「よし、クロームちゃんはまず過去の定期テストの問題を解いてみよう」

とりあえず自分がまずどこが出来て、なにが苦手なのかを把握しなければ
テスト対策なんて厳しい。もちろん、出てくる範囲を全部できればいいんだけど
全教科テスト範囲をみっちり勉強して覚えるなんてさすがにこの短期間じゃ無理だ。

みんなでテストまで泊まり込みで勉強合宿でもすればどうにかなるかも知れないが
この家に泊まれる勇気を、恐らく山本以外持ち合わせてはいない。

私と山本はまず一番苦手な数学の勉強から始めた。
ツナは全教科オール満点の獄寺に付き合ってもらっている。

雲雀さんも大人しく参考書をペラペラめくって読んでいるので
ひとまず平和な空気に安堵した。

最初なんて乱闘でも起こりそうなほどピリピリとした空気で
マジで緊張しすぎて吐きそうだった。

クロームちゃんが過去のテストを全教科解き終えたと声をかけてる。
じゃあ自分でチェックしてみてと答案用紙を渡せば
ものの五分程度で終わったと帰ってきてビックリした。

「早いね!!もしかしてほぼ満点だったりし……あ」

手渡されたので茶化しながら受け取ると、半分以上の白紙に面食らった。
後ろからのぞきこむツナ達も呆気に取られている。

まず中1までのレベルの問題はかろうじて解けているが中2の範囲がほぼ全滅だ。
思い起こされるのが彼女のリーダーである骸。
きっと彼は仲間に勉強しろよなんていうタイプじゃないよなぁ。

案の定、中2なんてほとんど学校に行けていないので分からないと言われた。
ま、まぁそれでも自頭は悪くないのかツナのように全部全滅というわけでもないけど。

数学が一番悪く5点で一番良い国語でも20点か……。

ちなみに並盛の赤点ラインが25点。50点満点なのでかねがね半分と言ったところ。
うちの中学が30点。進学校ということもあってか、50点満点なのに
他の中学より少し高めに設定してあると同級生で私と同じような赤点組が嘆いていた。

黒曜中の赤点ラインも並盛と同じように25点らしい。

なので私は数学と理科、社会を後10点〜20点ほどあげる必要があり
クロームちゃんは下の数学に合わせれば全体的に20点くらいはあげた方がいいだろう。

「あー、数学が」

頭を抱えていれば耳元でどこが分からないのと低い声で聞かれて
思わず飛び上がった。

いつの間にか横にいたはずのクロームちゃんが獄寺のところに移動している。
変わりに雲雀さんが隣に来ていたのでビックリした。

失礼だねと笑う彼に、バクバクする心臓を抑えながら横に腰掛ける。

「えっ…えっと……ここと…」

「分かった。全部ね」

ほぼ全範囲指さしたので、帰ってくるため息まじりの呆れたような声に
しょうがないと呟いた。

「小学校の段階でつまずいてるんですよ、こちとら」

数字の掛け算のあたりから怪しかった。
分数が出てきた当たりでもうついていけない。

なぜこんな奴が並盛の進学校にと思われるかも知れないが
しょせんは帰国子女枠である。深く考えたら負けだ。

ちなみに他の帰国子女枠の子もいたが、みんな頭がいい。
つまりは……まぁ……あ、やばい考えるとつらくなるからやめよう。

数学と理科は10点台で社会が29点で惜しかった。
他の国語と英語では40点以上なのでこの二つは今回はおさらいだけでいいだろう。

「ここの数はここと……」

心地よい低い声を聞きながら解き方を教えてくれる雲雀さんの
真剣な横顔に思わず見惚れてしまった。

色白でまだ青年になりきれていない細身の少年の体に
切れ長の瞳をふちどる伏せた長い睫毛。

ペンを持つ指先のスラリとした長さはまさに芸術品のような美しさで……。

聞いているのと聞かれて我に返る。

「聞いてなかったでしょ?」

あ、えっとと誤魔化す言葉を探していると僕のこと見すぎだよと
耳元で吐息まじりにささやかれてカーっと顔が熱くなった。

雲雀さんの唇がいたずらっぽく弧を描く。
真っ赤な私をからかうようにクスっと笑いながら
赤点回避でご褒美あげるとまた囁いた。

いらないと言おうとしたが真っ赤な顔で鯉のように
口をパクパクするしか出来なかった。

そんな少女の様子にまた悪戯っぽく少年は笑うと
ほら集中してとテスト勉強に引き戻した。

………
……

「終わった〜」

とりあえず、皆で集まってから4時間が経過した。
壁に掛けられた時計が午後7時をさしているので
そろそろお開きにしようとツナが言った。

あんまり遅くなると女の子がとどうやら
クロームと私を心配してくれているらしい。

私は大丈夫と言いかけてクロームちゃんに気づいた。
そういえば彼女はこれから一人で黒曜ランドまで帰るのか。
結構ここから歩いて30分以上かかるんだけど大丈夫かな?

案の定ツナがクロームに視線をとめ、帰りは大丈夫かと訪ねた。
一人でも大丈夫と真顔の彼女に少年が慌てて首をふる。

「ダメだよこんな時間から女の子が一人で!!」

私もツナの言葉にうんうんうなずいた。

「俺が送ろうか?」

山本の言葉に、クロームも驚きつつ軽く頭を下げる。

「でも、山本の家が一番黒曜ランドから遠いんじゃ?」

「大丈夫だって!!最近運動できてねぇから
帰りは走って帰るからよ」

確かに運動神経抜群の足なら帰りでも15分程度で帰れるだろう。
獄寺でもツナでもよかったが、先に名乗り出てくれたので彼に任せることにする。

「じゃあ俺と獄寺くんでを…」

ツナの言葉を遮るように少年が立ち上がる。

「僕が送ってく」

なんでという言葉を飲み込んだが、ツナは突っ込みたかったらしい。
案の定、雲雀さんになんでと突っ込んで詰められていた。

「ダメなの?僕が呼んだんだから僕が送るのが礼儀だよね?」

そうやって脅し……もとい言われてはツナもヒッと息を飲むだけで
何も言い返せない。

獄寺は十代目に何ガンつけてんだとブチ切れ
山本はよかったなとキラキラした笑顔で笑った。

痛み出す胃を抑えてありがとうと苦笑いする。

こうしている間にも時間は過ぎていくので
皆も参考書やプリント類をリュックに詰めて勉強部屋を後にする。

また集まろうぜと帰り際、玄関前で山本に言われて
ツナと私はハハッと乾いた笑いしか出なかった。

とりあえず全員解散して、ツナと獄寺、山本とクロームちゃん
そして雲雀さんと私はそれぞれの家に向かい歩き出した。
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