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「しかし不思議なもんじゃ…追い込まれるほど
小僧の霊気に力がみなぎってきておる」

幻海の言葉に幽助を見ると確かにじょじょに霊気が溢れてきている。
心霊医術をやっているだけに、すごく興味がわいた。
もしかすると人は追い詰められると霊気が増す?

小さな手の平を見つめた。
私があの人達に会うためには、もっと過酷な状況に身を置いて
霊力を高めないといけないのかも知れない。

思い出を振り払うように頭をふって幽助を見つめた。

「捕まえたぜ!!」

牙野の攻撃をわざと顔面にあてさせて
その腕ごとロックして動きを封じた。
まさに肉を切らせて骨を断つ!!

「腕へしおってやんぜ!!」

「ようし浦飯!!思い切っていけ~!!」

牙野さんも腕折られるの可哀想だな。後で治療してあげよう。
それにしてもなぜか牙野の様子から違和感を覚える。
腕をロックされてるのに、あの余裕な態度。

まさか、そこから脱する何かを持っている!?

「幽助っきをつけ…きゃあ!!」

牙野の出した斬投旋風撃ざんとうせんぷうげきによって思い切り遠くまで投げられた。
しかも投げられる際のあの回転数は人間業とは思えない。

「離れたら相手が見えず、捕まれてもすげぇ投げ技がある!?」
桑原の言葉に息をのんだ。

「どうすることもできない」

「幽助が勝つためには霊丸を打たないと…でも一日一回しか打てない」
ぼたんの言葉にまだ霊丸という奥の手が残っていたかと思い出すも
彼女の言うとおり、一日一回の技を見えない相手に向かって打つのは至難の業だ。

ああっ、牙野の最大の攻撃があたってしまう。
みんなが思い思いの悲鳴をあげた時、幽助の指先が眩い青色の光を放った。

「お前の姿など、お見通しだ……霊丸れいがん!!!!」

「ぐああっ」
仮面が砕ける音がした。誰もが息をのむ。
牙野がすごい音を立てて倒れた。暗闇の中で立っているのは幽助だ。

「やった!!!!」

ぼたんと両手をあわせながら喜ぶと、幻海の勝者をつげる声が高らかに響き渡った。

………

次の決勝のステージへと移動しながら
さきほどの幽助の行動を皆が笑った。

「まさかタバコの火を利用するなんて……
幽助は賢いね」

ニコッと微笑むと年相応に照れたように
とっさに思いついたとかモゴモゴしていたのが可愛かった。

「けっ。ちゃん。こいつはただ悪知恵が働くだけだぜ」

「なんだと、このヤロー!!それじゃ俺がバカって言いてぇのか?」

「ちがうのか?あぁ?」

「このっ」

「まぁまぁ落ちつきなよ!!幽助もまた試合あるんだから体力温存しとくんだよ!!」

ぼたんの言葉に、少年二人はふて腐れたように返事を返した。
その様子にこっそり笑う。

昔の戦場跡というところに案内された。見た目は薄気味悪い湿地帯。
なのにどこか異様な空気が漂っている。しかも戦場跡という説明を聞いたあとだからか
なんか黒い人影みたいなのがぼんやり見えるんだけど!?
桑原もかなり霊感があるらしく、何か見えると怯えた様子で固まっていた。

「ここはこの山で最も霊的に強い場所じゃ。
お前達の霊力を生かして戦うところに一番ふさわしいところじゃ」

「なるほど、確かにな。――ぐんぐん力がみなぎってくる感じがするぜ」
怪しげに笑う風丸かざまるの言葉に、確かに危険な場所だからか
強制的に霊気が研ぎ澄まされるような感覚に襲われる。

しかし幽助はさっきの霊丸で使い果たした様子。
幻海師範もこんな間髪入れて戦わせなくていいのに
………もしかして自分で考案しておいてトーナメント制めんどくさくなってきた?
こんな破天荒なおばあちゃんに付き合わされる人達も可哀想。
私が出場しなくて心底よかったよ。

試合が始まる。予想していた通り、ボロボロかつ霊力を使い果たした幽助に
容赦なく風丸の猛攻撃が続いていた。

なんとか今は耐えて立ち続けているけれど
大きな一撃をくらったらもう立ち上がれないだろう。
汗が額を伝う。いつでも治療できるように神経を研ぎ澄ました。

幽助のパンチを寸前でかわした風丸はなんと懐から手裏剣を取り出した。
素早く放った手裏剣がどこまでも幽助をおってくる。
幽助の霊気をおっていると風丸は説明した。

しかし咄嗟の幽助の機転で手裏剣の攻撃を木を囮にして防いだ。
なんていう戦闘センスと感心するも、無常にもよけたはずの手裏剣が爆発し
少年の身体が宙をまう。

「っ幽助!!」

いくら身体がタフでもこんなに攻撃を受け続けたら身体の中はボロボロになっちゃう。
幻海をみやるも、全然試合を終了させる気配がないので奥歯を噛みしめた。

「その手裏剣には衝撃に反応する火薬が含まれているのだ」

つまり、今みたいにすんぜんでよけて木に手裏剣をぶつけてもダメってこと!?
幽助にはもう策が残っていない。どうするんだろう。

祈るように見つめていると、急に風丸が次の手裏剣を放った段階で
幽助がこっちにむかって走ってきた。
隣でぎょっとする桑原とぽかんとする私にすれ違いざま任せたぜと一言呟くと
風丸に向かって走り出す少年。なんだったんだと呆気にとられたが
幻海の道連れにする気かもしれんという言葉にドキッとする。
私達は慌てて幽助を制止しようとするが、全然聞く様子はない。

突如、霊気砲を打とうとする風丸の視界から幽助が消えた。
全員が突然消えた少年に息をのむ。
幽助にむかって飛んでいた手裏剣が標的をなくし
そのまま風丸につっこんでいく。慌てて風丸が霊気砲を放ったが
その刺激により、手裏剣に仕込まれていた火薬が大爆発をおこして彼を宙へ飛ばした。

「どこいったんだい!?」

風丸はどう見ても試合ができなさそうだったので
慌てて幽助の消えた位置に駆けつけるも、少年の姿はない。

「っ手!!OMG!?」

沼の中からひょこっと出てた手に気付いて声をあげると他の面子も悲鳴をあげる。
その中からなんと幽助が出てきた。

「消えたと思ってた…こんなところに隠れてたなんて」

「はぁ?――俺はハマって…」

「え」
全員がぽかーんとする。桑原がアレも計算じゃないのかと風丸を指さした。
今度は幽助の方が呆気にとられている。

「もしかして俺が勝ったのか?」

幽助に頷く。

「霊気砲をうつタイミングがずれて、手裏剣とかちあったんだ。
結果的に偶然とはいえ、幽助が勝ったんだよおめでとう」

ホッと息をつくと、少年もあんまり実感できなさそうに小さく笑った。

「勝者 浦飯!!」
高らかに響いた幻海の言葉でようやく私達は胸をなで下ろした。 Page Top