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確実にさっきのゲームが後をひいている。
ゲームセンターにつくと明るさと綺麗さにただ圧倒された。
アメリカにいた時に近くにあったゲームセンターは全体的に暗かったうえに
不良のたまり場と言われて、あんまり衛生的とも言えなかったし
たいてい何かしら壊れているのか壊されたのか分からない機体があった。
しかし、日本はどれも新品のようにキラキラ輝いている。

「ワァ!!ゲームの天国だ」

「そうかな?」

思わずもれた感嘆と返事をした声にえっと振り返ると
よっと手をあげた学校帰りの蔵馬が立っていた。

「くらっ……秀一くん!!」
危ない、人間での名前はこっちだった。
蔵馬もよく出来ましたといわんばかりに優しく微笑んで小さくうなずく。
それに照れながらも唇をグッと結んで頭を縦にふる私に
おかしそうに瞳を細めて、少年は笑みをこぼした。

「まぁ、今は俺たちに注目するやつもいないし
そこまで気を遣わなくてもいいさ」

「そっ…そっか」
気まずい。相手が超絶美少年ということもあるが
あの病院での突然のハグ事件を思い出して顔に熱が集まる。
あれ以来、彼とは一言二言スマホでやりとりしただけで
こうして会うのは飛影との一件以来だった。

そんな私の気まずさを察してか、蔵馬から先に口を開いた。
はゲーセンに来るのは初めて?」


「うん。あ、でも日本のゲームセンターは初めてって意味だよ」

アメリカに最近までいたことを話すと今度はあっちが驚いた顔をした。

「帰国子女なんだね。――それにしても日本語がうまいじゃないか」

「ああ、確かに5才からアメリカにいたわりにはってよく言われるよ」
でも日本語を忘れたくなくてめちゃくちゃ勉強したし
何よりアニメや漫画が私にとっては最高の教材だったなぁ。クールジャパンありがとう。

「日本の作品にはふれてたし、両親も日本人で家では日本語でやりとりしていたのと
さいわい日本人もチラホラ居た学校だったからね」

やば、なんか自慢ぽく聞こえたかなとチラッと蔵馬を見上げると
すごく楽しそうに相槌をうっているので少し居たたまれない気持ちになった。
たいした話題じゃないのに、興味をもってくれてありがとうと心の中で叫ぶ。

「そういえば蔵馬はどうしてここにいるの?」
ふと気付いた疑問をなげると、少し彼ははにかんだ。

「ゲームしに……ふっ、意外って顔してる」

指摘されてほっぺたをハッとつつんで、グニャグニャ曲げてもごもご言い訳をする。

「あっえっと、その…「いいよ」え?」

「優等生だと思っていたんだろ?――まぁ学校でもそんな感じだしね。
ただ時々息抜きというかさ……」

蔵馬が前のめりになって近づいてくる。
捕食される前のカエルみたいにうわずった声をあげると
彼はおもしろそうに瞳を細めながら、甘い声で囁いた。

「たまにはわるいこと、したくならない?」

ニヤッと笑った彼の影が私におちたおかげでどうか顔が赤いのが
バレないでくださいと神に願いつつ、私はただ静かに頷くしかできなかった。

「と、いうのは冗談だよ♪――ゲーセンが不良のたまり場なんてのは
80年代くらいの話じゃないか?今は小学生でもくるんだからさ」

サッと身体をひいて子供がイタズラを成功したような笑みをうかべる蔵馬が
手を出してと呟いたので、おずおずと両の手の平を差し出す。

「か…かつあげされても、何も出せないけど」
と若干震えつつも、手の平に感じた冷たさで我に返る。

「これ……あげる」

よく見れば小銭とも違う。メダルのようなものだった。

「俺もう帰るからさ」

「あっ、うん!!――ありがと蔵…秀一くん!!」

少年は少し目を細めて笑うと手をふった。

「あ、そうだ」

振り返る髪の鮮やかな赤に目を惹かれるも
何をいうのかと彼の翡翠玉のような瞳に視線をうつした。

「今日の格好…すごく可愛いね」

「…え」

彼は私の言葉もきかずに、言うだけいって帰って行った。
残された私は顔に熱があつまるのを振り払うように頭をふって
なんだったのかと固まっていたが、手の平でなったメダルの音で我に返って
目的だったゲームを楽しむことに切り替えることにした。

ひとしきりゲームで遊んだ後、屋敷にもどる。
幻海にどこ言ってたんだいと言われて思わず顔がゆるむも
すぐに治してちょっと出てたとだけつげた。

ゲームセンターに行ってましたなんて言ったら怒られそうだし。
あ、でもどうだろう。意外とゲーム好きだったりして……。
二次審査のゲームを思い出して1人で考えていると
明日のために早く休むようにうながされた。

