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「へぇ~、まさかおばあちゃんが弟子でしとるとは」

小さい頃、私は玄海おばあちゃんのもとで霊力の修行をしたことがある。
霊力はあったものの、それをどう使いこなすかなんてまだ5才だったし
全く分からなかった私は、キッズ用と称しながらも今考えるとわりとハードなメニューで
どうにかこうにか最低限の霊力の使い方を覚えることが出来た。

そのおかげで、5才にして霊丸れいがんをうったり
今のように上手くはなかったが心霊医術が使えたりして
5才ながらに意外と立派な霊界探偵をしていたのである。

と、まぁ回想はさておき。
あの頃からアンタ以外の弟子はとらんと豪語してたおばあちゃんがねぇ。
コエンマやぼたんいわく死期が近いのではとのことだったが、あのおばあちゃんが
すぐ死にそうには見えないし、思いたくもない。

ぼたんからどうやら幻海が私に今回の弟子をとるトーナメントのサポートをしてほしいと
連絡がきたのはつい昨日のこと。

私は泊まり込みになるかも知れないとのことなので、一日かけて親を説得し荷物をつめた。
最後まで弟がねえちゃん友達すくねぇくせにどうしてお泊まりをとかぶつぶつ言っていたが
生意気だったのでムシしてきた。

確か幽助はすでに到着したとメッセージがきていた。
会場になる師範の道場兼屋敷につけば、なんとまぁ……ものすごい人だかり。

どれもこれも胡散うさん臭いような……失礼、えーっ大変むさくるしい方々ばかりで息が詰まりそう。

そりゃまぁ世間では霊波動れいはどうの幻海として知られているからなぁ。
霊能力者のような数珠じゅずをつけた人から、道場破りのような険しい男まで様々集まっている。

「幻海おばあちゃ…いえ、幻海師範しはんお久しぶりです」

「あんたはっ…ふっ。――ずいぶん丸くなったじゃあないか。
さては修行さぼったね?」

うっ……流石おばあちゃん。手厳しい~。

「えっえへへ~。あ、ところで手伝いはどうすればいいですか?」

「なんだいその口の利き方は。他人行儀で気味が悪いわ。
おばあちゃん呼びは辞めておくれ、あと敬語はナシだよ」

コエンマやぼたんと同じように、昔のままのため口ではもう許されないかと思い
あえて敬語を使うようにしていたが、それが幻海からみれば
少し胡散臭いように見えるのかも知れない。
それともおばあちゃんにとっては私がいくら背伸びしたところで
まだ5才の頃と変わらないと思っていたりして。

唇からため息のような笑みがもれる。この人はほんと、何もかわってないなぁ。
大げさに肩をすくめて、私はおっけーとだけ呟いて眉をさげた。

………
……

「は~い。順番ずつ並んでくださいね」

規則正しく並んでいく参加者の列を見ながら幻海から渡された箱を
どうぞとかかげて、中から紙をとらせていく。

どうやらくじ引きで決めるらしい。
最初はこんなものでいいのかと思ったが、まぁ運も実力のうちだしなと納得した。

それに霊能力者をかかげてここまで来た人達なら箱の中身もあててみろってね。
おもてでは営業スマイルを作りつつも、内心半分がインチキ霊能力者だろうなと呆れていると
幽助がやってきた。隣の人は知り合いだろうか?
年は幽助とさほど変わらなさそう。男子制服をきているし。

「あれ!?なんでもいるんだ?」
「うらめしぃ~。お前この子の知り合いかぁ?」

かなり身長が高い少年から見下ろされ、えへへと困ったように笑えば
にかーっと不気味な笑みをうかべて、隣の幽助につめよっていた。

「こんな可愛い子とおめー、いつのまに知り合ったんだよ!!」

「げっ。なんだよ桑原急に」

「なぁ、俺にも紹介してくれよぉ~」

しまった。女の子同士のお泊まり会だとウソをついてきたため今日はややフェミニンな格好してた。
会場には女性が見受けられないため、なんだか会場中の視線を感じるのも居たたまれない。
ただでさえチビで童顔だから、余計舐められそうだなぁと肩を落とすも
くじに不服だった参加者が幻海に襲いかかろうとしていたので面食らう。

慌ててかけよろうとしたが、私の助けも不必要だったらしく
眼力とかけ声だけで大男二人をのしてしまった。

おばあちゃん……周りはすごいとわいてるけど私はすごいを通り越して恐怖だよもう。
死期が近いとか絶対ウソだったじゃんと呆れつつも、次の審査にむけて参加者を誘導するのに専念した。

パンチングマシーンに、じゃんけんゲーム、そしてカラオケ。
これだけの機体を集めるのも感心したが、それを霊力を測るために改造とは……。
そういう電気会社のサポートでもあるのだろうか。

