「やはりザンザス側についてたんだ?」

獄寺の咆哮に、リボーンが静かに呟いた。

「好きにしやがれ……オレはもう切れてんだ」

チェルベッロでさえもその殺気に息を飲んだ。
私たちの間には冷たい空気が流れる。

「だが、九代目との誓いは守って…手は出さねぇゾ。
――生徒の勝負にはな」

その言葉に何よりも進行を大事にしていたチェルベッロの二人は
少し安堵した息をもらした。

「まぁ…オレがそう言っても……
戦いが嫌いなオレの生徒がどうするかは知らねぇがな」

……ツナ。もうこんな試合やめようと叫びたかった。
でも、ツナの……男のプライドがあるのもわかっている。

「ザンザス…そのリングは返してもらう」

ゆっくりと立ち上がったツナの声は、さっきのように震えていなかった。

「お前に…九代目の跡は継がせない?」

決意を固めたツナの言葉がザンザスだけじゃなく私たちにも刺さった。

「ふんっ……ボンゴレの歴史に刻んでやる。
ザンザスに楯突いた愚かなチビが居たとな」

「一人じゃないぜ?」

獄寺を筆頭に、クローム、了平そして山本が各々の武器を構えた。

「俺たちの意思だ?」

山本の言葉に各自うなずく。私も武器はないけれど
握りしめた拳を二つ、胸の前に掲げて応援してますと叫んだ。

「個人的にムカつく」
同意したのか同じように武器を構える雲雀にズッコケそうになった。

ってこの人の個人プレー忘れてた?
気が付けば相手側も好戦的な視線で同じように武器を構えて出している。

あっちにはレヴィとボロボロのベル。

「反逆者どもを…根絶やせ?」

ザンザスの言葉を合図にまさかの大乱闘ボンゴレブラザーズが開幕されるかと心配して
慌てて隠れ場所を探したが、またも二人の高い声が遮った。

「お待ちください?――九代目の弔い合戦は…我々が仕切ります」

「なにぃ?」

「我々にはボンゴレリングの行方を見届ける義務があります」

こっ……この人たちの果てしない義務感というか
進行したいのか、邪魔したいのかわからない感すごいな。
こういう融通利かなそうな人たちが新興宗教とかにハマったら恐ろしそう。

「何言ってやがる?ザンザスの犬が?」

みんなが内心思っていたことを獄寺が叫んだ。

「口を慎んでください」

不意にチェルベッロの一人が炎のサイン付きの紙を取り出し見せつけた。

「我々二人は、九代目の勅命を受けています」

「我々の認証なくしては、リングの移動は認められません」

「よくも抜け抜けと?」

弾かれるように皆がバジルに視線を移すと、可愛い顔を怒りに歪めて
無理やり九代目に押させた書類だと叫んだ。

「フッ」

ザンザスだけが鼻で笑ったのに、私たちはビクッと反応した。
怒りに震えるもの、信じられないと恐怖に震えるものそれぞれ様々だった。

「先ほども言いましたが、憶測での発言は慎んでください」

「我々は勝利者が次期ボンゴレボスとなるこの戦いを……」

「「大空のリング戦と位置づけます」」

大空の……リング戦……。

「すなわち今まで行ってきた七つのリング戦の最終戦です。
――いかがでしょうか?ザンザス様」

不敵な笑みの後、悪くねぇとザンザスは同意した。
ツナは同意も何もせず、ただザンザスをじっと睨みつけている。
その瞳には、ただ怒りだけではなく様々な思いや
それこそ決意すら入り混じっているようにも見えた。

「それでは、明晩」
「並中に皆さん…お集まりください」

「明日が喜劇の最終章だ。せいぜいあがけ」

皮肉ったあと、ザンザスはツナに大空のハーフリングを投げて渡した。
何も焦る様子すら見せておらず、それどころか勝って当たり前の雰囲気に
私まで殴ってやりたい気分でギッと睨みつければ
不意にこちらにザンザスが視線を移した。

「お前も……せいぜい今のうちに平和を楽しむんだな」

「なっ……」

挑発するようなザンザスにビクッとした私を影が遮る。

「ひっ…雲雀さん?」

「まだムカついてるんだけど」

この人さっきから武器を構えたままだったの忘れてたァ?
慌てて、武器をおろすように説得する。

「あっ、明日もしかすると戦えるかもしれませんよ?
たっ楽しいことはとっておきましょうよ?ね?」

ムッとしたままだったが、雲雀も渋々了解したのか武器をおろし
戦えないならかえって寝ると先に出て行った。

ザンザスの方も掌に炎を集中させたかと思えば
その炎が痛いほどの光を放ってあたりに飛び散った。

「……いない」

どんなマジックのフィナーレだよと内心突っ込みながらも
とりあえず消え去った脅威にホッとする。

「あっ…九代目?」

バジルの言葉にみんなもハッと我に返った。
慌てて九代目にかけよるバジルと私たち。
誰もがオロオロとするだけで子供の私たちは
治療なんてわからず、どうしていいか分からなかった。

その直後、背後から聞きなれた声が響く。

「ッ…跳ね馬!?」

獄寺の言葉にその声の主が確信へと変わる。
イケボの主を忘れるわけはないが、そういえば今日はまだ見ていなかった。
後ろにいかつい黒服の男たちをズラッと連れての登場にビクッと震える。

怖そうだなと震える私をよそにテキパキとディーノは男たちに
九代目のことやけが人を運ぶように手配した。

ついでに校庭に残された地雷まで探してくれる徹底ぶり。
そりゃそうだ、このバトル終わったらこの校庭もそのまま使われるんだから?
というかそもそも場所ここでやらないで欲しいなとも思ったけど一億回くらい。

私たちも解散し、各自家に……まぁ私はホテルにだけど戻ることにした。
泣いてもわめいても、試合がくるまで何もできない。

かと言って今の私たちが先に何か相手に仕掛けられるほどの武力もない。
なら相手からくるのを黙って受け入れるしかない……そんな現実は苦しくて
そして、すごくもどかしくて悔しかった。

翌朝、LINEでランボ君が目覚めたとツナから連絡があった。
昨日までの戦いや苦しさが一気に吹き飛ぶほど
今の私に……いやきっとみんなにとってうれしいニュースだった。

ホテル生活になってから学校には行けていないし
それどころかほぼホテルに軟禁状態だったので時間はたっぷりある。

ディーノさんと一緒ならランボ君のお見舞いもOKと言われたので
ランボ君のすきそうなお菓子を手土産にお見舞いに行ってきた。

朝早かったからか、それともタイミングが悪かったのか
まだ眠ったままだったので、起こさずに帰った。 Page Top Page Top