「怒りの炎だ」

聞き覚えのある声に弾かれるように、皆が一斉に振り向くと
車いす姿だが、確かにサメに飲まれて死んだはずのスクアーロがそこに居た。

そして彼を取り囲むように黒服の男たち、そしてディーノ。
スクアーロは頭に銃を突きつけられているものの、しゃべれる程度には元気で
生きている様子に敵ながらもホッとした。

「ザンザスの…アレほどの怒り、見たことがねぇ」

でもよくこの人生きていたな、案の定バジルが問いかければ
ディーノが唇を開いた。スクアーロじゃなくて彼が回答することに驚いたが
どうやら経緯を知っているらしい。

「雨戦の日、万一のことを考えて部下を忍び込ませていた。
しかし、水中に落ちてきたのは山本じゃなかった」

そして保護し、なんとか大手術と今まで入院していたのを経てここに来たらしい。
そんな重傷者連れ出していいのかなと視線を送れば
大空戦を見せてやりたかったんだと曇りない目で見つめられたので何も言えなかった。

「それに……ここでなら話す気になるんじゃないか、と」

意味ありげな言葉と、遠くに視線を外したディーノさんに
何か連れてきた事情がありそうだなと理解した。

じゃないとさすがにこんな重病人をここに連れてくるわけない……と思いたい。
いや、でもワンチャンここの人たちどこか常識ずれてるから
一緒に見ようぜって連れてきた感も否定できないけど。

「あなたは!!」

不意に振ってきた高い声、あっと視線をあげればチェルベッロの二人が
慌ててこちら側に飛んできた。文字通り、上からシュバッと忍者のように
舞い降りた二人にビビりまくる。

「スクアーロ!?」

めっちゃ驚いている。そりゃそうか、恐らく彼が生きているってわからなかったんだろう……あ!!

「生きてる守護者は全員参加させられてたよね今」

「しかし今頃こいつをフィールドにあげるのは無理があるな」

シャマルの言葉に確かにそうだとうなずく。

「生きてることを突き止められなかった…そっちのミスだしな」

とどめのリボーンの言葉に、流石にチェルベッロ側も反論できないだろう。
しかし分かっていたと帰ってきた答えに誰もが驚きを隠せなかった。

「分かってたって…スクアーロが生きてたことに気づいていたってこと!?」

ならなぜ、無理やりにでもこの会場につれてこなかったのか?
重病人やけが人をつれてこない可能性はランボ君、ルッスーリアが否定している。

何を考えているか分からない彼女たちは大空戦の続行だけつげて
全員が観覧席に移動するように促した。

何を企んでいるのか分からなくて不気味すぎるが従うしかできない。
どうしてスクアーロが生きていたことを知っていたのかや
なぜ連れてこなかったのか?そして、そのことについて何も話そうとしない点も気になった。

スクアーロはスクアーロでザンザスの怒りがどうとか野望がとか
ぶつぶつ呟いているし……誰かこの状況をまとめてくれる学級委員みたいな人派遣してほしい。

「それにしても……まだ映らないの?」
見上げた上部にうつされているモニターには体育館を真上からうつした映像しか映っていなかった。
チェルベッロ達がいうには内部カメラの破損とのことで、すぐに別のカメラに切り替えるとのことだ。

体育館……。ギリッと奥歯をかみしめる。クロームさんがいるところだ。
この中では私に次いで女の子だし、何より彼女は今まさに毒に侵されている。
獄寺達が向かったと思うけど、何も映らないことには安心できない。

まだ映らない体育館からツナたちに映像が切り替わった。
ツナの炎をまとった拳の一撃がザンザスの頬に命中しているところだった。

「それがどうした!!」

ザンザスの咆哮に私たちやツナも身構える。
ツナは零地点突破の構えをとり、ザンザスと距離を開けた。

「よけた!!」

ザンザスの弾丸からはじき出された憤怒の炎を
ツナは吸収しようともせず空中でよけた。

リボーンいわくあれ程の炎はツナが吸収しきれないからよけるしかなかったらしい。

「ツナ!!」

ツナと同じように空中に飛び上がったザンザスは
二丁拳銃をすてると、ツナにとびかかった。

ガッと両手同士で掴みあうと、そのまま空中でお互い押し合いはじめる。

「たっ体格が違いすぎるよツナ!!はなれて!!」

まるでお互いの意地、プライドの張り合いをしているようだった。
これじゃあ零地点突破の構えもできないとバジルは叫び
車いすのスクアーロもツナはまけるなと呟いた。

「ツナ!!!!」

まばゆい閃光、それはモニターいっぱいだけじゃなく夜空一帯に広がった。
使いあっていた両の手から炎が出たかと思えば二人はそのまま光に包まれた。

まるで全てを消し去るような真っ白い光に。

「煙で何もみえねぇぜ」

「いや!!誰かいるぜコラッ!!」

コロネロの言葉に藁をもすがる気持ちでモニターに目を凝らす。

「そんな……」

煙がはれてきた中、最初に目に飛び込んだのはザンザスだった。
ツナを信じていなかったわけではなかったがどこか皆が
もしかするとを期待していた。それだけに砕かれた希望に打ちのめされた。

「奴の手をみてみろ」

リボーンの言葉に誰もがうつむいていた顔をあげた。
なんとザンザスの手が氷におおわれている。

「この現象はっ…まさか!!」

車いすから飛び上がりそうな勢いで身を乗り出したスクアーロがモニターを見上げる。

「あの時と…おなじ!!」

スクアーロはこの氷の技を知っている。
しかしなぜ?……そうか、ザンザスも知っていたような口ぶりだった。
この二人はこの技が発動される現場にいたことがあるんだ。

リボーンはこれが初代の技だろうとニヒルな笑みを浮かべた。

「死ぬ気の境地の逆とは、死ぬ気の炎の逆の状態でもあるんダ」

死ぬ気の炎の逆……炎の反対は水だよね?多分だけど。

「そうか、炎の逆…つまり冷気」

シャマルの言葉にそうなんだ、と弾かれるようにモニターの視線をうつした。

「しかもただの冷気じゃないザンザスの炎ごと凍らすなんて
この技のあり方はまるで……」

ディーノの言葉を補足するようにリボーンは死ぬ気の炎を
封じるためにあるような技だと付け足した。

「やった!!ツナ流石だよ!!」

偶然かも知れないけど、飛び出した新技に歓喜の声をあげる。
ザンザスは顔のあざを歪ませながら信じられないとばかりに怒りの声を荒げた。 Page Top Page Top