「うー、まだだるいなぁ」

昨日は蔵馬さん……じゃないわ、呼び捨てでいいって言われたんだった。
蔵馬と幽助を心霊医術しんれいいじゅつで治療して帰ったのを思い出した。

今は高校から下校途中。身体のだるさの原因を突き詰めると
昨日のバタバタを思い出して項垂うなだれた。

案の定、体中は筋肉痛みたいな痛みと、霊力を割と使っただるさがある。
霊力が高い場合だと人間も妖怪に襲われやすいらしいが、私の場合は心霊医術に特化した霊力の波動が原因。

癒やしの波動だと教えて貰ったが、正直よく分かっていない。
ただ使い方によって良くも悪くも扱える劇薬だと幻海げんかいおばあちゃんはよく口酸っぱく言っていた。
薬は量を見極めれば身体を癒やす、しかし扱いによっては毒にもなりえる。

だから当然、私には薬にもなる心霊医術から毒ともなりえる霊術も扱うことが出来る。
まぁ、私はもっぱら前者でしか使わないんだけどね。

しかしネックなのが霊力はたいして多くない点。心霊医術は意外と霊力と体力を消耗する。
ぼたんさんも心霊医術が使える。ただ怪我の具合によるが頑張っても1週間に1人~2人が限度らしい。
そんな彼女の霊力よりは多少あるけれど、私が昨日2人治療できたのも霊力の器用さで誤魔化しただけ。

霊力が多ければ、傷口から霊力が漏れても気にならないだろうけど
私の場合は少しも漏らさずきっちりと送り込むことによって節約している。

だからこそ、まだ霊力が回復しきっていない今日までは回復に専念したかった。
しかし、日常というのは突然壊れるのが常である……少なくとも私の場合は。

ごく普通のいつもと変わらぬ帰宅路で、私の身体にビビッと衝撃が走った。
この感覚は……妖力!?――それもかなり近い位置からかなりの妖力が出ている。

絶対に……飛影とか言ってたもう1人じゃん!!
ああああ、行くのイヤだぁ。でも、幽助は妖気計を持っていた。
きっと気付いて向かっているに違いない。

「仕方ないっ私も行くか」

「俺も」

「えっ」

突然聞こえた声に振り返ると、赤毛で長髪の男子生徒が立っていた。

「蔵馬!?どうしてここに?」

「それは俺も同じですよ。――ここ俺も時々使っていた帰宅路なんだ」

そっか、そうだった。
昨日まで敵として、そして妖怪サイドとして考えてたけど
彼は今は人間の秀一として現世を生きているんだった。
後から分かったけど、ちゃんと盟王めいおう学園の男子制服も着てるし。

「ほら、早くいきますよ?」

「うわっ…ちょっ」

うっかり盟王学園ってどこあたりだったっけとか
確か進学校じゃなかったっけとか思い出してボーッとしていたのも悪いけど
いきなり見た目とは違う男の手に小さな手を握られてビックリする。

彼は恥ずかしがる私を急かすように、時間がないと走り出した。
ああっくそっ。心臓バクバクするし頭も熱っぽいけど
今は飛影を何とかしなくちゃ!!気持ちを切り替えて、蔵馬の後に続く。

妖力の示す方角に向かえば、人気ひとけの無い船着き場だった。
もう夕暮れ時ということもあってか、あたりはシーンと静まりかえっていて
普通の人間ならこんな所で何かやっているなんて思わないだろう。

