両者の攻撃がやみ、煙の向こうから見えてきたのはツナだった。

いつものタレ目で困り顔とは違う。凜々しい表情で
グローブを構える彼に、本能的に分かった。――強くなったんだと。

「カスから順に消えていく。それにかわりはねぇ」

ザンザスの無情な発言に息を飲んだが次の瞬間目があった彼の発言に
さらに凍り付いた。

「テメェはくれぐれも即死はするなよ」

もちろん、気づかっての発言ではない。
彼は補足するように、もっとも手足くらいなら吹っ飛んでも構わないと続けたからだ。

よ……ようは手足がなくても生きていれば景品だから充分ってこと!?
その言葉に、私はもう何も言えず仲間だけは抗議の声を荒げてくれた。
私を庇うように、みんなが安心しろと守りに入る。

まるで喉がつまったように、ありがとうと言おうとしたが
言葉が出せなかった私の頭上を人が飛び立った。

ありがとうより先に綺麗という言葉が口を出る。

グローブから出した炎を原動力にツナが頭上を飛び
打ち上がる爆弾を次々と破壊していく。

ツナが動くたびに揺れるオレンジの炎の光が
真っ暗な夜空と相まって、すごく綺麗だった。
みんなも宙を舞う少年の姿に呆気にとられている。

同じように先に飛んでいたモスカが攻撃する間もなく
ツナが胴体を突き抜けるように死ぬ気の炎を拳にまとって貫いた。

大きな爆発が頭上であがる。ツナも無事にモスカを倒し地面に降り立った。

「すごい!!」

仲間だけでなく、相手側からも驚愕の声があがる。

「おい…でくの坊。お前の相手は俺だ」

モスカの部品を掲げたツナはそのまま部品ごと死ぬ気の炎で破壊しながら
まだ動くモスカにむかって警告する。

そのせいか私達に向かって無差別に飛んでいたミサイルが
一気にツナに集中砲火されていく。

「な…なんで!?」

「奴は制御不能だったのではないのか!!」

一体その身体に何発の弾丸やミサイルが仕込まれているんだと思うくらい
ツナに向かって多くの攻撃が飛んでいく。

そのまま空にあがった少年と1体はそのまま攻撃を打ち込み合う。
しかし、少年の方が素早く先にモスカが光線を放つ前に機械の真ん中を拳で殴りつけた。
もの凄い音をたてて、地面に叩きつけられるモスカと
今までのツナではない、圧倒的な強さを見せる少年の姿に歓喜の声があがる。

しかしリボーンだけが疑問の声をあげた。

「モスカを全力で雲雀と戦わせて、勝ち越しを決めてから
オレたちを全滅させることも考えられたはずダ。
――ザンザスめ。なんでこんな回りくどいことをしたんだ?」

リボーンの言葉にそういえばと疑問を感じる中
ツナがザンザスに声をかけた瞬間だった。
少年の言葉を遮るように、モスカがまた動き出したのだ。

もの凄いジェット音をたて、空中を移動する時のように
今度は頭からツナに突っ込んできた。

ツナは片手でうけとめるが、それでも後ろに後退していく姿に
モスカに押し負けていることが分かる。

しかし右手に再度炎をともしたツナの手刀が
モスカの身体を真っ二つに引き裂いた。

轟音をたてて、地面に崩れ落ちる機械に喜ぶ。

「やった!!」

「流石十代目!!」

しかし次の瞬間、喜んだ私達がまるでいけなかったかのように
不敵に笑うザンザスの最高潮の笑みと同時にモスカの中から
滑り落ち、地面に転がった老人に唖然とした。

大きく目を見開くツナと言葉がでない私達。

「中から人が!?」

事態を把握した時、思い思いの悲鳴があがった。
縛られた人がツナの目の前に転がっている。

ツナの顔がどんどん真っ青になっていく。

「こっこの人は…九代目」

「え……」

ツナの震える言葉でその人物が誰かわかり皆が黙り込む。

足から崩れ落ちるツナに、私達が声をかける間もなく
リボーンが素早く向かった。

「なんで…モスカの中から?」

「おい!!しっかりしろ!!」

リボーンの声かけにも九代目は反応しなかった。
それどころか死んだのではないのかというくらいピクリとも動かない。

「モスカの構造を前に一度だけ見たことがある。
九代目はゴーラモスカの動力源にされてたみてぇだな」

「えっ…動力源?――どっ…どうして」

絶望するツナの言葉に無慈悲にもザンザスが答えた。

「どうしてじゃねぇだろ?テメェが九代目を手にかけたんだ」

ザンザスの言葉に、ツナの動きがとまる。

「オ…オレが」

震えるツナをよそに、必死に小さな身体でリボーンは九代目の縄を解きながら
傷の状態を確認した。

「やべぇな。応急処置で何とかなる傷じゃねぇ…」

リボーンの声に絶望した声でツナが呟く。

「そんな……」

目の前の現実を受け止めきれないツナにたいし
ザンザスは嫌なくらい落ち着き払っていた。

「誰だ?――ジジイを容赦なくぶん殴ったのは?」

男の言葉に、さっきのツナの攻撃が皆の頭によぎった。
けれど、そんなこと言われてもツナや私達だって
まさか中に人が……それも九代目がいるなんて分かるわけがない!

けれど、それを言われると私達は反論も出来ず
居た[#ruby=堪_たま#]れない気持ちでうつむくしかなかった。
当の本人のツナはもっと苦い気持ちのはずだ。

「誰だ?ジジイごとモスカを焼き切ってたのはよう?」

ザンザスはさらに冷たく言い放つ。

「そ……そんな…。オレが、九代目を…」

可哀想なくらいツナの声は悲痛に歪んでいた。
瞳から光は消え、絶望と後悔で表情は固まっている。

私は思いっきりそんなことないと叫びたかったけど
でも、確かに結果的にはザンザスの言うことも
間違ってはいない。――何も言えず
けれど心の中ではこんなの間違ってると叫ぶ自分がいた。

「ち…がう」

不意に震える声が耳に届く。
それは九代目が発した言葉だった。

ツナが弾かれるように、九代目の顔に耳を近づける。
か細いが、ゆっくりと老父ろうふの唇が動く。
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