奪われた三大秘宝
「ところで幽助はどこまで話を聞いてる?」
時間がないからと闇の三大秘宝が盗まれたとしか聞いておらず
ぼたんからは詳しいことは全部幽助に話したからさっそく街に出ろと急かされて今に至る。
めちゃくちゃ大事なことなのにいいのかなと思いつつも
とりあえず情報がないと何も始まらないし……これから仲間としてやっていくなら
情報の共有もうまく出来ないとね。
「なんかすっげー大事な物みてーでよ。えっと1つが人間を魔物に変える力がある
降魔の剣。
2つ目が満月の日に魔力を放つっていう
暗黒鏡」
昼の街を歩きながら他の人が聞けばゲームの話でもしているんじゃないかと思われそうなくらい
突拍子もない話だが、私からすれば今までの霊界探偵の奇妙な事件を思い起こしてもありえるなと頷く。
「1つ目の降魔の剣は何となく分かったけど、2つ目の暗黒鏡がよく分からないね」
「確かに俺もコエンマの話てきとーに聞いてたけど、ツッコめばよかったぜ」
「まぁ…満月の日に魔力を放つってまだよく分からないからねぇ」
でも調査をしていけばのちのち分かっていくかもと続きを促した。
「えっと最後の3つ目が
餓鬼玉ってやつだったと思う」
「餓鬼玉……?」
「確か人間の…特に子どもの魂を好んで吸い取るっていう気味がわりぃ話だったぜ」
吐きそうなジェスチャーもつけて、唸る少年に真横で聞いていた少女もうげっと顔をしかめた。
「子どもの?それは確かに気味が悪い」
それに……餓鬼と言えば
六道輪廻の餓鬼
道に墜ちた者で、つねにお腹がすいた状態の亡者をさす。
この文字通りの意味があたれば、その玉を盗んだやつは空腹が続き……少なくとも
数人程度の魂が犠牲では満たされないかも知れない。――これは早急に見つけなければ。
幽助に話すかどうか迷ったが、中途半端なオカルト知識で混乱させてもアレなのと
ことの重大さがまだ分かっていなさそうな脳天気な横顔を見ていると
最初の任務で怖がらせてもなと黙っておくことにした。
彼の補佐と言ったが、この任務は人間界の危機でもあるので何かあれば私が進んで解決に導かないといけない。
そんな決意を固めているとふと少年が飽きたようにベンチに座りこんでしまった。
「あーあ、こんな人が多いんじゃ見つかるわけねぇよ。くそー、どうすりゃいいんだ」
「ちょっちょっと!?人間界の危機ってわかってるかい?
HEY、寝てどうするんだよ〜」
確かに過去の5歳頃の私はあきたとか歩くの面倒でごねたこともあったけどさ!?
流石に放棄したことはなかったよ?とくにこんな人類の危機ならね!!
心の中で強調するも、言葉には出せず彼が不良ぽくて怖いしヘタレなので困ったようにオロオロすることしか出来ない。
「ああっもぉ〜。どうするんだよ〜」
「どうするって、見つからねーもんは見つか…ん?なんだ」
ビリッとした空気の流れにお互い緊張が走る。なつかしいこの感覚。
少年にも気付いた?と
目配せすると、すぐに起き上がり真面目な顔で頷いた。
「今のは?」
「うん。――何か起きたよ今」
何かってと続けさせようとする幽助の言葉を遮り、あそこからと人だかりになっていた場所を指さした。
二人で近づいてみると、子どもが急に倒れたと周りが騒いでいる。
「この子……あっ」
口から白い魂のようなものが抜けるのを二人で確認した。
私は小さな悲鳴をあげ、いつもの
医療霊術で何か出来ないかとあせっていると
横に居た補佐対象の幽助が待ってましたと言わんばかりに抜けた魂を追いかけ出す。
「ちょっ…幽助!?ああっ
Shit!……ごめんね
Boy」
お姉さん何も出来なくてと涙目でハンカチを噛みしめながら後にする。
確かに魂のほうも追いかけないといけないので仕方が無いけどさぁ。
ってか、早い!!幽助早いって……タバコ吸ってるくせに息切れしないって
どんだけ運動神経いいんだ、あと足の長さよこせと内心毒づきながら
日頃の運動不足がたたった身体で追いかけると、ようやく追いついたと思えば
急に立ち止まった幽助の背中にダイナミックアタックを決める。
