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「ちょっと雨宿りさせてもらっていいかな?」

視線の先で一斉にもめていた3人が振り返る。
そりゃそうだろうね。急にしげみから出てきたら何ポケモ○だよ……じゃなくて誰だよコイツと思うよね~。

何で考えなしに出て行くんだよと呆れながらも彼だけ行かすのは
私の正義感とか責任感とか罪悪感とかまぁもろもろが許さないので
しぶしぶ皿を割った子どもが説教をうけるのを覚悟したかのような面持おももちで茂みから出た。

私にも一応さきほどと同じような感じで3人の視線がくるも
庇うかのように……もしくはただ単に啖呵たんかきりたいだけなのか。
案の定誰だよとツッコまれて、意気揚々いきようようと霊界探偵だと明かしてくれちゃった少年。

霊界の追っ手かとあっちもツッコむも、黙り込む私にお前は誰だと言わんばかりの赤い髪の
綺麗な顔をした人の視線が注がれたのでその補佐ですと小さく頭を下げた。
すると、その人は律儀にも憂いを帯びた顔のまま小さく礼を返した。

女の人だろうか。男ならばとても中性的で女の私でも見とれるほど綺麗な顔をしている。
髪も燃える夕日のようなケバケバしい感じというより、同じ赤でもあかつきのような静かな美しさで目にとまる。
このまま動かないと生きているのかすら怪しいほど美しいその人は
長い髪が時折風に揺れて消え入りそうな姿でようやく生きていると実感する。
翡翠ひすいの玉のような瞳はどこか目をそらせないほど悲しげで、かすかにきらめいていた。

それでも服装は……どこかの確か高校見学した時に見覚えがある男子服だ。
だからだろうか、そのアンバランスさがとても儚くて美しい。
それに、あの人からは霊力しか感じないからおそらく人間だろう。
初めて会うはずなのにどこか懐かしさを感じる。
あちらもなぜかじっとこちらを見つめてきたので
少し恥ずかしくて、振り払うように名残惜しくも視線を他の二人に移した。

一人はあの鬼のような男、もう一人も小柄だけど男の人……いや少年ぽい感じ。
こっちの二人は霊力以外の力……これは懐かしいな。妖力の感じだ。

あ、また揉めたかと思えば急に赤い髪の人が背を向けた。
奥の方に消えていくのを、追いかける黒髪の仲間と思われる少年。

「くらま…?あの人の名前か」

盗んだ盗賊達の名前もそういえば聞いていなかったなと思いながら脳内でメモする。
あっあの人が素敵だから覚えたいとかそういうわけじゃないんだからね。
うそです。そういう下心ちょっぴりあります人間だもの☆

「おいっこらぁ!!人がせっかく尋ねてきたのに!!」

「たずねたというか押しかけたけどね」

私達のコントのようなやりとりが面白かったのか、残された鬼のような大柄な男は
不気味な笑いをうかべ、力ずくで奪ってもいいぜと宣戦布告してきた。

煽ってくれるじゃないかと表面では苦笑して呆れながらも
内心冷ややかな気持ちだ。――久しぶりの戦闘だからじゃない(まぁそれも多少はあるけど)
この男の能力の未知数なところ、そして喧嘩はともかく霊力が霊丸が一発程度だと聞いた幽助と
その幽助より少しだけ霊力があるものの体力だけでなく体格差で圧倒的に不利な私。

がたいの良い人間じゃないかも知れない男とどうやって戦うか。
相手はどうでるつもりか、と色んなことがよぎった。
幽助は早く喧嘩けんかがしたくて待ちきれないといった感じなので彼のフォローもやらなきゃなと心の中で泣いた。

そんな私達をあざ笑うかのように、パフォーマンスのような腹ごしらえだと餓鬼玉を取り出した男が
目の前で魂をほおばる。あの男の子の魂だと聞いた幽助の動きは武器を取り出そうと構えた私より早かった。
すかさず腹に重い蹴りを入れ、間髪かんぱつ入れずにパンチを決める。

その手際の良さにマジでこの人喧嘩慣れしてるわとビックリしつつもすぐに男の手から落ちた餓鬼玉を拾いに行く。
男の子の魂が戻っていくのを見守っていた幽助もハッとして餓鬼玉を持つ私に視線を戻した。

