ようやく体育館の中の様子が映し出されたかと思えば
獄寺と山本が固まったままもがいている映像だった。

何もない空を切り、苦し気な声をあげている二人に
幻覚を見させられているといやな汗がでる。

「くそっ、見てるだけしかできないなんて」

本当は助けにいきたい。駆け付けたい。
でも何もできないし、足手まといになるだけなのも分かっている。
けれど、このまま見過ごしているのも嫌だった。

祈るようにまぶたをとじ、両手を握りしめた瞬間だった。

体育館から爆音が響いた。
その直後、何かが崩れていく音が遅れてやってくる。

また映らなくなったモニターに不安になるが
体育館で何かアクションがあったのは分かった。

それがいいことであるようにと、映らないモニターに祈るしかない。

モニターがまたツナ達に移動する。
体育館の方は再度繋がるカメラを探したり復旧作業に入るらしかった。

そうだ、こっちも気になっていたんだと
次から次へと変わる事案に目がまわりそう。

「炎を凍らせる技……アレが初代ボンゴレが生み出した零地点突破」

「いけるな…アレならザンザスがどんなに強い炎を出しても封じることができる!!」

シャマルの言葉に、思わず漏れそうになった歓喜の言葉を
口を緩めるだけにとどめ、けれど抑えきれなかった喜びが胸の前で掲げた拳にこもる。

「まさかこれが本当の零地点突破だったとはな…」

だがとコロネロがリボーンに問いかける。

「死ぬ気の炎はボンゴレにとって象徴みてーなもんだ。
だが、その技はその対極に位置するものだぞ」

確かに……言われてみれば、結構死ぬ気の炎でツナやザンザス戦ってたもんね。
ガンガン使っているスキルを封印するみたいなもんじゃないか。

リボーンは初代ボンゴレが分かっていたのかも知れないと呟いた。

「わかっていた?」

こちらと視線があうと、静かにうなずいてみせる。

「いかに堅い絆で結ばれていても、オレ達はマフィアだ。
力を求める血を抑えることはできない」

「力を…求める血……そんなのばかばかしっ…」

口に出してハッとする。最後まで言いきれなかった。
その血のせいでツナやザンザスはボンゴレ次期ボスをかけて争っている。

私はまだ理解できない世界。血の争い。力を求める闘争。
そして力を力で抑え込み、すべてをべる王の座。

そのどちらもどうでもいい、バカバカしいというのは簡単。
だけど、現にそれを求めてこんなにも激闘している。

それを否定すれば、私だけ戦うのを放棄ほうきしているように思えた。
かと言って肯定できそうにもないが。

「本当に……遠い世界だよ」

「本来ならな…だがお前はもう世界の守護者に選ばれちまったんだ」

すまねぇと私だけに聞こえるように謝罪したリボーンに
私が守護者に選ばれたことか、それともマフィアに入ることになったことに対しての謝罪か
皮肉めいて聞いてやろうともよぎったけど、小心者の私は小さくそうだねとしか返せなかった。

「なら初代ボンゴレは身内同士の争いを察して
この技を編み出したのか…コラ」

コロネロの言葉にリボーンがうなずいた。

「いずれこんな日がくると分かってたのかもしれねぇな」

ツナと、ザンザス。時期ボンゴレボスの座をかけて戦っている。
初代のボスもそれを見越していたのなら物凄い先見眼だ。

「おめぇみてぇなカスに…ボンゴレの奥義など!!」

ザンザスは両手の炎を封じられながらも、物凄い眼力でツナを睨みつけていた。
ツナは狼狽うろたえる様子もなく、静かにザンザスを見つめ返している。

「こんなのは……零地点突破でもなんでもねぇ!!」

「お前は知っているはずだ。――零地点突破がどういうものかを」

え、とその場にいた全員が弾かれるようにモニターに視線をうつす。

「その傷……お前が前にも、全身に零地点突破をうけた証拠」

淡々と言い放ったツナの言葉に、誰もが面食らった。
確かにザンザスの顔や身体にはおびただしいアザが出来ている。

「もう…お前の拳に炎が灯されることはない。
――お前の負けだ。ザンザス」

しかしザンザスはなおも抵抗を続けた。
凍らされた拳ごと足にたたきつけて氷を折ろうともがく。
何度かたたきつけ、少し砕けた氷の中から死ぬ気の炎が漏れ出てきた。

それをツナに見せつけるように構え、まだやれるぞと不敵な笑みを浮かべる男。
しかしツナだけが穏やかに、どこか悲しそうな目でザンザスを見つめる。

「これ以上やるなら……九代目につけられた…その傷ではすまないぞ」

誰もが息をのむ。思ってもみなかった展開とツナの言葉。
九代目が……零地点突破をザンザスに?

