マフィア式の進路指導!?
あれから家に帰って眠りにつくまでベッドで悶絶した。
雲雀さんに言ったことが頭から離れない。
目の届く範囲に居とけって……何のプロボーズだよと頭を抱える。
頭の中でリフレインする度に頬が熱くなり、心臓がまるで胸を
こじ開けようとしているのかってくらいにうるさくて困った。
結局、いつの間にか寝落ちしてやや寝不足気味で
重い身体を引きずるように登校したのは言うまでも無い。
雲雀さんって本当に急にドキッとすること言うよなぁ。
誰も指摘してこないようなことを突いてくるかと思えば
予想外の言葉を投げてくる。
とりあえず、一日かけて出した答えは、雲雀さんなりの
変わった気遣いということで落ち着いた。
あぶねぇ、私みたいなやつがプロポーズだと調子にのったら最後
並盛中……それどころかSNS中に拡散され……
二度と表に出られなくなっていたかも知れない。
何、勘違いしてるの?きもいんだけど。
頭の中でエアー雲雀さんが綺麗な顔を歪ませて
まるで汚いものでも見るように悪態をつく。
うっと心臓が痛くなるも、ふともう一人の私が待てよとささやく。
これはこれでご褒美じゃないかと。
開きかけた性癖のドアを脳内の妄想雲雀が凄い勢いで
長い足で蹴りあげて強制的に閉じてくる。
もう一人の私はどこかへ飛び去った。
残されたのはただの痛い勘違いオタク女。
慌てて調子に乗りましたすみませんと
即座に土下座してこの勘違い脳内劇場を終幕させる。
「今日の私も最高に気持ちわるいな……」
ははっと乾いた笑いがもれる。
勝手に喜んだり、勝手に傷ついたり……
これって何の病気だろうかと若干不安にもなるが
世のオタクもきっと脳内の妄想くらいするだろうと末期気味な
自分の現実逃避の癖を棚にあげることにした。
ほんと、ある意味で絶好調すぎて笑えてくる。
登校して気だるい身体でだるい授業を乗り切った後
友人から進路をどうするか聞かれた。
やけにタイムリーな話題だなと驚きつつ
悩んでると返す。
「あれ?前、並盛高校の普通科って言ってなかったっけ?」
ああ、そういえば過去の進路提出にも
そう書いていたなと思い出した。
大事な進路なのに忘れていたのかと思われるかも知れないが
部活の強さや制服の可愛さに特にこだわりがない奴は
家が近いだとか、そんな単純な理由なんで仕方が無い。
「そうだったんだけどさぁ……親は女子校とかでも
ありなんじゃないのって言ってるよ」
たいてい父がなんだけど。悪い虫がつくのを恐れてる。
ありえないと否定したが、万が一があると困ると熱弁していた。
母もそれに便乗し、少しでも女らしくなるんじゃないかと希望をこめてと
自分が女子校出身で楽しかったようでやたら推してくる。
「わかる〜、聖並盛女子の制服めっちゃ可愛いよね!!
うち結構ゆるいじゃん?――今更校則キツいとことか
無理なんだけど」
なるほど、確かに私服登校が出来る高校もありだな。
頭の中で校則がわりかし緩いところとチェックをつける。
「はパソコンも得意だし、アニメとかも好きだから
そういう専門学校とかは選択にないの?」
「あー、専門学校系は流石にまだダメって言われたんだよね。
高校までは一応卒業して、その後まだ行きたいならいけばって感じだけど
でもよっぽど行きたい理由がなかったり、入っても努力しないようなら
学費出さないと脅されてるから……悩むよね。
その点、パソコンとか使う商業科とかだったらOKって言われたよ」
でも商業科に行った先輩が資格ばっかり取らないといけなくて大変とか言ってたなぁ。
今の私ってオタ活くらいしかパソコン使わないし。
――バリバリ資格とるメリットがおもいつかない。
ってか、待って……冷静に考えて私、中学まではともかく
高校まで日本にいられるのか?