「よしっ。餓鬼玉は取り返したな。――それにしても見かけ倒しなやつだったぜ」

「でも幽助、マジで一撃入れてたよね。アレ人間なら起き上がれないって」
ただ、相手は人間じゃない。絶対起き上がるはず。
少女の瞳が警戒するように細くなったのに、まさかと幽助も笑って振り返ったがさっき倒したはずの男が平然と立っていて驚愕の声をあげた。

[#ruby=自虐_じぎゃく#]的な意味で呟いた独り言が聞こえたのか、幽助が少し焦ったようにつっかかる。

「あぁ?急に英語?わかんねぇよ」

「いや、すぐに分かるよ。だってほら……」

震える指先で指さした先ではあの男が不気味に立っていた。
しかも私の言葉を合図に男が急に咆哮ほうこうをあげたかと思うときていた服が筋肉の膨張ぼうちょうによって裂けて
赤い皮膚がむき出しとなって現れ始めた。
髪から見えていたツノも本数を増やしてより鬼らしさが増している。
というか、身体もさっきまでは人間並みのがたいの良さが今では人間離れしたサイズ感になってるんだけど。

妖力がもれて、こちらにもビリビリ伝わってくる。恐怖で足がすくむ。
しかし幽助もフォローしないと、と視線だけで確認すると
自分がモロにいれたパンチをくらい平然と立つ男に恐怖を覚えているようだった。
心臓がバクバクうるさいのに頭は冷水をかけられたかのように冷えていく。

やばい。これ絶対強キャラやん。ちょっとキャラ選択ミスったんで死んでやりなおしてきてもいいっすか。
しかしここは現実。泣いてもわめいても、命のアイコン1つだけ。
ライフは何個もないし、もういっかい遊べないドンな世界ってお姉さん知ってる。

「さっきの意味、わかったでしょ?」

私達、鬼に出くわしちゃった☆と茶化すようにウィンクしてみても
足が若干震えて来てます誰か助けに来てほしい15の昼。

しかもさっそく男の近くにいた幽助が吹き飛ばされた。

「幽助!?」慌てて近づく。

「くっそ……こんなバケもんと戦えなんてコエンマの野郎~」

あ、悪態つけるなら大丈夫か。とりあえず餓鬼玉をもっているのは私。
これは渡すわけにはともっていたカバンに隠すように入れる。
男はそれに気づいていないのか、もしくは幽助が持って居ると思い込んでいるような感じだった。
チャンス。恐らく私達の実力じゃこんな奴倒せそうにない。
餓鬼玉だけでもどうにかとりもどし後は気絶でもさせて逃げよう。その後、霊界に誰か派遣してもらえば……。

そんなことを考えていると、男がさらに攻撃をしかけてきたので慌てて現実に引き戻される。

「逃げ足の速いなぁ」

「幽助っ――よけて!!」

鬼男がまさかの大木たいぼくをひっつかんだ時点で悪い予感がしたため幽助に声をかけつつ自身も
すぐに足に霊力を流して、横にスイングされた大木を上空に飛んでよける。

もう一度スイングされたらよけられないので、滞空たいくう時間を短く飛んだ私はすぐに後ろに着地し
幽助を見るが少年はまさか木をバットのように相手がふるうなど思いつかなかったのか
私のフォローもむなしく避けるのが間に合わずにモロにくらって吹き飛ばされていた。

「幽助!!」

男が私だけよけたのにほぉと感心したかのように笑うも、倒れ込んだ少年から仕留めやすいと思ったのか
はたまた先ほどのパンチの[#ruby=恨_うら#]みなのか、私を後にると言わんばかりの挑発的な視線を送って
私ではなく、倒れ込んだままの幽助に近づいていく。

「幽助たって!!」

幽助は少し起き上がるも指先を見つめたまま考え込んで動かない。
……もしかして霊丸れいがんを撃つ気なのかとハッとするもすぐに幽助にまずにげろと叫んだ。
確かに今はチョーDANGER(危険)だけど1発しか撃てないのに今使うの?
まずは体勢を立て直して、ここぞと言うタイミング……もしくは本当に撃たないと危ない時に使って欲しかったとあせる。

