げないけど飛び込もうか迷った。
でも、飛び込んだところで濁った沼から幽助を抱えて
こいつらに食べられないように浮上できるかも疑問だ。

「幽助ぇー!!?」

力の限り叫んでも、当然ながら反応はない。
もっもう、飛び込むしかない!!
そう思って大きく息をすい、気休めだが
鎧のように全身を霊気で覆ったその瞬間。

私の身体を何かが捕まえた。
それは瞬く間に私の身体に巻き付き、食い込んだかと思えば
すぐにグンッと後方に引き寄せられる。

声にならない悲鳴をあげて、引き寄せた何かにそのまま地面に転がされた。

「いったぁ……おばあちゃん!?」

身体を札が貼られた特殊な麻縄が巻き付いて拘束している。
腕も足も動かすことが出来ないほど巻き取られており
しかも幻海がそれを施したのだから笑えない。
普段ならこんな拘束くらい、霊気をつかったバカ力でほどけるのに
どうやらこの札が霊気を吸い上げるのか一向に霊力が練れない。

「なっなんで…ねぇ!!」
すがるように、泣き出しそうな瞳で地面に転がりながら見上げた。
どうして?幽助がどうなってもいいの?
言葉に出さずとも、そんな感情が瞳から伝わったのか
幻海は静かに視線をそらして、すまないと小さく呟いた。

それにカチンときた私は滅多に怒らないが今日ばかりは怒号をあげる。

「すまないと思うならッ…助けてよ?
――早くしないと…幽助が死んじゃう!!」

お願い……。かすれた声で懇願した。言いたい事はいっぱいあるのに
気持ちが追い付かない。涙があふれてくる。

「まだ勝負はついていない」

幻海の言葉にえぐえぐ嗚咽しながら、涙でぼやけた視界で沼のほうを見ると
凄まじい光線が辺りに走った。

それはぼやけた視界からでもはっきりと分かる。霊力の光。

沼の水が舞い、衝撃の後にぷかぷかと魚が水面に死んで浮き始めた。

それに一瞬、皆が驚いたものの……乱童だけはすぐ沼に霊丸をあてる準備をしはじめた。
指先を沼にむけ、赤いまがまがしい霊気を指先に集中している。
浮かんできた幽助を狙い撃ちしてやると構える乱童に叫んだ。

「やめて!!」

「そこかぁ!!」

それと同時に彼が沼をパンッと打ち抜いた。思わずギュッと瞳を閉じたその時
聞きなれた声が背後から聞こえて来る。

「どこ狙ってやがる!!」

沼を伝って別の沼地の水面から幽助が飛び出してきた。
同じように霊丸の構えをしたまま。

「これで本当に最後の力だ!!光ってくれ霊丸!!」

「しゃらくせぇ!!」

お互いの指先から霊丸が同時に飛び出す。
それはすさまじい力でぶつかりあった後、乱童が押し負けて吹き飛ばされた。
彼は苦痛の悲鳴をあげながら、そのまま沼に落とされていく。

やったとぼたんと歓声をあげたのもつかの間
沼から鋭い光が走ったかと思うと、沼の水ごと大量に蒸発していく。
沼の後はぽっかりと空いたクレーターのようになっていた。

そして、蒸発しきって蒸気が漂う沼地跡からゆっくりと乱童が立ち上がる。

「今のはかなり効いたぞ…」

怒りをはらんだ声が穴の方から聞こえたかと思うと
すぐに飛び上がり、幽助に向かった。

鋭いパンチ、そして蹴りが幽助にお見舞いする。
幽助はもうよける体力すら残されていなかった。
幻海のいうように土壇場で霊力を高めて撃った霊丸。
アレでもう起き上がるのさえやっとだろう。

しかし、それは相手も同じようだった。
攻撃は繰り出すも、どれも決定打にはかけている。
明らかに先ほどより威力が落ちているのは一目瞭然だ。

だからこそ、乱童も確実に勝つために先手をうつ。
「貴様もあの仲間と同じように身体を縮めて葬ってやろう!!」

誰もが桑原のことを思い出す。縛られたままでやめろと叫んだが
呪文を唱えだした乱童を誰も止められない。

指先をあわせ、乱童がブツブツと不気味に呪文を唱えだす。

「またあの呪文を唱える気だよ!!」

「おっおばあちゃん…もうやめさせて!!」

ぼたんと私の叫びも届いているはずなのに、幻海は相変わらず無言を貫いている。
年寄り独特の落ちくぼんだ瞼、その下のするどい眼光は何を考えているのだろう。
そこまでして、後継者を決めたいのか……それとも何かしらの意味があるのか。

