「ツナのやつ…スピードが落ちてきてるぜ」
「違うな……ザンザスの奴がじょじょにスピードをあげてきてんダ」

空中で加速する光の速さに開きが出てきた。
リボーンのいうように、ツナの速さが落ちたように見えたのは
よくよく見ればザンザスが加速しはじめたからだった。

二丁の銃でよくバランスがとれるな……じゃなくて!!
加速しはじめたのは何かするからじゃ……!?

案の定おそいと言わんばかりに加速したザンザスが
ツナに空中で重いパンチを繰り出した。

「ッ…ツナ!!」

地面に引き寄せられるように物凄いスピードで落ちていくツナ。
凄まじい音と土埃をたて、落ちた場所はクレーターができていたが
ツナはすぐに立ち上がるともう一度空中へと飛び上がる。

「危ない!!」

まっすぐ飛ぶツナへと向けられる二丁の銃口。
憤怒ふんぬの炎を圧縮させるようと銃が光を放ち始める。

怒りの暴発スコッピオ・ディーラ!!」

それに気づいたツナも慌てて身をひるがえそうとしたが
すでに弾丸は放たれた後だった。

「ちょ…直撃だ!!」
「沢田殿!!」

背中越しにモロに憤怒の炎の一撃をくらったツナは
飛行状態が取れず、ゆっくりと落ちてくる。
焦げた煙がその身体から黒々とあがっているのが痛々しかった。

「ツナ!!そっ…そんな!!」

「実力の差が…これほどとは」

轟音、土埃……そしてえぐれた地面に倒れこんだ少年。
圧倒的な武力差に眩暈がした。
悔しいし、苦しい。どうして?どうしてこんなに……。

こんなに頑張って修行したのに……勝てないの?

ツナ本人はもっと痛い思いをして、苦しんでいる。
私は何もできない。――ずっと何も……この試合中!!

「っ……何この光は」

まぶしい光が視界の隅に入り、伏せていた顔をあげると
ツナから死ぬ気の炎が溢れるように放出されていた。

「きれい…「ダメだツナ!!」…え」

そのままでは危ないとコロネロが叫んだ。
そんな、まるで身を守るかのように纏ってみえる死ぬ気の炎が
あのまま出続けると……ツナは危ないの?

「勝ち目がないと見て、とうとう自棄やけになったのか」
高笑いで勝利宣言をする男に、誰もが同意見だった。

「そんな……ツナ」

最後まであきらめない、そんな強い意志が
そんなやさしさで私たちと戦ってきたはずなのに。

ここまできて自暴自棄になっ……あれ?
いや、あの姿は……あの構えは。

「違う……」

私の言葉に弾かれるようにバジルもうなずいた。

「沢田殿は…やる気だ!!」

まるで扉をノックするように等間隔で噴出される
先ほどとは不規則な動きをする死ぬ気の炎。

「死ぬ気の零地点突破ぜろちてんとっぱ?…それが修行していた技?」
リボーンとバジルはうなずく。二人が修行に付き合っていたらしい。

「なんでアイツが知ってんダ?」
不信がるリボーンの声と視線をたどれば、大型モニターに映し出されるザンザスの顔。
あの顔は……何かを知って、そして驚きとおびえが混じっていた。

「ザンザスの顔つきが変わったぞ」

「っ…させねぇ!!」

屋上から先制攻撃を仕掛けようとするザンザスの動きに反応し
彼が地面につくのと同時にツナは回避しようと構えを解除し、飛び上がる。

「逃がさねぇぞ!!」

「ぐっ!!」

ツナを追尾するように、凄いスピードで近づいたザンザスは
銃を構えたまま、ツナを殴りつけた!!

