「礼を言いに来た」

はれた爆風の中から出てきた厳つい男に面食らう。
状況的に見て彼がヴァリアーの精鋭部隊を倒した本人だろう。

「ランチアさん!?」

ツナが驚いたように声をあげる。
ツナ以外にもその名前に心当たりがあるのだろうか
私以外はザワッと波打ったように騒ぎ出した。

て、敵かと思ったぁ。
安心してホッと一息つきながら
ディーノさんの手を借りてヨロヨロと立ち上がる。

「北イタリア最強と恐れられた……
ファミリー惨殺事件のランチア」

前言撤回。隣でボソッと呟いたスクアーロの言葉に
声をあげずに心の中で悲鳴をあげる。

またヤバい奴がきたと頭の中でサイレンが鳴り響いた。

なんでそんなヤバい人がここに!?
ってそれだけじゃないよ!!
ツナもなんか知り合いぽかったよね……!?

ツナ……本格的にもう一般人に戻れなくなってるよ。

「とっととすませるか」

倒れたツナへとベルがナイフを放った。
しかしすぐに山本の刀がそれを弾く。

「山本!!」
「させねぇよ!!」

チッとベルが舌打ちすれば、マーモンも焦ったように幻術を出そうと構えた。
しかしすぐに悲鳴をあげながら、地面から放出された炎の柱に呑まれた。

三つ又の槍を構えたクロームがマーモンが幻術を放つ前に
幻術で攻撃したのを数秒遅れて理解する。

急すぎる幻術攻撃と断末魔のごとく叫んで炎にのまれたマーモンは
正直心臓にくる。ビックリしすぎて心臓が痛い。

「ねぇ…決着つけようよ」

その声に、言葉に……幻術よりもさらにヒヤッとした。
生きるサイヤ人雲雀さんが戦闘を逃すわけなかった。
ちゃっかり参戦して、ザンザスにまたケンカ売っているのに呆れる。

でも、よかった。皆ボロボロだけど無事で。
それにヴァリアーの精鋭部隊がくるという知らせを聞いた時に
無意識でもうダメだと諦めていた自分が恥ずかしかった。

誰も負けだなんて思っていない。
最後までみんな諦めていない。

しばらくにらみ合いが続く。
沈黙を破ったのは、金属が地面に転がる音だった。

「ダメだこりゃ」

「ボス……ここまでのようだ」

ベルがナイフを捨て、降参と軽く両手をあげる。
殺気を出しながら威嚇し、今にも幻術を出してきそうなマーモンも
諦めたようにスッと身を引いた。

しかしザンザスだけは地獄に叩き落としてやると叫ぶ。
倒れながらも放つその恐ろしい殺気や執念にビビった。

「リングの秘密を知っていたら……ザンザスは
ボスの座をあきらめていたと思うか?」

モニターから出るザンザスの声を聞きながらスクアーロが呟いた。
その表情はうつむいて見えなかったけれど、なんだか少し哀愁を含んでいた。

「どうかな…」
ディーノもどう答えていいのか分からずにうつむく。

「私は……諦めなかったと思います」

スクアーロがハッと視線をこちらに向けた。

「あれだけボスへの執着があるんだったら
きっとルールなんか変えてでも……ボスになろうと
あがいたと……思います」

その結果がボスになれるかは分からないけれど。

「ああ……そうだ!!あいつはより怒りを燃やし
掟ごとぶっ壊したはずだ!!」

少女の言葉を肯定するようにスクアーロが叫んだ。

その叫びには彼自身も、ザンザスに対してそうであって欲しいと
願うような気持ちが入っているようにも聞こえてむなしかった。

だって、それくらい覚悟をもっている人にしか
彼だってついていきたくないんだとなんとなく思う。

それは身勝手な崇拝心。
そしてそれをザンザスは裏切らずに野望に燃えて進んできた。

それを考えれば考えるほど、14の私には分からないし
なんだか虚しくて寂しいなと思ってしまう。

「これでガキ共はこちら側の人間だ。
――いずれ後悔するだろう。ここで死んでおけばよかったとな」

警告めいたスクアーロの呟きにビクッと驚く。
めっちゃ怖いこと真顔で吐いてきたんだけど。
大人げない……勝っておめでとうは望まないから
そういうフラグめいた意味深な発言は黙っててほしい。

「ザンザス様……貴方を失格とし
ボンゴレリングを没収します」

相変わらず淡々とした口調だったが、ザンザスは観念したか
それとも反抗する気力すらないのか静かに目を閉じた。

ザンザスの意識がとぎれたことを確認したのちに
会場中に女のアナウンスが響き渡る。

『それでは、リング争奪戦を終了し
すべての結果を発表します。

ザンザス様の失格により、大空戦の勝者は……沢田綱吉氏』

誰もが無言だった。けれどその熱気や興奮が体から伝わってくる。
皆の表情は明るく、達成感で満ちていた。

それを一同で見合わせながらついにやったんだと改めて実感する。

「勝った……私たち勝ったんだ!!」

『ボンゴレの時期後継者となるのは沢田綱吉氏と
その守護者六名です!!』

私たちはその宣言を噛み締めた後、気絶したツナを
家に運んで解散することになった。

長いようで短かった守護者の対決が幕を終えた瞬間だった。 Page Top Page Top