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1対1の対決が続いて、桑原の番に回ってきた。

大丈夫かなと心配になったが、隣に居た幽助が誰に言うでもなく
あいつなら心配いらねぇよと呟いたので薄く笑った。

どうやらこの2人は喧嘩仲間みたいなものらしい。
桑原さんは背丈も高いし、身体つきも
一般的な成人男性の中でもかなり丈夫そうではあるが
それでも幽助と同い年の私からすれば年下の少年。

しかも多少なりとも霊力が扱える幽助と違い、彼は霊感の方は高そうだけど
霊力が扱えるかと言えばまだ分からない。
自分が戦うわけでもないのにドキドキしながら、闇の方に向かっていく
桑原と対戦相手の武蔵を祈るような気持ちで見つめることしか出来なかった。

………
……

「あれは!!」

最初は劣勢だった桑原に戦いが終わったらすぐ近づいて治療できるように待機していると
彼の手から強烈な稲光が走ったのに一同驚いた。


「霊気でつくった剣!?」

暗闇の中でもわかるほど光輝く霊気エネルギーの剣。
近くにいた幻海も私の言葉に頷いた。

「物質化能力」

「なんだそりゃあ?」

「普段は隠れている力が本当の危険にさらされたことで
やつの霊力が光の刀となり現実に導き出されたのじゃ」

流石、長年霊力の修行を積んでいるだけある。知識が豊富だ。
小さい頃は私が幼いこともあって、初歩的な修行や簡単な知識しか教えて貰えなかったので
幽助への説明を聞いていると、改めて私も学ばされることも多い。
ということは私が扱っていたこれも……。

あやとりをするように指先から糸状の霊力を出して両指で絡めると
それを見た幻海が少し驚いたが、すぐにこれも物質化能力だと幽助に説明した。

私は霊丸なら護身用で5才の時に習ったけど
医療霊術以外の攻撃手段は全部独学のものだ。

そうこうしているうちに、桑原の霊気の剣が
武蔵の木刀ごと打ち砕き、彼を遠くまで吹き飛ばして決着がついた。

暗闇から桑原だけ帰ってくる。傷の具合が心配で近づいたが
重症というわけでもなさそうなので、後で治療することにした。

次は幽助と牙野の戦いだ。

早くもモタモタしていた幽助に幻海がキレながら
くわえていたタバコを投げつけた。

「そんなに試合みたいっつーなら…いっちょやってやろうじゃねぇか」

ジャケットを脱いだ自信たっぷりな幽助と視線があう。
私が心配げな顔していたのが分かったのか
安心させるようにいつもの勝ち気な笑みを浮かべると
牙野に続いて暗闇に消えていった。

「あの野郎…いつのまにか妙なマスクを被ってやがる!!」

桑原の叫びに暗闇の中でよく見えるなと思いつつ
マスク?と疑問符を浮かべた。

口につけるやつと桑原に尋ねると顔を覆っていると帰ってきたので
ああ、イタリアの仮面舞踏会でつけるようなヴェネチアンマスクかなと思ったが
あの無骨そうな牙野がそんなオシャレで優雅なものをつけているのを想像したら笑える。

笑い出しそうな私に桑原は真剣な顔だったので
そのマスクは強そうかとたずねたらうなずいた。

「まるで鉄の仮面みたいなマスクだぜ」

「鉄仮面って…すけばんでか…ごほんっそれはやばそうだね」

よかった。スケバンデカの所は聞こえてなかったぽい。
南野陽○ちゃんが二代目の麻宮サキ演じてたなとかぼんやり思いつつ
ただでさえ暗闇だというのにさらに視界を悪くするような鉄仮面をつけたのには
頭部と顔面の防御以外にも理由がありそうだと眉をよせる。

しかも何かご丁寧に自分で感受器官を断つことにより感覚を研ぎ澄ますとか説明してくれた。
優しいのかバカなのか。――だってもし自分が勝っても後に桑原含め対戦相手は残っているのに。
それとも、よほど手の内をあかしても自分が勝てると思っているのか。

祈るような気持ちで暗闇の中、何も見えていないはずの幽助にエールを送った。

牙野は幽助の闘気で位置を把握している様子だった。
一方の幽助にはまだそこまでの力は無い。

牙野の攻撃がクリーンヒットする。
結構重い攻撃の音がしたが幽助は立ち上がった。
しかしまた牙野の攻撃があたる。

くそっ、体力と攻撃力ではそんなに差が無いはずなのに
霊力が足りないだけで、じわじわと攻撃をうけてる。

あたれば幽助にも勝機はあるんだけど……。

「どこいきやがった!!」

ああ、位置を教えてあげたい~。
幻海をチラッと見たが、教えようとした瞬間殺しそうな目をしていたので
すっと口をとじたのは言うまでも無い。

このおばあちゃんはいつになっても怖い。

やった!!かすかな音をたよりに牙野の位置に幽助が気付いた!!
すかさず攻撃の連打が牙野を遅う。
しかし、どうしてだろう…こんなにモヤモヤするのは。

次の瞬間、牙野の強烈な蹴りが幽助の腹に直撃し
少年は柱のほうまで弾き飛ばされた。

「幽助!!」

慌てて駆け寄ろうとしたが幻海にとめられた。

「でも」

「まだ試合は終わってない」

ぎゅっと胸の前で拳を祈るように握りしめた。

ちゃん。あいつはああ見えてタフなやつだ。
心配いらねぇよ」

肩に置かれた桑原の大きな手に安心する。

見上げるとニカッと笑みを浮かべたので私もつられて力なく笑った。
でも幽助が牙野の位置を特定できないとこの試合……勝ち目はない。
それは恐らくこの場に居る誰もが気付いていることだった。

だからぼたんねーねも桑原さんも真剣な顔つきだ。

「あれは!?」

ぼたんの叫びに我に返り牙野を見ると、腕がでかくなってると桑原が叫んだ。
その言葉の通り、腕を中心に霊気が溢れているのに心臓がドキッとした。
なんだかやばそうな技だそうとしてる!?

暗闇の中なので幽助は気付いていない。

「霊気を体内に蓄積させ、攻撃力を倍増させているのじゃ」

幻海の言葉に、私のとは何が違うんだろうと手の平に同じように霊気を流すと
お前のは最低限に肉体の強度を高め、外に鋼のような霊気のグローブをはめているような状態だと
幻海が説明した。

「っ…幽助!!」

牙野の大腕硬爆衝だいわんこうばくしょう……見た目ラリアットが幽助にヒットする。
やばい、流石にこれはダメージがでかいんじゃ。
案の定、幽助は倒れて動かない。――もう試合はいいから早く治療させてよ師範!!

このまま倒れていてくれたら幽助は失格になるけど……
でも重症をおって身体に後遺症が残ったり、死ぬよりマシだ。

しかし少年は立ち上がった。
私達は対戦中の牙野同様に驚きを隠せなかった。
どうやら凄い反射神経で急所を外しただけでなく
身体じたいも普通の少年……もはや成人男性の倍以上のタフさをもっているらしい。

いくらケンカ慣れしてたとしても、こんな人が簡単に飛ぶレベルの攻撃をうけて
立っているのは怖すぎる。私ならワンパンだぞ。 Page Top