これには呆れより凄いわと感動していると、玄海からアンタもやってみるかと声をかけてもらったので
他の参加者が見てないところでやってみた。

パンチングマシーンは点数が170。軽く霊力をこめてうったし
パンチングマシーンは誰が叩いても高得点がでやすいと聞いていたので別段驚かなかったが
他の参加者を見ているとかなりの高得点の部類らしく面食らった。

次にじゃんけん、これは適当におして98点だった。
高いほうだとは思うが、しょせんマグレだろう。こんなので霊力が測れるわけないと思うから。
しかし振り返った時の玄海のしたり顔でこのゲームで何がわかったのかと少し不安になったのは秘密☆

「アンタも歌うだろう?」

はい、キター。最後のカラオケ。
他の参加者に手拍子てびょうしをしたり、マイクをふいて貸し出したりと忙しそうにしていたが
最後の最後で幻海に捕まってしまった。他の参加者もお嬢ちゃんの歌がききたいぜーと
ここは場末のスナックかと呆れつつも、歌わざる終えない雰囲気にまけて一曲歌う。

『日々の光の喜び 星の影
貴方の傍では全てが素晴らしかった
貴方の最後の言葉に
ルビーの涙を流しながら
私はただ悲しみを口ずさんでここにいる
貴方を待ってるの

幸福よ、夢の中で歌って…』※Everytime you kissed me 和訳一部


――歌が終わる頃には会場は拍手で包まれていた。
幻海からもよくやったと言われたが私もカラオケ好きなので
思いっきり歌ってしまったと恥ずかしくなった。

幽助も拍手してかけ声を送っている。
えへっと照れたようにはにかむしか出来なくて
私は幻海の後ろにひっこんで再度サポートに徹することにした。

「第二次審査をクリアしたのは……20名超えてるのか」

幽助は霊力もあるしおいといて、その知り合いの少年も残っている。
結構霊感が鋭いタイプなのだろうか。
しかも当初インチキ臭そうだと思っていた集団の割りには
結構な人数が残っているなと感心した。

「ほら、アンタもついてきな。これから第三次審査会場に向かうよ」
「あっ!はい~」

幻海の後ろをついていきながら、皆も誘導して次の審査会場へと向かった。

………
……
幻海についていくと森が広がっている。それも清々しい感じの森ではなく
どよーんと薄暗く不気味な雰囲気がただよい、いかにも何かが出そうな感じの森だ。
これには他の参加者もざわつきはじめた。

案の定私達の予想通り、厳しい審査になると告げる幻海。

「あの木まで二時間以内についた者を合格とする!!」
ビシッと遠くに見える木を指さす幻海に、参加者はどよめいた。
1人、2人とここでギブアップ者が出てくる。

彼らが逃げるように去るのを横目でチラッと見ながら
おばあちゃんも人が悪いなぁと内心ごちた。
魔性の森とよばれ、磁石も使えない……つまり地場がおかしい土地。
霊能力者は好まない土地の性質とさらに危険な生き物や自然の罠……。
おばあちゃんみたいなストイックな人は少ないの分かっているのかなとため息がでる。

普通の人間はここまで危険をおかしたがらないし、霊力のある私ですらイヤだ。
でも、ここまで危険な目に合わせてでもとりたい弟子……。
心臓がドキッとはねる。好奇心から頬が緩みそうになるのに気付いて慌てて直した。
ここまでして弟子をとりたい理由が気になる。――もしかして本当に死期が近い?
眉をひそめて、唇に手をあてて考えるも視線の先の幻海は
私が5才頃にみた姿とそんなに変わらないほど元気に見える。

継承者の手伝いをする中で理由を聞いたら教えてくれないかなと思うも
あの玄海が簡単に教えてくれないだろうなと思い直して小さく肩を落とした。
それなら自分で探らないと……。幻海が継承者を選ぶなら
私は幻海がなぜ継承者を選ぶのかを探るのを今回の目的とするぞと密かに心にかかげた。

そうこうしているうちに審査が始まり、みんなが一斉に森に走っていく。
こんな危険な森にダッシュで乗り込むの危険じゃないかと思ったが
すぐにそういえば時間制限があったと思い出して、ご愁傷様という気分になる。

「アタシはあの木で参加者をまっておかないとならん。
――アンタの手伝いはここまでじゃ。今日は屋敷に戻りな」

通り過ぎざまに言われたのでえぇっと驚くも、一緒に森にこいと言われないだけマシかと思うことにして
トボトボと屋敷へ道を引き返すことにした。
家族には友達の家に泊まるとウソをついているも、実際は幻海の屋敷に今日から泊まることになっている。
部屋にも案内され、荷物も運びおえているし……帰っても何をやろうかとぼんやりしていたが
そういえば日本にきてアーケードのゲームはしたことないなと思い
屋敷にもどって財布とスマホだけもって近くのゲームセンターに向かうことにした。 Page Top