復活の儀
「なぜリングを半分ずつ保管するのか……
そして、なぜ…ボンゴレ正当後継者にしか
授与されないのか分かるかい?」
思ってもみなかった言葉に、ツナだけじゃなく
私たちも息を飲んだ。
空中に浮いた赤子。その可愛い口元が歪む。
「それはリング自身にも秘められた力があるからさ♪」
「秘められた……力?」
隣で呟くバジルの言葉、そして黙り込んだ大人や赤子たち。
何故ボンゴレ内で知られていないのか不安を覚えた。
「ボスにかけられた…九代目の零地点突破が
溶かされた床には……七つの小さな焦げ跡が残されていたという」
マーモンの言葉に、ツナは目を見開いた。
七つのリング、溶けた氷。
嫌な予感が全身を駆け巡り、血の気をひかせた。
ザンザスを氷漬けにして、ようやく勝ったと思われた戦い。
ここでザンザスが復活すれば、もう満身創痍のツナに逆転はありえない。
「誰がやったかは定かではないが…その形跡は
一つの仮説を立てるのに充分だ」
ごくりとつばを飲む。ありえないと大声で否定したかった。
けれど、その仮説を立てる気持ちも分かる。
自分だってあちらの立場にたてば、リングとの関連性を
疑うのは自明の理だ。
そしてそれを思い切り否定できるほどの根拠もないので
震える手を抑えこみ、どうかあたるなと祈るしかできなかった。
誰もが……あのチェルベッロでさえ何も言わずに傍観することしか出来ない。
まるでステージ上のツナとマーモン以外全員の時がとまったみたいだった。
リングがそれぞれの色を放ちながら光りだす。
それに反応するように、ツナの手の中にあるリングも炎を放ちだした。
「思ったとおりだ♪」
「リングから炎が!?」
見るがいいと言い放つとマーモンは氷漬けにされたザンザスへと
吸い寄せられるように空中を移動していく。
ザンザスに近づきだすと、リングもさらにカラフルな炎を増大させた。
自身のリングを見た後、氷漬けのザンザスへと
視線を戻したツナの瞳は焦りで揺れていた。
「なんで!?」
ツナの気持ちを代弁するように思わず悲鳴をあげる。
「零地点突破の氷が…」
「…溶けていく!?」
シュウシュウと溶ける音、そして広がるリングの炎。
まるで悪夢のように思えて頭を抱えた。
「そんな……もし氷が溶けたら…」
それ以上は恐ろしくて口に出すのもはばかれた。
皆も同じ気持ちなのだろう。誰もがその先を口にせず
ただじっと、溶けきるなと祈るしか出来なかった。
「ヴぉおおい!!いいぞぉ!!」
無言を切り裂くような、突然の咆哮にビクッとする。
それをかばうように、ディーノがさりげなく
そばに引き寄せてくれたので少し安堵した。
溶けた氷から溢れだすように水が地面を伝って流れていく。
「これだけではないよ。
七つの完成されたボンゴレリングが継承されし時
リングは大いなる力を…新たなるブラッド・オブ・ボンゴレに
授けると言われているんだ♪」
待ちきれないと言わんばかりに弾む赤子の声。
「ブラッド・オブ・ボンゴレ?」
初めて聞く呼称と、次々明かされていく謎に軽い眩暈を覚える。
「返してもらうぜ♪」
「あっ!!あの人!!」
「ベルフェゴール!?」
突然、ナイフに巻きつけられたワイヤーを使い
器用にツナからリングを巻き上げたかと思えば
シシシッと相変わらず不気味に笑う少年。
「これは正当後継者のリングだし♪」
それならツナだってと叫びたかったけど
目まぐるしく進んでいく展開についていくので精一杯だった。
一分ううん……一秒も目がそらせない。
この試合で私達の命運が決まる!!
「ボンゴレリング全部コンプ♪」
ケガをしているとは思えないほど軽い足取りで
少年が赤子に近づいていく。その手にはツナから奪った大空のリングを手にして。
準備ができたと振り向くマーモンに儀式めいたザンザスの復活を
どうやっても止めることができないんだと絶望した。
氷がとけきると、崩れるようにザンザスが私たちの視界に現れる。
その瞳がゆっくりと開かれると、ギラリと輝いた。
その鋭さにモニター越しとは言え恐怖でヒッと息を飲む。
ツナ……ツナが危ない!?
慌ててツナに視線を戻す。少年は膝から崩れ落ち
肩で息をしたまま一歩も動けない様子だった。
「十代目!!」
「ツナ!!」
ハッと恐怖で固まっていた視線をあげれば
獄寺や山本たちがツナのもとに駆け寄るのが見えた。
「よかった…みんな無事だった」
誰も大怪我をしている様子がないのにホッとする。
しかし、次の瞬間にモニターに映ったのは
ザンザスの指に大空のリングがはめられる瞬間だった。
「どいつもこいつも…新ボス誕生の立ち合いにご苦労さん♪」
皮肉るようなベルフェゴールの声が頭に反響する。
新ボス……ダメだ。そんな人がボスになるなんて!!
そんなことになればツナも……そして皆も殺されるかも知れない。
そうなったら私は?――私はあの人と無理やり結婚することになって……。
でも、きっとその時はもう生きていても死んでるのと変わらない。
だって私は皆が……友達が無残にも殺された未来に
一人だけ生き残りたくない!!