次は、雲の守護者同士の対決か。
ホテルに戻って、試合のことを考えた。

機械ぽい見た目のゴーラモスカと、雲雀さんの対戦。
どっちも強そうだし……霧の試合もそうだったけど
今回も勝敗が予測できない。というか相手は指から弾丸みたいなのを
出してたし……そもそも人間じゃないと思うけど
それって反則じゃないかと思ってしまうのは、私がマフィアの世界について
何も知らないだけなのだろうか。

実はウジャウジャ似たようなのが居たりして……。
そう思うと少しゾッとするような、けれども怖いもの見たさで気になるような複雑な気持ち。

ほら、最近はドローンに爆弾をつんで戦地にいかせるから
人間対人間で戦わなくてもいいとか聞いたこともあるし……。

とりあえず、相手の情報は機械ぽいということしか分からないので
これ以上考えても分からないけれど、問題は雲雀さんだ。
そもそも現地にくる?ちゃんと時間守れる?
子供じゃあるまいしと自分でも分かってるけど、彼はマイルールが強すぎるからなぁ。

そんな相手に以前ディーノさんは修行していると言っていたが
本当にご愁傷様としか言い様がない。時々日本語通じないから困るだろうな。

もちろん、ディーノさんがイタリア人で日本語は母国語ではないということを差し引いても
ビックリするくらい、話が通じない。さらに極度のめんどくさがり。

まぁ、幸いにも戦闘好きなのは助かったけどね。
ほら……強い人と戦えるよと言えば、めんどくさくても
どうにか試合に出てくれる確率はあがるから。

だんだん勝敗よりも、ブッチせずに雲雀さんが当日キチンと時間通りに来てくれるかが
心配になってきたんだけど!?――くそ、ホテルの良い部屋で良いベッドなのに眠れない。

目がギンギンに冴えてきて、軽い気持ちでスマホを触りだして思い出した。
そういえば……雲雀さんのLINEとか連絡先分からないな。

モヤッとしながら横になる。
どう言葉にしていいのか分からない気持ち。いろんな感情が交ざっている。
急に連絡がくる不安とかを考えるとホッとするような気持ちと
すぐ家には泊めたくせに……それに………。

「あんなに…言ってきたくせに」なぜか気になって、そして不安になる感情。

いつのまにか思いを口にすれば、後はもう押さえることはできなかった。

頬に熱が集まるのが分かっていながらも、どうしても今まで彼からかけられた言葉が
頭によぎってしまう。


『僕が直接迎えに行った方がいいかい?』
ダメ!!

『次そんなこと言ったら咬み殺すから』

考えるな!!――何度も理性がそう叫ぶ。

それでもその時の言葉と、切れ長の輪郭からのぞいた黒曜石のように怪しくて
それでいて美しくて目をそらせない黒い瞳が、私を見つめているあの映像。

『君……今日はまだ逃げないんだね』

それは美しい絵画のように焼き付いて離れない。
こんな風に心を動かされて、苦しくなったり……。

『君は……自分が思っているよりも悪くないよ』

うれしくなって、息が弾み……頬が、体中を火照らせることが分かっているのに。

『君とはなぜか関わらずにはいられない』

理性では、忘れなくてはと思う。こんな自分が期待なんかしてはダメだって。
だけど、理性以外の全てが忘れるなと叫び返されている気分。

心の中では少しだけ焦るような、疑問だけがバーッと浮かんでは流れていく。
心臓を強くノックするように、私の小さな身体を思い切り揺さぶるように。

ああ、バカだなぁ。明日は大事な試合で……命がかかってるのに。
さっきまで心配だった勝敗が、いつの間にかピンク色の妄想に変わっていて
私ってどこまでも自分勝手なのかもと枕につっぷした。
心の中で叫んでる感情や、思わず潤んできた瞳を上から強く押さえつけるように。

翌日の晩、校舎につけばすでにツナをのぞいた3人が到着していた。
送ってくれたタクシーの運転手に礼を述べながら
慌てて3人の所に向かう。3人は何やら話し込んでいたが
コチラに気づくと、すぐに笑顔で迎えてくれた。

「遅れてごめんなさい!!」

「いいって。俺らも今さっき着いたとこだしな♪」
「おう!!応援にきてくれただけでも有り難いぞ!!」

山本と了平さんの言葉に、気遣いがうれしてはにかむ。

「あれ、そういえばツナは?」

「十代目はリボーンさんとの修行でどうしても来られないらしい。
しかし…その代わりに俺らを信頼してここを任せてくれた!!」

修行って……次が試合だけど大丈夫なの?
むしろ、直前までハードな修行をして身体を壊さないか心配。

「おっ…主役のおでましだ」

山本の言葉に弾かれるように校門を見ると、見慣れた制服姿の少年。
声には出さず、心の中でガッツポーズをしたのは言うまでも無い。
よかった、来てくれて!!――皆の顔も来てくれたことにどこか安堵しているように見えた。

