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自分の立ち位置を改めて確認できた祝勝会から3日が過ぎた。
あのリング争奪戦がまるで嘘だったかのように、私達は各々
一時休止していた日常生活を送り出していた。

それこそ全員例外なく学生のため、グループLINEで
やり取りする限りでは、多くが休んでいた分を
取り返そうと頑張っているらしい。

「はぁ〜今日も疲れたぁ」

たまっていた小テストや提出物の山がやっとひと段落して
学校が終わり、委員会も特にないので自宅へと戻る。

いつもの通学路ではなく、今日はなんとなく並盛商店街を
通りながら、そういえばリング争奪戦の前にも
ツナ達とこの商店街で出会ったことを思い出した。

そっか……アレが始まりだったんだっけ。

改めて振り返ると、すごく遠くに感じるけれど
日付にすればほんの少し前なんだよね……スクアーロに襲われたのは。

偽のリングを奪われボロボロになったバジル君。
ディーノさんに助けられて命拾いをした思い出がよぎる。

リング争奪戦、あの時はもう二度とこんな日常どころか
日本からイタリアに行かないといけないかもと怯えていた。

いや、まぁいつかリボーン君の話だとイタリア行きは確定らしいけどね。
でも私が、納得しないなら強制はしないらしいので安心する。

もしあの試合で負けていれば全員命はなかっただろうし
私なんて無理やりイタリアに連れていかれて
精神がおかしくなっていたかも知れない。

そう考えると、疲れる学校の課題ですら愛おしい。
平和だからこそ味わえる疲れなんだよなぁ。

そういえばあの後、クロームちゃんはどうなったんだろう?
まず祝勝会で出会ったメンバーはもれなくほぼ全員が
LINEに登録してあるので、近況は把握できている。

あの日来なかった雲雀さんですらツナ達からそれとなく
LINEをとおして情報がくるので(相変わらず噛み殺して回っているらしいが)
そういう点では雲雀さんの近況も何となく把握できているでいいだろう。

ところが、クロームちゃんはリング争奪戦以降すっかり音沙汰がない。
リボーン君にサラッと聞いてみれば、並盛にはいるらしい。

あまり彼女について知らないが、ほぼ同世代で
守護者の中では同性同士だ、仲良くなれるならなりたい。

考え事をしながら歩いているので
前方の人影に気づかずぶつかってしまった。

「すみませっ……あ!?」

こういう時の偶然って、誰かが私の人生を操作してるのかって思うよね。
今まさに目の前に買い物袋を抱えたキョトン顔の美少女こそ
どうしているのか気になっていた人物。

「くくくっクロームちゃん!?え、なっなんでここにっ
じゃ、じゃなくて……心配してたんですよ!!」

「あ、……さんだっけ?」

なんで心配と聞かれたので、人が往来する商店街のど真ん中ではアレなので
とりあえず、近くのフリースペースに置かれたベンチまで行って腰掛ける。

「あ、荷物重そうだから隣においても良いですよ」

「ありがとう」

小さくはにかみながら、大きな袋を丁寧に座ったベンチの
開いているスペースに少女は置いた。
こんなに沢山なんだろうとのぞけば、大量のお菓子の山。

こんなに細いのに、お菓子いっぱい食べるんだなぁと関心しつつ
ハッと思い出したように我に返って少女に詰め寄る。

「そっそうだ!!心配してたんだった!!
――あのリング争奪戦の後どうしてたの?」

気になっていた質問をぶつければ、あぁと心配の意味を
納得したような返事を返した後、ケンと千種と一緒だったと答えた。

「よかった、三人とも健康なんだね。
あの後、ちゃんと休めただろうかとか……そもそも
クロームちゃ…さんは学校に行けたのか心配だったんだよね」

自分の中でだけ呼んでいたちゃん付けがうっかり口から出かけて
慌ててそらすように、早口でまくしたてる。

「学校は……今は休んでる。もともと黒曜中は
骸様が一時的に拠点にしていただけだから……」

「そっ、そっか……。でも、私が言うのはなんだけど
中学校までは出てた方がいいから、きっかけは骸でも
通った方がいいと思うよ」

少し迷っているような素振りだったのでついアドバイスしたものの
固まってしまった彼女に、お節介だったかなと後悔する。

「そんなこと言ってくれる人はじめて。
さんが言うなら……行く」

あ、よかった。固まったのは驚いただけだからか。
あまり表情を崩さない彼女も少しだけ笑みを浮かべた。

「そういえば、三人は一緒に住んでいるんですか?」

一軒家やアパートにでも暮らしているのかと考えていたが
黒曜ランドで暮らしてると帰ってきて驚いた。

「そっそれは……暮らしているというより
エブリデイ肝試しでは……?」

黒曜ランドって前も行ったけど廃墟になってるとこだよね……。
あんなところで暮らせるんだろうか?
いっいや、まぁ雨風はしのげるだろうけど
防寒具どころか寝具もろくにないだろうし
そもそも料理とかどうやっ……あ。