ツナは殴られた方向へと引っ張られるように飛んでいく。
離れていてもわかる。とても重い一撃。
ツナのくぐもったような悲鳴と私たちの叫びは重なった。

そのまま空中でツナはバランスを取り直す。
しかしまた銃口が間髪入れずに向けられる。

飛び出す死ぬ気の弾丸、回避するツナ。
何度も空中で繰り返される攻防戦。

「見苦しいぞ!!」

「ああっ!!」

ツナのわき腹を憤怒の弾丸がかすめる。

「今までと段違いの速さだぜ!!」
「ザンザスのやつ、まだこれほどまでの力をもってやがったのか…」

「やべぇな…これじゃ集中できねぇ」

リボーンの言葉にシャマルが続ける。

「しかし、そこまでして阻止したい零地点突破と…はどんな技だ?」

そうか、怖いから……恐れているからこそ
ザンザスはこの攻撃が放たれるのを警戒して
ツナに集中させる暇を与えないようにしているんだ!!

くそっ、どうにかツナが攻撃するまでの時間さえ稼げれば……!!

またザンザスの攻撃がツナをかすめた。
慌てて少年は回避するものの、その反動で大きく吹き飛ばされる。

「ダメだぞコラ!!もう飛んで逃げる体力もない!!」

「そっそんな!?」

コロネロの言葉に青ざめる。ハッとツナを見れば
確かに立っているのが限界なほど傷つき、いつもより小さく見えた。

「無駄な努力だ!!――消えろ!!」

まずい!!空中から銃口をツナに向けるザンザスにサーッと血の気が引いていく。
ザンザスはツナを……ツナが零地点突破を出す前に確実に仕留める気だ!!

怒りの暴発スコッピオ・ディーラ!!」

さっきよりも大きな憤怒の炎だった。

「アレでは…」
「あたる!!」

「沢田殿ー!!」

爆音と爆風……終わった。間違いなくツナにあたってた。
立つ気力すらなくなり、震える膝から崩れ落ちる。

「ツナ…ツナが」

モニターが砂嵐に包まれる。恐らくさっきのザンザスの攻撃のせいだろう。
しかし、すぐに別のカメラに切り替わったのか
爆風がはれていく視界の中、倒れこんでいるツナが映し出された。

「ッツナ!!」

死ぬ気の炎が消え、グローブはミトンに変わった。
誰もがその様子に悲鳴をあげたり、息を飲んだ。

「くたばったか、馬鹿なカスめ――てめぇの死期をてめぇで早めやがった」

空中から地面に静かにザンザスは降り立ち吐き捨てる。

「くだらねぇ…猿真似しやがって」

「よく考えりゃあカスごときに死ぬ気の零地点突破なんぞ
できるわけねぇのにな」

ゆっくりとツナに近づき、一定の距離で男は止まると
そのまま少年を見下ろしながら、右手を掲げた。

「カスはカスらしく…」

その手に憤怒の炎が集中する。
一瞬何をするのか分からなかったが、ザンザスの言葉ですぐに我に返った。

「灰にしてやる!!」

「そっそんな……ッツナ!?」

やめろと叫ぼうとした瞬間、ツナの額に炎がともった。
それに弾かれるように私たち、そしてザンザスの動きすらも止まる。

「死ぬ気の炎……ツナはまだ生きてる!!」

「アレは!!」
「まさか!!」

リボーンだけが気づいていたのかニヒルな笑みを見せた瞬間
ツナの瞳が開かれた。額の炎が大きくなる。

「何ぃ!?」

あのザンザスでさえ狼狽えたような声をあげた。

「おお!!」
「やったぜコラ!!」

ミトンはまたグローブへと変わり、そのまま起き上がるツナ。
よく状況が呑み込めないけど、これだけは分かる。

まだ……ツナは戦える!!

「リボーンさん!!」

「ああ、成功だナ♪」

「成功?」

「死ぬ気の零地点突破だ」

リボーンの言葉に思わず目を見開く。
本当かと叫びそうになったが、近くにいるバジルの反応からみても
やっぱり技の発動に成功したんだろう。

震える膝、座り込んでいた足に力を込めて立ち上がる。
そのまま両手を胸の前で組み、祈るようにツナに視線を送った。

「ツナ……どうか勝って」 Page Top Page Top