でも、このままじゃ幽助が危ない。今から走ってギリ間に合うかの距離だ。

「もっもういいから撃って幽助!!」

叫んだと同時になぜか幽助はハッとした顔で指先を相手に向けることもなくパンチをくらい吹き飛ばされていた。
とっさによけようとした動きは見たが、パンチされた時の重い打撃音やあの勢いで転がっていったことから
相当な威力をくらったと顔をしかめて駆け寄る。しかし鬼男は駆け寄ろうとした私を手だけで制止し
幽助にむかって走りながら太い足で強烈な蹴りをくらわせた。

「幽助!!」
とっさに霊力を足に流して身体を前のめりにしながら駆け出す私は
なんとか幽助が木にぶつかる寸前で間にはいってクッションになることが出来た。
背中に木の堅さがモロにぶつかり、ピキッとイヤな音を立てた。幽助も蹴りをくらってぐったりしている。

「この美味しそうな魂をしたガキの方がやるじゃないか」

背中を片手でおさえ、痛みで息をつくのさえ苦しそうにする私を見下ろし美味しそうだと
鬼男にとっては大事なことなのか二度もわざわざ恐怖宣言をするのに
青い顔で否定として顔を美味しくないですと横に振る私にニンマリと笑った。

距離をとらなきゃ……。痛みの中でも冷静に考えろと心の中で叫ぶ。
私の痛みからして恐らく背骨がちょびっと折れたのは確実だ。
痛くて今にも泣いちゃうそうだけど、幽助の方がもっと重症そうなのでこっちが先だ。
幸いなことに餓鬼玉はこちらが持っている。このままの傷では戦闘なんて無理だ。
いったん幽助をつれて逃げて、傷を回復し作戦をねって挑むしかない。

「さぁ、苦しんで死ね」

私の前で倒れ込んでいた幽助の身体が浮いて痛みの中息をのむ。
片手だけで持ち上げた鬼男が両手で首を絞めにかかっていた。

やばい、このままだと幽助が殺されちゃう!?
慌てて地面に生えていた草をつかんで、霊力をこめながら手の平にのせた私は
唇の前で手の平をかまえて、綿毛を飛ばすように息をはいた。

すぐさま雑草はとがった太いはりのようになり男に飛んでいく。

「なっなんだ!?」

しかしとっさのチョイスが悪かったのか生えていた雑草の質が悪かったせいで
少年の首にかけた両手のうち片方を離したのがやっとの攻撃にしかならなかった。

「くそっ俺の手が……」
片手は硬化こうかした草が深く刺さり血が垂れている。
しかし男の手は片手でも十分に絞め殺せそうな大きさがある。

両手が外れてくれればどうにか目くらましでもして距離を取れたが
指先一つで首の骨なんか軽く折れそうな中で、下手に動くこともできない。
不良ぽい少年の攻撃ではなく私みたいなガキから攻撃されて血を流したことに激怒して動くなよと釘をさす。

「さぁて……人間が調子にのりやがって」

鬼男が片手だけでも軽々と少年を持ち上げながらそのまま首をしめようと力を込めていく。

どうしよう、どうしよう。冷や汗が伝う。心臓がうるさい。
今にも握りつぶされそうな幽助の首と男の手を見やり動くなと釘を刺されていたが
絞り出すような声で、バッグから餓鬼玉を取り出して両手で掲げた。

「待って!!――あなたが幽助を殺せば私はこれを破壊します!!」

「なっなにぃ!?このガキ…いつの間に餓鬼玉を!?」

男が驚いて一瞬手を緩めてこちらを伺うすきを作ったので餓鬼玉を掲げていた両手を
すかさず片方あけて、指先を鉄砲のように相手に構えて発射した。
久しぶりの反動が背中に響く。グッと顔を歪めたが痛みより当たってくれと願う祈りがでかい。

霊丸れいがん!!」

小さな指先から飛び出した霊丸はまさに一点に集中されたレーザーのような
綺麗に圧縮された鋭い光となり、幽助の首を掴んでいた男の片方の手に見事に命中する。

「ぐっ!?」

男が手を緩めていたことや、こちらに意識が向いていたおかげで、無事に首を掴んでいた手は離れた。
その隙をついて身体に霊力を流して幽助に駆け寄りながら、抱き留める。
足に霊力を流せば瞬足になるが、腕だと怪力になったおかげか少年もやすやすと抱き留める事ができた。
幽助はゲホゲホとむせながらも助かったと呟いて意識を失った。 Page Top