「だからまるで零地点突破を知っていたように口にしていたんだ」

全てに合点がいく。一度食らっていた技なら知っているし
ツナが最初に出した時に警戒していたんだ。

「だまれぇ!!十代目に相応しいのはオレだぁ!!
Xは十を表す!!――オレはザンザス!!
生まれながらにボンゴレ十代目になる運命さだめ!!」

ここまでくると、必死通りこしてなんだか可哀そうに思えるな。
ツナだって本当ならザンザスにどうぞと軽くボンゴレ十代目の座なんて譲っていた。

けれど、もう私たちには譲れないもの……守りたいものが多すぎる。
簡単にはザンザスに譲ることなんて出来ない。

「勝つのはオレだ!!」

ザンザスが攻撃をしかけたが、両手を封じられ
得意の銃すら使えない有様では、まともに攻撃すら出来なかった。

ツナの拳を腹にうけ、うずくまる男。

「っツナ!!」

急に武装である死ぬ気モードとグローブを解除し
いつものツナに戻った少年に悲鳴のような[#ruby=驚愕_きょうがく#]の声をあげる。

ツナは諦めた?――いや、違う……あの目は。

ザンザスの肩に手をふれる。優し気な瞳が悲しそうに揺れていた。

「零地点突破……FIRSTファースト EDITIONエディション

悲鳴をあげるザンザス。ツナが触れた両肩から広がり
身体を覆っていく鋭く、冷たい氷。

「なぜだ……なんでお前は」

「っうるせぇ!!――老いぼれと同じことをほざくなぁ!!」

ツナの目が見開かれ、揺れる。

「九代目と……?」

その瞬間、最後までもがき続けたザンザスの声が止まった。

全身を氷漬けにされ、まだ吠え続ける男がそこにいた。
けれど、氷の中の彼はずっと時をとめたままの姿だ。

「もうこの氷が溶けることはない」

ツナの言葉に、そうだろうなと思っていた自分がいたのにビックリした。
確信はない。けれどあの氷が簡単に溶けないことはなんとなく分かっていた。

「溶けない!?」
「そんなことが…!?」

ディーノやシャマルに答えるようにリボーンが続ける。

「あの氷は、死ぬ気の炎と逆の力をもった…負の超圧縮エネルギーみてーだな。
アレに閉じ込められちまえば、どうすることもできねぇ。
光だろうが、熱だろうが……あらゆるエネルギーがマイナスに転じてしまうからな」


「では、この勝負……」

皆の間に貼られていた緊張が少しずつ解けていく。

「ツナの勝利ダ♪」

リボーンの言葉に、急に足の力が抜けてしゃがみこんだ。
近くにいたディーノが優しく支えてくれる。

「大丈夫か!?」

「あ……はい。ずっと不安だったから……気が緩んで足の力が抜けました」

憔悴しょうすいしきった顔で小さく微笑めば
ディーノが少しだけ痛まし気な顔をした後に
優しく頭を撫でて、抱きしめてくれた。

「よく頑張ったな」

「頑張ったのはツナたちっ……いえ、なんでもないです」

ディーノさんがお前も頑張ったんだぞとねた顔したので
私も少し眉を下げながら、伏し目がちでありがとうございますと呟いた。

ちゃん♪おじさんにもたれてもいいんだぜ?」

茶化してきたシャマルにディーノが小さく威嚇する。
少女は慌てて身体を離した。

「あっ…いつまでもすみません!!」

「別にオレは気にしねぇぜ」

コロネロがザンザスを冷凍の仮死状態かとリボーンに問いかけた。
リボーン恐らくゆりかごの後、眠っていた八年間と同じだと呟いた。

「さぁ……話してもらうぞ」

え、とディーノさんを振り返れば彼の視線はスクアーロに向いていた。

「話してもらうぞ。――八年前のゆりかごの事を…」 Page Top Page Top