「やっと会えたね…綱吉ツナヨシくん」

「え…」

「すまない…こうなったのは全て私の弱さゆえ」

ツナもザンザスも……この場にいる誰もが無言だった。
というより、誰も九代目の言葉を遮れなかった。

自分のせいでザンザスが眠りから解かれたと詫びる九代目に
弾かれるようにリボーン、そしてツナは声をあげる。

「眠りとは…どういうことダ?」

リボーンいわく、ザンザスはゆりかごの後でファミリーを抜けて
ボンゴレの厳重な監視下に置かれていたとのことだった。

リボーンすら飲み込めない事情を私達はもっと知るはずがない。

「ゆりかご?」

気になったワードをツナがリボーンに問いかけえると
淡々とリボーンはその問いに補足するように答えた。

「8年前に起きた…ボンゴレ史上最大のクーデターのことだ」

明かされていく情報を飲み込もうとするだけで精一杯だった。
どうしてこんな大事なことを話さなかったのかと責めたい反面
こんな話を聞かされてどうすればいいのか分からないと困惑する自分がいた。

「その首謀者しゅぼうしゃが九代目の息子…ザンザスであるという事実は極秘扱いにされ
……知るのは上層部とその時戦ったボンゴレの超精鋭せいえいのみだがな」

リボーンの言葉が途切れると、入れ替わりに九代目が喋った。

「ザンザスの時間は…8年間止まったままだった。
あの時のまま…眠りつづけていたのだ」

ザンザスが8年間も眠り続けた?
九代目の言葉には次々と疑問がわいてくる。
しかしザンザスは否定することなく無言で聞いていたので
恐らく事実に基づいた発言なのだろう。

「恐ろしいほどの怒りと執念を増幅させて」

「え?……どっ、どういう!?いったい何が?」

一瞬大きく九代目が苦しげに咳こんだ。
すぐに大丈夫かとツナが問いかける。
慌てて近づこうとした私達も静止するように老父は息も絶え絶えに続ける。

「綱吉くん…いつもリボーンから君のことは聞いていたよ。
好きな女の子のことや学校のこと、友達のことも。
君はマフィアのボスとしてはあまりにも不釣り合いな心をもった子だ」

「九代目!!」

「君が一度だって喜んで戦っていないことも…知っているよ」

年老いた指先が震えながら、ツナにのびる。

「いつも眉間にシワをよせ、祈るように拳をふるう。
だからこそ、私は君を…ボンゴレ十代目に選んだ」

え……!?ハッとザンザスを見やれば私と同じように目を見開き
驚いていた。そりゃそうだ。この数日間の戦いは
十代目の継承権も賭けての試合だったはずだから。

だからこそ、まるで最初から決まっていたかのような
九代目の発言には驚きを隠せなかった。
と同時に……それならなぜこんな戦いをさせたのかと怒りもわいてくる。

九代目の指先から死ぬ気の炎が浮かび上がった。
その優しい色合いはツナにそっくりの暖かい光。
ツナのたれた大きな瞳から涙が溢れた。

「すまない…だが君でよかっ…た」

言い終わると同時に、ツナの額に伸びていた指先が腕ごと崩れ落ちる。
慌ててミトン越しにツナは抱き留めた。

「まって…そんな!!」

ツナの悲痛な叫びだけが響く。
思わず私まで涙が溢れそうなので、必死に頭を振り落ち着きを取り戻そうとした。
だって私なんかがチンケな感動で流していい涙ではないから。

……その時だった。怖いほど無言を貫いていたザンザスが口火を切ったのは。

「よくも九代目を…」

思ってもみなかった言葉に皆が疑問と困惑を抱えながら視線を移す。

「九代目への…この卑劣な仕打ちは、実子じっしであるザンザスへの
そして……崇高すうこうなるボンゴレへの挑戦だと受け取った」

全員が呆気にとられている。
私もツナも……恐らく会場にいる全員が何を言っているのか理解出来なかった。

「お前がしたことの前には、リング争奪戦など無意味!!
俺はボスである我が父のため……そしてボンゴレの未来のために
貴様を倒し……かたきを討つ!!」

ザンザスのはめた大空のリングが怪しく光った。
ツナや私たちも開いた口が塞がらない。
確かに彼の言うように結果的には九代目に重傷を負わせてしまったことは事実。
でも、あちらの言い分だとわざとこちらが攻撃したような口ぶり。

というか……父の敵討ち以前にどうみてもこれって……。

「やはり…これが狙いだったんだナ」

「え…」

「ただリングに勝ち、次期ボスになったとしても
ゆりかごの一件を知る連中は、ザンザスの就任に反対し
これからも抵抗するだろう」

短く切ったあと、リボーンはさらに続けた。

「だがツナを悪役に陥れ、とむらい合戦で九代目の敵を討ったとなれば別ダ。
多くのファミリーから絶対的な信頼を得ることができる」

ツナ……そして私たちまでハメられたんだ。
目の前の少年はまだ信じられないような悲痛な面持ちだった。

「それに…本来十代目となるはずのツナより強ければ
自分が真の後継者となることの証明にもなる!!」

「そっ…そんな」

「そうなれば……抵抗勢力の排除もワケはねぇぞ?」

「では、ザンザスはボスになるのと同時に独裁体制を作るために?」

バジルの言葉に、リボーンが静かにうなずく。

「仕掛けられた罠だったんダ。――モスカが暴走し
ツナの守護者がピンチになれば…必ずツナ自身が助けにくると読んだんだろう」

「ツナ……」

「そんなことのために?」

少年の頬に涙が伝った。九代目を傷つけたことにも、そして
傷つけるための道具にされたことにも少年は傷ついていた。

「みなさん。憶測での発言はつつしんでください」
「すべての発言は我々が公式に記録しています」

淡々とした声でチェルベッロの二人が警告する。
怒りで握りしめた拳に爪が食い込み、?み締めた歯がギリリと鳴った。

「ここまできたら……もう憶測なんかじゃないっ」

喉からしぼりだすように漏れた声に、獄寺や山本も同意するとばかりにうなずく。 Page Top Page Top