二人ぼっちの帰り道
帰り道、相変わらず気まずすぎて吐きそうだった。
送っていくと言い出したにも関わらず無言を貫く少年に
いや、せめて何か気を利かせて少しは喋る努力とか
こう・・・・・・今の無音の空気感を変えてほしいと願うも
はたと彼にそういう一般社会の気遣いを求めても
無理だなと諦めた。
仕方がないので居たたまれずに、痛む胃を押さえながら
チラチラ横顔を見つつ話しかけてみる。
「きょっ、今日は勉強会の場所を貸して頂いて
ありがとうございました」
強制参加だったことは飲み込みつつも
確かに自宅より勉強がはかどったのも事実である。
勉強中の雲雀さんの圧力もすごかったが
人と群れない主義の割に教え方は意外と丁寧で分かりやすかったので
今回のテスト範囲で出そうな数学の一番苦手な部分は
なんとなく理解することが出来た。
「雲雀さんはそういえばテスト勉強出来なかったですよね」
私に教えていたせいでと謝れば
ちらっとこちらを見た後、さらっと毎回テストは
受けないと回答がきたので面食らう。
まぁ教員全員怯えているらしいんで
あながちはったりでもなさそうだけどさ。
私がよほど百面相でうなっていたのか
少しムッとした顔で失礼なこと考えているでしょと
痛いところを突かれて慌てて濁す。
「僕がテストをうけないのは、やっても無意味だからだよ」
君が失礼なことを考えていそうだから言うけどと付け足す彼に
どうして無意味なんですかと問いかけた。
「だって全部100点だから」
しれっと何食わぬ顔で呟いたが、もしそうだとしたら
いくら公立の並盛中とはいえ、かなりの天才児だ。
はじめは応接室でテストを受けていたらしいが
あまりにも満点が続くので本人も途中から
うけなくてもいいんじゃないかと思い至ったらしい。
そんな理由でと半ば呆れるも、10分くらいで解き終わって
後は暇な時間だとしたら確かに退屈かもとそこには少しだけ同情する。
「でも内申とかに響かないですか?」
進学とかにも影響がと続ければ、フッと彼はまるで
おかしな生き物でもみるように笑った。
「僕は進学したい時にするから関係ないね」
こいつ自分の価値観でしか生きてねぇと呆れつつ
そうですかとしか言えないヘタレな私。
「でも、雲雀さんが進学するのはあまり想像できないですね」
彼が真面目に高校や大学を出て、就職したりする未来が一ミリも想像できない。
むしろそのまま不良街道をつきすすみ、裏社会編が始まるか
あるいは逆に仕事せずぶらぶら並盛を練り歩いて
誰彼かまわずかみ殺してそうな・・・・・・ってそれ今と変わらないし
なんなら学生という肩書きからニートになって余計にまずくないかそれ。
「君は・・・」
考え事をしている間にだいぶ歩いていたようで
もうそろそろ家に着きそうな頃合いに
少年がふと声をかけてきた。
「高校には行くのかい?それとも、そのままマフィアになるの?」
何の究極の二択だよと思いつつも
確かに前々からぼんやりと懸念していたことなので
不意につかれてドキッとする。
考えないようにしてたのになぁとため息をつくも
どうしようかと足下から空に視線をうつした。
あまり街灯のない道を歩いているので星空が
いつもより明るくきれいに見える。
ずっと見ているとなんだか吸い込まれそうで
そして自分自身もなんてちっぽけな存在なんだろうと
少し悲しいような複雑な気持ちになった。
宇宙から見たらちっぽけな私が
こんなふうにもがいたり、悩んだり
苦しんだり、焦ったりしている姿は
どれくらい滑稽に見えているんだろうか。
「あんまり考えないようにしていたのに
雲雀さんは相変わらず痛いとこ突いてきますね」
ツナ達なら思っていても気遣って
言わないようにしてくれるだろうにと
視線を雲雀に戻して眉を下げれば
現実から目をそらすのが君の求める優しさなら
あいにく僕は持ち合わせていないと肩をすくめた。
「そういう話もね、なんとなく
並盛中での戦いの時に出たんですよ。
このまま日本に残しておくよりも
ボンゴレファミリーの本拠地である
イタリアでかくまったほうがいいんじゃないかって
――でもリボーン君が私の意思を尊重してくれて
とりあえず中学の間は日本に居てもいいんじゃないか
という話で今は落ち着いています」
今が中2なので進路先を考えるのも
日本からイタリアへ行くのかも
そろそろ本格的に考えないといけない時期に
きているということも薄々自覚はしている。
「イタリアに行くことが苦痛というわけではないんです。
ただ、イタリアに行ったら今のこの平和な生活が
崩れてしまわないか心配で」
平凡な日常ですらも簡単に崩れてしまうのにと
八の字に眉を下げながら自嘲気味に笑えば
以外にも彼は否定してこなかった。
むしろその声色には軽く同情すらこもっている。
「僕がムカつく奴をかみ殺して回るのも
全部僕の意思だけど、でもそれを誰かに
やれと言われたら嫌だろうね。
君も自分の意思とは関係なく進む未来に
混乱する気持ちも分からなくもないよ」
ただ、と雲雀は続けた。
「並盛にいる間は、僕が君の安全くらいは
保証してあげてもいい」
だから君は僕の目の届く範囲で
生きていればいいんだと平然と言ってのけるので
赤くなった顔を見られないように
慌てて玄関のドアをあけて家に駆け込んだ。