一人で急に黙り込んで青ざめた私に友人は何かを察したのか
気遣うように、とりあえずもうすぐ進路提出があるよとだけ告げて
自分の席に戻っていった。
授業の予鈴がなる。
はぁ……こりゃあリボーン君に相談だわとさらに机に
突っ伏すように頭を抱えた。
放課後、ツナの家まで行こうか悩んでいるタイミングで
急に校門前に現れた赤子にビビりちらかす。
何でいつも見計らったように現れるんだと突っ込もうとしたが
いや、そもそも二足歩行でスタスタ歩き大人言葉で話す赤ん坊だ。
私の不可能の範疇を余裕で超えてくるのはこれからも変わらないだろう。
「進路のことだろ?」
案の定私が先に話題を出す前にふってきたよ。
「話が早い。どっか座れるとこで話そうか」
………
……
公園のベンチで座り、遠くではしゃぐ子供たちを見ながら
真昼間からリストラされたサラリーマンのごとく頭を抱えて
この先どうすればと情けないが赤子にすがる私。
「俺もそろそろ話をしようかと思っていたところだゾ」
「そっか……あのさ、前に中学の間は日本に居てもいいって
言ってくれたじゃん?――でも、高校まではまだ
確認してなかったからさ………」
居てもいいのと弱々しく問いかければ、リボーンは考えるように黙り込んだ。
その沈黙にダメなんだと青ざめる私を否定するように
リボーンは首を振った。
「違うゾ。これはまだ俺たちも検討中なんだ。
もちろん、ボンゴレ側の希望としては
イタリアの総本部での保護を推してる。
理由はわかるよな?」
「うん。私の保護でしょ」
「そうだ。だが俺たちだって……いや、少なくとも俺はな
ボンゴレに入ることになったとしても、の意思や人権は
今後も尊重していきたいと思ってる」
「リボーン君って…変わってる。
マフィアって普通なら無理矢理拉致ってでも連れていったり
こっちの意思とか希望って聞かないもんじゃないの?」
フェミニストだから?と問いかければ
そんな単純な理由じゃねぇと苦笑された。
「チンピラみたいに振る舞うのは簡単なんだ。
人間は落ちるとこまで落ちるのは案外楽なんだゾ。
他の奴はどうかはしらねぇが、ボンゴレには
品格まで捨てちまった奴はいらねぇ。
少なくとも、俺や上層部はを奴隷としてじゃなく
仕事のパートナー、仲間として接していきたい」
「ただ、骸の襲撃やヴァリアーとの
いざこざがこうも立て続けに日本で起こるとな。
今まではツナ達でもどうにかしのげてきたが
今後どうなるかの保証はどこにもねぇ」
リボーンの言いたいことはもっともだ。
日本に残してあげたいけれど、今後もし
あんな風に大きな戦闘や襲撃が日本でないとも言い切れない。
今日まで私が無傷だったこともある意味奇跡で
次はないのかも知れない、そう考えなかったわけでもない。
ただ不確かな襲撃に怯えてイタリアに行くことから目を背け
私は安全と言い切れないままの日本にとどまることを優先した。
「ちなみにもし、イタリアに行くとしたら
もう日本には……並盛には戻ってこれないの?」
家族はどうなるのだろうか、不安でスカートの上においた拳を握りしめる。
帰れねぇってことはねぇよとリボーンは笑った。
そしてすぐに真剣な顔を作る。
「あくまでも俺の希望は中学を卒業したらイタリアに発つことだ。
その後、とりあえず身柄はボンゴレで保護する。
ただ護衛はつけるが、基本的に外出も自由にしていいし
何ならあっちの高校にも通っていいぞ」
思ってもみなかった回答に面食らう。
イタリアに行ってもそこそこ自由は保障されているのに驚いた。
確かに、その自由さがあるならもっとカジュアルな気持ちで行くべきなのかも知れない。
でも、まだ正直今の私からすれば不安なことだらけだった。
「高校に行けるかって不安もあったんだけど一番は家族と離れるのが辛い。
それに言葉の壁も心配だよ……だって、イタリア語なんて話せないし。
あと、日本の暮らしに慣れた私がイタリアの暮らしに馴染めるかも分からない」
不安をぶつける間、黙って聞いていたリボーンが一つずつ答えていく。
「まず家族と離れる辛さはある程度慣れてもらうしかねぇ。
それか、家族ごとイタリアに越してきてもらうかだな」
言語についてはイタリアでも田舎でなければ英語も通じやすいことや
衣食住も全て保証するし、ボンゴレに所属中は給金も出るらしい。
またイタリア語についても教師をつけたり
語学学校に通う負担もしてくれるらしい。
文化に馴染めるかどうかは実際に過ごしてみてからしか分からねぇなと言われた。
家族まで引っ越す費用や住居、衣食住の保証をすると
かなりの好待遇に、大丈夫かと問えば
これからファミリーになるんだ当たり前だと男前な発言を
さらっと返され思わず胸キュンする。
ビアンキさんが惚れる理由がわかる。かっけぇ。
「まぁ、でも俺も今はイタリアより日本が長いしな。
別に行き来すればいい話だし……それに、こういうのはまず
一回体験してみなきゃ分からねぇだろ……。
そうだ……もうすぐ夏休みだったよな?」
ああ、そういえば後1ヶ月後くらいにはそんな時期だったなと思い返して
リボーンを見やればニヤリとニヒルな笑みを浮かべていてヒュッと肝が冷えた。
「夏休みの間だけでもイタリアで暮らしてみればいいんじゃねぇか?」
嫌だと即答しようとしたが、案外悪くないかもと思ったので
とりあえず考えさせてと即決せずにその場はお開きとなった。
………
……
公園で謎の打ち合わせというか相談というか、密談というか
とにかく赤子と話し込んだ後、日が暮れる前に解散になり帰宅路を歩く。
並盛きてまだ1年経つかなのに、今度は外国にいくのかとうなだれるも
考えようによってはバカンスと思えば悪くはないのかも知れない。
世界の観光地ランキング常に上位のイタリアだ。
ピッツァやパスタも好きだし、お昼寝の文化も最高じゃないか?
「イタリアか……日本から飛行機で何時間かかるんだろう」
帰ってググろうと思った瞬間、真後ろから降ってきた低音にびびる。