「君たちはなんでいるの?」

開口一番飛び込んできたのは刺々しい言葉。
右隣の獄寺がキレないか心配になりつつ、どもりながらも答えようとした私にかわって
山本と了平が応援にきたと応えた。聞いておきながら興味のなさそうにふーんと視線を外す雲雀。

これが雲雀さんだったと後悔していれば、私に気づいたのか視線が戻る。
しかしその切れ長の瞳はすぐに、私よりも背の高い男子達に向けられた。

「目障りだ。――消えないと咬み殺すよ」

その言葉に、なんとも言えない空気が走る。案の定獄寺だけじゃなく、左隣の了平までブチぎれていた。
山本がなんとか押さえ込んでいなければ、胸ぐらつかんでケンカでもしそうな勢いだ。
咬み殺されたくもないし、ここにいて機嫌を損ねて帰ると言われたら困るので
私は消えた方がいいだろうかとアタフタしていると、君はいいと言われた。

「むしろ君はこの戦いの賞品なんだろう?いなくてどうする」

まさかの賞品発言~!?そっそりゃあ……そうらしいけども!!
でも、こっちだって人権とかあるんですけども!?
って思っても言えないけどさ、言葉にできないけどさ!!

「なんだとぉ!!」
「テメェッ!!なんてこと言いやがる!!」

両隣がキレているのでコチラはむぅっと反発するように頬を膨らませれば、
二人をおさえていた手を緩め、少しだけ真面目なトーンで山本が反抗する。

「そりゃあ言い過ぎじゃねぇか?は人間だぞ」

優しいから私の代わりに怒ってくれたのかなと思っていたら
怒らせる気はなかったのか、少しだけ目を丸くした後
私にだけ目線をあわせながら、少年は呟いた。

「賞品って言っても、最初からこっちのものだろう?」

何を心配すると続ける雲雀に唖然とする一同。

「え?あの意味がわからな「だからさ」…?」

「君たちは勘違いしてるけど、勝てばいいんだろう?」

ゆっくりと不敵な笑みで近づく少年。美しい切れ長の瞳が細まる。

「どうせ僕が勝つんだから……渡すわけないよね?」

少年の唇が弧を描く。ああ……なんて大胆不敵。
そしてなんてこんな台詞が似合うんだ。

くやしいけど、そうですとしか言い様がなかった。
山本も一瞬驚いたあと、いつものような人なつこい笑みで
そうだよなと微笑んだ。獄寺は少しだけ赤い顔でうなり
了平は紛らわしい言い方に腹を立てていた。

なんとか合流したので、会場へ向かおうとすると
まるで地震でも起きたかのような衝撃音とともに、軽く地面が揺れた。

慌てて、体勢を崩しかけた私を親切で山本が、すかさず抱き留めてくれようとしたが
その前に雲雀の腕に絡め取られていた。

「あっ、ありがとうございます雲雀さん」

なんやかんやで毎回助けてくれるので、少し恥ずかしさと申し訳なさで慌てて体勢を起こす。

「そうか」

「雲雀さ……ヒッ」

も、もの凄い怖い……というか楽しそうな顔してらっしゃる!!
どうやら地震の正体だと思われる後ろの相手に対して挑発しているようだった。
後ろを振り向けば、今日の対戦相手のゴーラモスカが何食わぬ顔で立っている。
こちらにも律儀に驚いたあと、雲雀の後ろに隠れれば彼はまた挑発的な笑みをうかべた。

「アレを…咬み殺せばいいんだ」

待ちきれない様子の雲雀さんをなだめて、なんとか会場で闘ってもらうように誘導していく。

「雲の守護者の戦闘フィールド……クラウドグラウンドです」

淡々と進行するチェルベッロにゴクリと唾をのみながら、会場を見渡す。

「運動場が…!!」

「アレはガトリング砲!?」

獄寺の言葉に、耳をうたがった。ほうって…あの砲!?
違いますようにと祈りながらチェルベッロの説明を聞くも
彼女達の回答はどこまでも無慈悲かつ残酷だった。

「雲の守護者の使命とは、何者にも囚われることなく…
独自の立場からファミリーを守護する孤高の浮雲。
ゆえに、もっとも過酷なフィールドを用意しました」

過酷……。今までのフィールドも過酷だったけど
それ以上に過酷だなんて……雲雀さん!!

ギュッと手を握りしめた。震えがとまらない。
分かっている。彼が強いことも、私がいくらやめてと言ってもきくわけ無いことも。
けど、こんなのやっぱりおかしいよ。

なんで……どうして、まだ子供の私達がマフィアだかなんだかと
命をはらないといけないの? Page Top Page Top