先ほどの紙袋が目に入る。

「あの……まさかだと思うんだけどさ
そのお菓子の山が三人のご飯ってことない…よね?」

少女は紙袋に視線をおとして、あぁと納得した声をあげ
可愛らしくまっすぐな瞳でうなずいた。

ショックが走るとはこのことだろう。
成長盛りの少年少女が不摂生極まりない食生活かつ
ほとんど休めない廃墟暮らしかと思うと眩暈がする。

「それで連れてきたびょん?」

ケンの冷ややかな視線を受けながら、あの後商店街で買った
大量の缶詰とレトルト食品を持参しクロームと共に黒曜ランドに向かった私。

「うっ……気にしない気にしない」

真後ろからガンつけられるのにビクビクしつつも
どこかで聞いた受け売りの食育を懇々と説いていく。

「三人とも成長期なんだから、お菓子はおやつならいいですけど
あんまりご飯代わりにしないでください!!
と言っても……廃墟だから調理できないと思うんで
火を使わずにそのまま食べれるレトルト食品を今日は持ってきました」

流石にそのまま缶詰や袋からダイレクトに食べろとは言えないので
一緒に購入した紙皿に割りばしで三等分にのせていく。

「ご飯は主食となるお米…がないのでパンにしました。
他に食事には主菜と副菜があるといいので
今回はサバ缶とカットサラダも用意しました!!
後は、あったかい汁物も欲しいかなと思ったので
自販機で買ったコーンポタージュもどうぞ」

盛り付けが完成していくと先ほどまでガンつけていたケンも
流石にお腹がすいていたのかおとなしく床に座って食べ始めた。

クロームも小さくありがとうと呟いて食べはじめる。

「ごめんね、冷たいままで」

本当は暖かいものを食べさせたかったんだけどと声を落とせば
火が使えればいいのかと問われたので頷く。

「カセットコンロくらいあればお湯も沸かせるし
キャンプ用の飯盒はんごうでお米も炊けるよ。
あと、簡単に調理もできるしね」

「そう……」

千種が考えこむと、ちょっと待っていてとどこかに行ってしまった。

「急にどうしたんだろう」

さぁと残されたクロームとケンも知らないように首をかしげた。
どうやら別に三人つねに行動する必要もないし
骸の命令がない間は、自由にしていていいらしい。

二人が食べ終わる頃、大きなビニール袋を引きずって
けだるそうに千種が返ってきた。

私達の前まで引きずってくると、ビニール袋をあさり
無造作にこれと何か投げた。

「こ…これカセットコンロじゃん……!?」

どうしてと驚けば、どうやら以前ここの廃墟に暮らしていた人や
肝試しで訪れた人たちの落とした物をビニール袋にまとめていたと説明した。

「いつか使えるのあるかな…って」

「おお!!でかしたびょん!!
おい!!ブス!!今日からお前が料理するびょん!!」

「え……無理、やったことない」

カセットコンロがつくのを試しながら
三人の漫才みたいな問答が背中越しに聞こえて
思わず苦笑いがでる。

「よし…まだ使える。よかった。
りょ……料理に関しては簡単なのなら教えられるから」

後は、寝具もあるといいなぁとビニール袋を探れば
ちょうど3枚の布とタオルが出てきた。

「今日はこれをかぶるか、敷いて寝るといいよ」

キチンと水でいいから洗ってからがいいけどとタオルを
3人に手渡せば、クロームは相変わらず無表情だった。
ケンと千種は胡散臭そうなものを見る目で睨んでくる。

「どうしてここまでするの?」

探るような千種の一言にドキッとする。

聞かれるかなとは思っていたけれど、いざ聞かれると困るなと
内心苦笑しつつ、困ったような笑みをうかべて
「昔から困っている人がいたら助けなさいと教わったからかな」とだけ答えた。

「ふーん。お人よしなんだね」

「まぁ見ようによってはそうだし……普通は何か裏があるのかって思うよね。
でも、私が例えば知らない人たちがどこかで苦しい生活をしていたとしても
普段は何とも思わないし、考えたこともあまりないんだ。

ただ、皆はもう知ってしまった。知っているから余計に
もし放っておいて何かあったら、自分を責めてしまいそうなんだよ。

だから、これはある意味…自分のためでもあるのかな」

しばらくもう少しだけ心配だからお節介をやかせてと頼めば
ケンは照れたように、千種は興味なさそうに
そしてクロームは少し嬉しそうに微笑んだ。 Page Top Page Top