マーモンは復活の儀だけでなく他にも何か儀式めいたような仕草で
ザンザスの身体に鎖を巻き付けると、胸の前にボックスを掲げた。

もう一つの手にはボンゴレリングを手にして。

「受け継がれし…ボンゴレの至宝よ!!
若きブラッド・オブ・ボンゴレに大いなる力を!!」

リングをボックスに近づける。カチッとはまる音がした瞬間に
ああ、終わったと絶望をとおりこして諦めに近い気持ちになった。

次々と各守護者のボンゴレリングをはめていく赤子。
ボックスにはまったリングはそれぞれ淡い炎をあげる。

最後に、ザンザスの指へとはめられた大空のリングが光り始めた。
さっきまでの淡い炎の輝きとはくらべものにならないほどの強い光。

それぞれのリングもボックスにはめられたまま、どんどん光を溢れさせていく。

その様子に、皮肉にも死ぬ前に見る世界にしては綺麗かもと
妙に冷めた感覚になった。

指にはめたリングから溢れた光が一直線状に夜空を貫き、まばゆい閃光が走った。
そして次の瞬間には、強い力に突き動かされるように立ち上がったザンザスの姿。

「これがボンゴレ後継者の証!!
ついに……ついに叶ったぞ!!
これで俺はボンゴレの十代目に!!」

しかし言葉とは裏腹に、ザンザスは膝から崩れ落ちた。
突然の出来事に、誰もが何か見過ごしたのかとモニターを凝視する。

「急に苦しみだした……なんで?」

苦しんだザンザスは顔から地面に倒れこんだ。

早すぎる急展開に誰もが訳が分かれずに焦りを隠せない。

「リングが…ザンザスを拒んだ」

ぽつりとつぶやいたツナの言葉に、マーモンが視線が刺さる。

「お前…何か知ってるな?」

ツナにつっかかるマーモンを静止するかのように低い声がいなした。

「さぞかし……いい気味だろうなァ」

ハッとして視線を戻せばゆっくりと立ち上がろうとするザンザスが見えた。
しかし、少年に支えられるもすぐに力が入らないのか座り込んでしまった。

「そうだ……俺と九代目は…ホントの親子なんかじゃねぇ!!」

誰もが息を飲む。予想していなかった男の告白。

ザンザスの言葉に沈黙が走った後、風船がしぼむように
ツナの死ぬ気モードが解かれた。

「ザンザス…」

「同情すんなッ!!」

ツナの言葉を遮るように男は叫んだあと、すぐ視線を落とした。
私たちもそれぞれ居たたまれない空気に無言で視線を交わす。
その視線には試合はどうなるのかや、ツナを助けに行くべきか?
このまま見過ごしていていいのか?と言った様々な思いが絡み合っていた。

『オレには分かる』

突然の声にハッと視線をあげる。
スピーカーから聞こえたのはスクアーロの音声。

『裏切られた悔しさと…恨みが』

その言葉を聞き届けた後、噛み締めるようにザンザスは生きてやがったかと呟いた。

「分かるだと?テメェに俺の何が分かる?」

苦し気なザンザスの言葉が、スクアーロを責めた。

『いやっ分かる!!――オレは知っているぞ!!』

「ふざけるな…なら言ってみろ!!
――俺の何を知っているかを!!!!」

天に向かって……それはまるで神に悪態でもつくかのようなザンザスの咆哮に
スクアーロはギリッと歯をかみしめた後、小さく息を吐いた。

言えないのかと追い打ちを立てるようなザンザスの言葉に
意を決したのか、閉じた瞳を男はゆっくりと開き言葉をこぼした。

『あの日…お前が九代目に氷漬けにされたあの時……
オレにはまだかすかに…意識があった』

その言葉に、今度はザンザスの瞳が見開かれる。

『あの時……お前は…』

スクアーロはあの日の出来事を少しずつ語りだした。
九代目とザンザスとの会話を聞いてしまったこと。

ザンザスがぶつけた本当の親子ではないことや
なぜ時期ボスになれないのかを黙っていたことに対する不満。

聞いていいのか不安になるようなデリケートな問題だったが
決して私たちにも無関係な話ではなかった。

スクアーロはなおも続ける。今度はさらに昔の話。
それはまだザンザスがかなり幼い頃の出来事だった。

『オレはお前のことを調べた。
お前はイタリアの下町で産まれ……産まれながらに炎を宿していた。

全ては貧困がなした技だ。

お前の母親は、お前が自分とボンゴレ九代目の間に
産まれた子供だという妄想に取り付かれたんだ』

そんな……敵ながらあまりにも不憫すぎる事情に胸が痛む。
ザンザスはこのことを知っていたのかと慌ててモニターを見ると
信じられないと言った顔で固まる男の姿があった。

知らなかったんだ……とさらにその事実が胸を締め付ける。
もうスクアーロにここでやめて欲しいと思う反面
それでもこれは聞かなければいけないとどこか感じる自分がいる。

こんなにザンザスは私たちをかき乱した。
その理由の根源に、自分の出自やあらがえない血の定めが絡んでいた。

それは悲しいし、ザンザスの立場なら悔しい事実だと思う。
けれど、それでたくさんの犠牲を出していいわけじゃない。

『九代目と初めて会ったお前が見せた死ぬ気の炎。
それを見て九代目は、お前を自分の息子だと言った。
そしてその言葉を……幼いお前は信じて疑わなかった』

そしてザンザスはその後、九代目に引き取られると
自分が九代目の息子であることを理由に傍若無人の限りをつくした。

『お前は威厳、実力ともに……九代目の後継者として
文句のない男に成長した』

アレが威厳?ただの暴力という名の理不尽じゃと突っ込みたかったが
すごくシリアスな空気なのでやめたし、言って大声で三枚におろすとか叫ばれても
困るので黙っておくことにした。

『だが……ある時、お前は知っちまったんだろう?真実を……』

その時期にスクアーロとザンザスは出会ったらしい。
なんらかの方法で自分が実の息子ではないこと
血のつながりから後継者になれないことを知ったザンザスの目つきが
スクアーロの心を射抜いた。

ぶれない殺意の眼差し。その怒りにスクアーロは惚れた。
そして半年後、あのゆりかご事件が起こる。

「そんな……それであの事件を…?」

震える少女の声とは正反対に、落ち着き払った男の声が答えた。

『これがオレの知ることの全てだ』 Page Top Page Top