「明日って…え、三次審査でおわるんじゃないの?」

あの森を時間制限つきで合格した人ならもう弟子にしてあげればいいのに。
それともまさか弟子をとる気すらないんじゃないだろうか。
それなら手伝いに意味があるのかと悩んだが私の考えをよんだのか
幻海は静かに笑って弟子は必ずとると断言した。

「アンタは明日以降、もし参加者が重症だった場合の手当を頼みたい」

三次審査の時は言われなかったが、とうとう来たかと思った。
顔が少しこわばる。恐らく今回の手伝いは医療系でおおよそ呼ばれたんだろうなと
継承者トーナメント中の幻海の手際の良さから思っていた。
私がするのは人に案内したり説明したりと別に玄海でも出来る仕事ばかり。
それでもわざわざ屋敷にとめて待機させていたのは恐らくけが人が出た時を考慮してだろうと踏んでいた。

ただ一つ誤算なのは危険と言われていた三次審査の森あたりで呼ばれるかと思っていたこと。
もしかするとそこでは幻海がカバーできるレベルだったり、大きな重傷者が出なかったのかも知れないなと
考えをめぐらせていると、私の頭の中をよむように幻海が明日以降は三次審査の倍危険だと釘を刺してきた。

なんで、そんな危険なことを素人にさせるんだと呆れつつも
私は言われたことを遂行するしかない。

分かりました、と呟いて明日へ霊力を温存させるために今日は早く就寝することにした。

翌日、私達は朝一番に集められると玄海の案内で
屋敷内の石段を登っていった。

カツカツと石段を登る間も緊張しているのか
誰も口を開こうとしないので若干気まずいなと思いつつも
石段の先にある道場へと入るように営業スマイルで案内した。
その案内に細くするように幻海が叫ぶ。

「第四次審査からは実践じゃ。残りが1人になるまで戦ってもらう!!」

皆が入るのを確認して、幻海の指示通りに扉を閉める。
扉から差し込む陽光のみで照らされていた室内が一気に暗闇になる。
私は先に内容を聞いていたので驚きはしなかったが
幽助と桑原は悲鳴にも近い驚きの声をあげていた。

「これじゃあ何も見えねぇじゃねぇかよ!?」

「相手が見えねぇのに…どうやって戦うんだよおい!!」

確かに真っ暗だ。しかしよく感知能力を研ぎ澄ませば
身体が発している微量の霊気を感じ取ることできる。
そのおかげでボワッとした光の人影が私には見えるし
人により色や身体から発する強さが違うので幽助と桑原にすぐ気付いて近づいた。

「すぐ灯りをつけるから待っていて」
小声で囁くと私が近くにいたことに気付いていなかったらしく
ビックリした声で驚かれたので、悪いことしたかなと少し反省した。

「流石じゃ…

小声で幻海が呟いたが、それに何を言ってるんだと首をかしげて
暗闇で幻海の横にとことこ歩いて並ぶとそのタイミングで幻海が灯りをともした。

ただ一つのろうそくだけなので全員の顔がぼんやり浮かぶ程度の灯り。
それでも参加者は安心したかのような顔をしていた。

うん、やっぱり灯りは安心するよねぇ。
私がこの霊気感知を磨いたのも霊界探偵時代に迷子防止のためだ。
当時5才でなおかつ好奇心旺盛だった私はすぐに迷子になったので
仲間だった2人の霊気や妖力を感知できるように泣きながら実践していたのが
今でも時々役に立っている。――例えばイヤなやつが来たら逃げるとかね。

人は多かれ少なかれ霊力を秘めている。
特に多ければ多いほど身体から霊気として漏れやすいし人によって色や形状も様々だ。
私は暗闇でも各々がぼんやりと光っているように見えるが
普通の人はただの暗黒にしか見えないだろう。
あ、でも霊力修行を積んだ人とかオーラが見える人なんかは意外と見えてたりして?

そんなことを考えているうちに、幻海が暗闇の中で
互いの霊気を探りながら戦うことを指示していた。しかも武器使用もありらしい。

なんてバイオレンスなおばあさんだと呆れつつも
なるほど、これは確かに重傷者がでるかも知れないと気を引き締めることにした。
もし暗闇の中で悲鳴を聞いたり、大きく霊力が乱れたりなどあれば
すぐに駆けつけられるように研ぎ澄まさなければ。

私にとってもなんの修行だよと内心愚痴をこぼすが
それでも戦うのは幽助と桑原さんなので検討を祈ることしか出来ないのが歯がゆかった。 Page Top