「いたっ…ちょっと何なの…」
ぶつかった方の幽助も
若干可哀想だが、ぶつけた鼻の方が痛むので小言の一つでも言ってやろうかと
彼を見上げると、真剣な顔で俺の後について離れるなと
忠告された。
どういう意味だろう、と思ったものの。その言葉の意味をすぐ理解する。
魂を追いかけた先は裏路地のような薄暗い場所で、まばらに居る人達は
みんな悪そうなお兄さん方ばかりポツポツいらっしゃった素敵なたまり場だった。
その中を幽助の背中にピタリとついて、内心ドキドキしながら通り過ぎたが
彼らの視線は私達に注がれなかったので、安堵し息をもらした。
「それにしても、この中の誰があの子の魂をとったのかな」
お互いキョロキョロしながら進んでいく。先に追いかけていた幽助もさぁなと
険しい顔を崩さなかったものの、歩調を緩めて私をピタリと背中につけたまま進んでくれた。
そんな男らしい優しさと男性になりつつある少年の背中に少しドギマギしながら
いないなぁと誤魔化すように視線を泳がせる私。
ふと、何かに目がとまった。幽助はまだキョロキョロしている。
彼より少しだけ霊力がある私にはハッキリ見える。だって、あの
大柄な男性……モロ頭からツノ出してんだもん。
これがコミケならリアルな鬼コスじゃんとテンションがあがっただろうが
ここはコスプレ禁止ゾーンみたいな扱い……というか、まぁ普段からコスする人はルール違反だからとか
色んなしょーもないオタク知識が脳内を駆け巡る中、どんなに目をこすってもやはり見えるので
ちょいちょいと幽助の背中を引っ張り、視線の先を見るように促した。
すると少年も男の頭にツノを見つけて驚いた顔をする。お互いに見えてるよねと確認しあうと
あの人が魂を盗んだ犯人かと考え込む私をよそに、少年がポケットからモノクル(片眼鏡)のようなものを取り出しのぞき込んだ。
あ、霊界アイテムだと瞬時に気付いたものの借りパクしていたものがあったので黙っておく。
「やっぱりあいつだ。ポケットに餓鬼玉があるぜ」
小声で耳打ちする少年にマジかとさっそく奪われた一つ目のありかに心踊るも
あの男性のがたいのよさから戦闘は避けられないなと苦い気持ちになる。
目線の先の男は退屈そうに大きな
欠伸をすると、裏道の方に入っていった。
「あっ……追いかけなきゃ」
逃してはいけないと追いかけようとするも、私達はふと誰かに呼び止められた。
「兄ちゃん金貸してくれよ」
「えぇっなになにこの人達!?」
「今はそれどころじゃねぇんだよ」
幸いにも幽助の姿しか目に入っていないのか、あっというまに強面の人達に囲まれていく。
確かにそれどころじゃないのに!?ああ、私だけでも追いかけた方がいいかな……とハラハラしていると
あっという間に幽助がパンチで囲んでいた人達を倒してしまった。
「へぇ〜。不良だとは思ってたけどこんなにケンカ強かったんだねぇ」
感心し何なら小さく拍手すら送る私に少年は恥ずかしそうに咳をし男を追うぜと行ってしまった。
「あっ、待って一人じゃ危ないって〜」
確かに人間相手にアレだけケンカの腕がたつなら自信があるのも分かる。
でも幽助は知らないだろうけど、人間以外だとそうはいかないんだってと
忠告したいような、久しぶりの戦闘に泣き言を言いたいような気乗りしない気持ちで追いかけた。
こんなことなら、武器とか装備整えてくれば良かったなと脳内でエルシャダ○のそんな装備で大丈夫か?が
煽るようにループするのを振り払うように頭をふる。
ふと視線をあげれば、奥の方で誰か人影がちらちら動くのが見えた。
誰かもめてる……。幽助に続いてついていった先では森が広がっていたが視線の先の開けた場所で
どうやら3人ほどだろうかと思われる人影が揉めていた。
二人でそっと近づけば、Bingo!(あたり)
アレが宝を盗んだ例の盗賊とやらだとお互い目配せで察する。
「よし、じゃあタイミングをみはから「ちょっと待てぇ〜!!」…え?」
隣に居た幽助の大声に安定のビビりを見せながら、私を置き去りに前に出ていく彼にキョトンとする。