けれど、私と蔵馬もすぐに一つのコンテナが目にとまった。
中からすさまじい妖力とわずかな霊力が流れてくる。

お互い視線を合わせて頷いて、私達はコンテナの中に入った。

様子をうかがうように中に入れば、すぐ近くにぼたんと少女が倒れていた。
ぼたんが少女に何か心霊医術を施しているのに気づき
慌てて私も手伝えないかと駆け寄った。

「ぼたんさん!!私が変わります!!」

ぼたんが手をかざしていた額に私も手をかざし霊力を集中させようとした。
それに気付いて、ぼたんが慌てて首を振る。

ちゃんっ。――今はっ幽助を助けてあげて!!」

「へ…」

ぼたんにつられて少し視線をあげると、がんじがらめになった幽助がもがいていた。
思わず悲鳴をあげると、幽助を縛っていた飛影が鼻で笑う。

「ハッ。お前はあの時の霊界探偵補佐とやらか」
彼は視線だけ私に向けたまま、怪しく笑った。

「お前もすぐコイツのようにあの世へ送ってやる。
――いや、待てよ……お前も俺の部下にしてやってもいい」

「っ部下…!?」

「この女のように心霊医術が使えるとみた。そこらの人間よりは使えるだろう」

「誰が…あなたなんかのっ」

「そうか……まぁいい。お前もコイツを殺した後にこの剣で妖怪化させるだけだ」

剣が宙を浮いて、幽助に向かっていく。

「幽助!!」

足に霊力を流し、駆け寄った。ぐちゃっと肉の切れる音。飛び散る血。
感じる痛みに間に合った、と安心して眼をあけたが背中の温もりに我に返る。

「蔵馬!?」

確かに剣は私にも刺さっていた。しかし後ろの蔵馬まで貫通していた。
私の背丈だと肩を貫通していたが、蔵馬の背丈だとお腹の部分に刺さっている。
痛みで意識が飛びそうなのをこらえながら、正面で叫ぶ飛影に
左肩からたれる血を右手ですくい、手の平に霊力をのせて息をふきかけた。

血液が霊力をおび細かい霧状の血柱となり飛影の顔に直撃する。

「くそっ、眼が…眼が見えん!!」

「うっ…」

後ろの蔵馬が慌てて私の肩から剣をぬいた。
ドロッと血が垂れる。思わず肩をおさえてしゃがむ私に蔵馬と結束がとけた幽助が声をかけた。

「大丈夫か!?」

「うっうん。――蔵馬は?」

「俺はのおかげで少しの深さですみました!!」

良かった。し、脂肪が厚くて。

「飛影の身体の邪眼はいわば増幅装置のようなもの」
蔵馬の声に弾かれるように、額をおさえる飛影を見る。

「つまり、本当に力を出しているのはあの額の眼……?」

「っ!!はもう喋るな!!おい蔵馬…コイツ頼むぜ」

「っ幽助は?」

「…螢子をさらっただけじゃなく、女の身体に傷をつけたアイツは許さねぇ」

怒りでいつもより怖そうな顔をしている幽助に
不良怖ぇーと思いながら、素直に任せることにした。

血が一気に抜けたからかボーッとする。
けれど、早く止血しないとまずいことも医療専門の私なら分かっている。

起きるんだ!!」

蔵馬に軽く揺すられて、閉じそうな瞼で頷いた。
彼は慌てて私の左の脇から通すように肩にハンカチをまいて止血を試みた。

「あっ…りがとう。――でも蔵馬は?」

チラッと彼の傷ついた腹部を見ようとするも、顎をくいっと蔵馬の顔に戻される。

「俺のことはいい!!まず自分の傷を治療するんだ」

蔵馬の顔は血の気が引いた様子もない。気が引けたが甘えることにして
蔵馬にもたれかかりながら、途切れそうな意識で右手に霊力を集中させた。

「幽助……がんばって」

無責任なことに、そこから半分意識が朦朧としていて記憶がない。
しかしこれだけは分かった。あれから少し時間がたったこと。
そして蔵馬の傷も思っていたより深くはなく、ぼたんが見ていた少女も無傷に安心した。

一番の収穫は、なんと飛影を幽助が倒してくれていたことだった。
それを確認した私は、本格的に意識が途切れた。

こうして長いようで短かった三大秘宝を取り戻すという
幽助の霊界探偵補佐となって初めてのミッションが幕を閉じた。
これでホッとして日常生活に戻れるとばかりに思っていた。

第一章END

………
……
第一章--あとがき--

とりあえず三大秘宝を取り戻すまでのお話と戦闘は終わりました。
ここまで連載して一気に公開しようと考えたのはこれを連載開始からすぐです。
本当は朱雀とか四聖獣あたりから連載予定でした。
しかし、蔵馬と幽助のような呼び捨ての関係を持たせたく
それなら最初からやるしかないなと幽助が生き返ったあたりから書き出してます。

第一章は原作沿いノンストップ気味でしたが、第二章からゆっくりと原作沿いながらも
オリジナルストーリー多めで行きたいと思います。
夢主、幻海師範の継承者トーナメントは不参加予定ですので。
あ、でも幻海師範とは5才以来の再会ありますし、トーナメント手伝いとかはさせるかもです。

まだ日本に帰ってきたばかりなので、夢主の日常だったり
優等生している蔵馬やちゃっかり飛影、そして幽助とも交流するエピソードはさみたいです。
ここまで見て頂きありがとうございました。 Page Top