仕組まれた攻撃
しかしモニターのザンザスはスクアーロの言葉すら
くだらないと吐き捨てる。
その言葉にカチンときた。
どんな思いで……こんな思春期をこじらせたみたいな
反抗期のために命がけでついてきてくれたのに
そんな言いぐさって……!!
「九代目が……」
怒りで熱があがる頭を冷やすような淡々としたアルトボイスにハッとする。
「九代目が……九代目が裏切られてもお前を殺さなかったのは
最後まで…お前を受け入れようとしていたからじゃないのか?」
ツナの言葉にハッと息を飲む。
確かに、最初は優しそうな九代目だからきっと殺せなかったんだと思った。
けれど、違う……そんな単純な理由じゃない。
ツナの言うようにあの人はきっと自分が殺されそうになっても
最後までザンザスのことを見捨てられなかったんだ。
「九代目は…」
ツナのまっすぐな瞳がザンザスを射抜く。
「誰よりもお前を認めていたはずだよ」
「ツナ…」
ザンザスの瞳が揺れていた。
まるで迷子の子供みたいに……。
「九代目は…お前を本当の子供のように…」
「うるせぇ!!」
ツナの言葉を遮るような、ザンザスの叫びが響く。
「気色の悪い無償の愛など……クソの役にも立つか!!
オレが欲しいのはボスの座だけだ!!
カスは俺を
崇めていればいい!!」
今までは自己中心的でワガママだなと思ったが、スクアーロから聞かされた過去からすれば
こんな風に育っても仕方がないのかも知れないと少しだけ悲しくなった。
「オレを
讃えていればいいんだ!!」
ザンザスの叫びだけが夜にこだまする。
誰も同意も、そして……可哀そうな生い立ちを
顧みても
ここまでのことを仕出かした彼には同情する気も起きなかった。
ただ単純に、どうしてそこの道に行ってしまったのかという悲しさ。
世の中にはつらい過去を持つ人はたくさんいる。
それでも現実を受け止め、よりよい未来を作るための
努力を惜しまなかった人だっているんだ。
彼は病気知らずのめぐまれた身体、高いカリスマ性を持ちながら
自ら悪い道へと落ちてしまった。
それを良い方向に向けていたら彼が殺してきた人よりも
たくさんの人を救えたかもしれない。
ザンザスの指からリングが抜けたころ合いを見計らってか
チェルベッロの二人がザンザスに駆け寄った。
「貴方にリングが適正か……協議する必要があります」
よかった。キチンと審査してくれるんだと安心したのも束の間
ザンザスが叶わないなら叶えるまでだ、とトンデモナイ言葉を吐いた。
「むっ…無理やりすぎる」
しかしヴァリアー側はそうは思っていないらしい。
ベルやマーモンがザンザスを庇うように武器を構える。
「さっ…最初から力づくで奪えばいいと思ってたのか!!」
しかしうちのチームだって黙っているわけにはいかない。
空中から飛んできたダイナマイトが地面で
威嚇するように弾けた。
「どこまで腐ってやがる!!」
爆薬の煙がはれた後には、獄寺を筆頭に
了平、クローム、山本が武器を構えていた。
「みんなっ無事だったんだね!!」
「おう!!」
「心配かけたな!!」
皆の笑顔に、少しだけ安心した。
しかしすぐに気を引き締める。まだここは戦場。
ヴァリアー側のボスがダウンしているのに余裕そうな仕草も引っかかった。
「お前らがかかってきたところで…百パーセントあの世ゆきじゃん?」
ベルの言葉に獄寺がかみつく。
「てめぇ見えてねぇのか!?――2対5だ!!
分が悪りぃのはそっちだぜ!!」
「2対5?――君たちの相手はこの何十倍もの勢力だ。
総勢50名の生え抜きのヴァリアー隊が
間もなくここに到着するのさ!!」
「なっ…」
「50…?」
「どういうことだ!!」
「ボスは勝利後…今回の件に関わりのある
全ての者を片づける要員を日本に呼んでおいたのさ♪」
頭がクラクラしてきた。
え、この流れで行くとザンザスは守護者だけじゃなくて
リボーン君達も皆殺しにする予定だったってこと?
あまりの恐ろしさに膝から力が抜けそうになる。
勝負の勝敗を気にしていてすっかり考えていなかったが
私は負けた後、もちろん勝った後のことなんて考える余裕すらなかった。
てっきり勝てば全て終わりだと……。
でも、勝っても相手が認めないとごねてきたら?
相手がさらに戦いを仕掛けてきたら?
そんな最悪が今まさに起ころうとしている。
満身創痍の学生と他のメンバーはもちろん戦闘力は高いだろうけど
それでもヴァリアーの幹部に次ぐ実力者50名が
同時に攻撃してくれば勝てるんだろうか……。
流石にここまでの暴挙にでたヴァリアー側は失格とされ
観覧席の赤外線も解かれた。
しかし、一歩踏み出す前にリボーンが特殊ゴーグルをつけ
見えない赤外線が解かれていないことに気づく。
「細工しておいたのさ。まとめて檻の中で消す予定だからね♪」
こっこいつ!!いくら赤ん坊とは言え、やることが残酷すぎて怒りを覚える。
どうやら赤外線の檻は内部から破壊もできないらしい。
本格的に50名のヴァリアー隊が押し寄せてきた後は
檻の中にいるリボーン君達の助けは借りられそうにない、
キッと赤ん坊を檻から頭上のモニターを睨みつけるように見上げれば
コチラの視線が通じたのか、はたまた偶然か
私は檻の中から後で出してやると笑った。
もっとも、暴れれば1,2発打ち込んでからだねと続けた。
「シシッ♪ナイスタイミング!!」
ベルの言葉に振り返れば、怪しい黒服を身にまとった男女の姿。
あれが……ヴァリアーの精鋭!!
どうか、無傷はダメでもせめて無事でいてくださいと祈ることしか出来ない。
これ以上みんなが傷つくのを見ていられずに目をつむった。
数秒後に響いた爆発音にビクッと身体を揺らす。
お願い!!どうか神様!!皆をお守りください!!
ゆっくりと開けた目に映ったのは倒れたヴァリアーの隊員だった。
「祈りが……届いた」
薄めを見開いて、モニターを隅々まで見渡す。
「みっ…みんなは!?」
煙の向こうから皆の姿が見えた瞬間、安心して力が抜けた。
「おっと!!大丈夫か!?」
尻もちをついた私に駆け寄る青年にまだ血の気の引いた顔で薄く笑う。
「皆が無事でホッとしちゃって……」