理由があろうとなかろうと、私からすればここまでしていいとは思えない。
身をよじって、何とか少しでも近づこうともがくが届かない。

もうダメだ……と半ば諦めかけたその瞬間、変化はあらわれた。

なんと、術をかけた側である乱童の身体が縮んでいくのだ。

「え…なんで?」

幽助は等身大のままで、ボロボロなのをのぞけば何も変わっていない。
当の本人も私以上に動揺し、悲鳴に近い叫びをあげていた。

「まさか…縮んだのはオレだというのか!?」

乱童に近づくぼたんと幻海。ミニチュアサイズとなった乱童を見下ろし冷たく吐き捨てた。

「技に溺れたな」
「これはいったい?」

「呪文の術は失敗すると己のみに帰ってくる危険なもの。
――不用意に何度も使うべきではなかったな!!」

術を返した……!?――でも幽助にそんな高度な技はムリだ。
そうなると単純に幻海の言うように失敗したのだろう。

「失敗だと!?ッばかな…オレの念は完璧だったはずだァ!!」

小さくなっても高圧的な態度を崩さない乱童。

「今の呪文は相手の聴覚を通し、脳細胞から全身に念波を送り込む術で
極めて無防備な相手にしか通用せん!!」

「そうか…それなら…」

「「耳を塞いでるだけで呪いをふせげる」んだよ!!」

幻海の言葉と重なるように、結論に至った。

「しっ…しかし…やつはそんなことを知らんはずだ!!」

確かにそこは疑問だった。
初対面だし知識もない幽助なら分からないはず。

その時、当の本人が痛みに呻きながらもゆっくりと起き上がった。
しきりに耳をさわって気にしている。

「よかった!!幽すけ…「さっきから耳がよく聞こえねぇぞ」――え」

こちらの言葉を聞こえていないかのようにさえぎる姿に
本当に声が届いていないんだろうと唖然とする。

まさか殴られすぎて聴覚がやられた……?そんな心配をしていると
耳から何かをひっぱりだした少年がゲッと声をあげる。

「池の藻がこんなに…聞こえねぇはずだ」

それを確認してホッとする。――よかった。身体に異常でてなくて。
そして次の瞬間、さっきの答えがわかった。

「聞こえていない状態だったから、乱童の呪いを防げたのか」

幻海もその通りだとうなずき、補足するようにつけくわえる。

「他人の技を盗むことのみに執着し、技の本質をつかめなかったお前の負けじゃ!!」

「ふざけるなぁ!!呪文をとけばすぐ元通りに――」

息巻く乱童の前にふらふらの幽助が立ち塞がる。

「のんびりまってるほど、俺がお人好しにみえるか?」

ニヤッとイタズラっ子の笑みをうかべ、そのまま倒れ込むようにし乱童にエルボードロップをかました。
断末魔のような叫びをあげる乱童。横に転がる満身創痍の幽助。

「――勝った」

心配しすぎて涙をためていた頬をツーッと一筋感涙が伝う。
これで終わったんだと想うとホッとして泣きながら草地につっぷした。
私は縛られたままなので、ぼたんが幽助に駆け寄る。

「よくがんばったね!!」

「どうだ婆さん。――勝ったぜ」

老婆は静かにフィールドを見渡し、納得し勝利の宣言をする。

「奥義継承者は…浦飯幽助に決定!!」

その後、乱童は小型のままで金庫に入れて保管するとぼたんが持っていった。
桑原のケガも幻海が心霊医術である程度まで治療させたのちに
ボロボロの幽助につれられて、帰っていった。

肝心の私はと言うと……。

「うわー、おばあちゃん!!勝手に動いてごめんなさい!!
――おろしてぇ〜」

その日の夜がくるまで、庭の木に縛られたまま逆さづりにされたのはまた別の機会に話そう。


第二章......................................終わり
継承者編終わりました!!
原作沿いだとアニメを確認しながら作業しているので時間かかりますね。
その分、オリジナルだと妄想だけですぐかけるんで
次回は原作沿いの真面目な感じとはちがってオリジナルのギャグや甘い話をはさんで
四聖獣編にいきたいと想います。
ここまで見て下さり感謝致します。 Page Top