!?

ついに霧の守護者の対決となった。
場所は体育館らしい。

場所が場所だけに、ほんと……この際ドッジボールとかで
穏便に勝敗を決めて欲しいと痛む胃を抑えつつ願う。

結局、本番まで霧の守護者が誰なのか
リボーン君も言わなかったし、ツナも分からないと困っていた。
でも、ツナや私だって最終的にリボーンを信じるしかない。

良い人でありますように、と何度も願いながら
その人物がやってくるのを待っていると……彼女は現れた。

あれは……黒曜中の制服……?

「我が名はクローム髑髏どくろ

皆も私も骸がくるとばかり思ってたので面食らったが
彼女の顔と独特の髪形で思い出して声をあげる。

「あっあなた!?」

「え、知り合い?」

ツナに聞かれたが、どう答えよう。
彼女は骸の協力者で、誘拐された時に一度面識があるくらいしかない。
しかも、骸がきたタイミングで入れ替わりでいつのまにか消えたからな。

ツナが念を押すように、彼女とその仲間と思われる少年2人に骸なのかと問いかけた。
しかし遮るように、獄寺が声をあらげる。

「十代目!!どうみてもコイツは六道骸ですよ?」

「骸が憑依してやがるんです!!」

憑依?――でも以前彼女と会った時は確かに自らの意思で喋っていたし。
骸がまさか人に憑依できるスキルがあることに驚きつつも
彼女は信じて貰えないのと悲しそうにしている。

彼女を擁護するつもりはないが、どう見てもあの骸が憑依したにしてはしおらしくない?


「あっあの…彼女は「骸じゃないよ」…ツナ」

ツナが静かに、けれど確信めいた力強い言葉で否定した。

「そっそうなんすか?」

「たっ多分!!――なんとなくなんだけど!!」

「私も、この子は骸じゃないと思う」

スッと彼女が近づいてきた。

「かばってくれるんだ……ありがとうボス」

彼女は少し背伸びをした後、小さくツナの頬にリップ音をたてて口づけた。

「えええええ!!」

当の本人のツナだけじゃなく、みんなが赤くなったり、青くなったりして面くらう。
彼女はすぐにコチラにクルッと振り返ると、私にあわせてしゃがんでツナと同様に口づけた。

流石にアメリカ帰りでチークキスはされたこともあるし
同性ということもあり、ツナよりは照れなかったが
それでも突然の行為に、頬が赤くなるのは否めなかった。
また皆悲鳴をあげて驚く。

あいさつと何食わぬ顔で呟く彼女に、ツナは放心状態。
ツナの不意打ちに、なぜか獄寺はキレて山本におさえられてる始末。

突然の霧の守護者の登場からこんな調子で……うちのチームは大丈夫なのかとうなだれた。
ってか、イタリア出身なら獄寺も挨拶でチークキスくらい許容してあげなよ。
ましてやこんな美少女からキスされるなんて、ふつうは飛んで喜ぶでしょ。

「へぇ…仙人みたいなやつがくるかと思ったら」
「妖艶だ」

相手陣もなんだかざわついてるようなのは気のせい?
コチラはまだ年も変わらなさそうな少女が守護者か。
相手はマーモンとよばれているリボーン君と似たような赤ん坊。

じっと見てたら、金とるよとカワイイ声で脅されたので
慌てて視線をそらした。悪い意味でめっちゃ心臓がドキッとした。
だって、あのフード……目があってるか分からないじゃん。

クロームはおとなしそうな子だった。
実際、ツナが霧の守護者として認めないなら出たいけど出なくてもいいらしい。
ツナは一瞬迷ったが、リボーンに霧の守護者として出場できるのは彼女しかいないと念をおされると
覚悟をきめたように、こちらに迎え入れることにした。

クロームは安堵したように笑う。
ちょうどそのタイミングで、コロネロが鷹にのってやってきた。

眠そうだったが、今回の対戦相手をアルコバレーノかどうか見極める必要がとか呟いている。
アルコバレーノ?と疑問符を浮かべつつも、とりあえず試合が始まったので試合に集中することにした。

「会場にはなにも装置がないの?」

今までの過剰演出はなんだったんだと思いながら
ないならないで逆に怖い気もする。

リボーンいわく霧の守護者の対決に
余計なものはいらないらしい。

「無いものを、在るものとし…あるものを、ないものとすることで
敵を惑わし、ファミリーの実態をつかませない……。
まやかしの幻影…それが霧の守護者の使命だからナ♪」

私達は赤外線感知レーダーがついた檻の中に入れられ
チェルベッロの二人が高らかに試合開始を宣言する。

「ゆっ床が?」

クロームが三叉槍を床につきたてると、床が崩れ落ち始めた。

「ボクと同じ術師か…でもそんな子供だましじゃ
ボクから金はとれないよ」

マーモンのフードから、青い触手のようなものがいくつも飛び出し
クロームの顔にイソギンチャクが獲物をとらえるように貼り付く。

「床が…もどった」

なるほど、術者が攻撃をうけたりして術がとければ幻覚はなくなるみたい。

「見世物にもならないね」

しばりあげられ、苦しそうにしているクロームに悲鳴をあげる。
しかし、次の瞬間マーモンの背後から可愛らしい声が響いた。

「だれに話してるの?」

声に弾かれるように、さきほどまでしばりあげていた先をみれば
少女がバスケットボールの籠に変わっている。

「どっどういうこと!?」

「幻覚だぞコラ!!」

「互いに譲ることなくマボロシを作り出す。息もつかせぬ騙し合い。
こんなすげぇ戦いは滅多にみられるもんじゃねぇゾ」

マーモンが宙に浮かぶ。頭には蛇が尾をくわえてさながら天使の輪のようだ。

ツナ達はアルコバレーノがどうとか話してる。
私は話してる内容の半分も理解できなかったが、とんでもない相手ということは理解できた。

どうか、あの少女が大きなケガをしませんように。
一度誘拐されたとはいえ、あの時も私を気遣ってくれたし
なによりあの子自身……そんなに悪い人に見えない。
私がお人よしなのかも知れないけど、でも同年代の女の子は傷ついてほしくないのが本音。

浮いたマーモンに対して、クロームは飛びながら応戦する。
けれど人が飛べる距離なんて限界がある。ことごとく交わされる攻撃に
私までなぜか焦りながら、どうにかマーモンの動きを封じられたらと願ったその瞬間。
クロームが宙を割くように三叉槍をふるうと、マーモンの後ろに別次元の空間があらわれ
中からおびただしい黒い蛇が出てきて、赤ん坊の身体を締め付けた。

「これは…幻術じゃない?」

流石のマーモンもあわてている。
ツナや獄寺はこの技に心当たりがあるようで、しきりに骸がと何かを確認していた。

「火柱が…こおった!?」

熱くなったり、寒くなったり……このステージは激しすぎる。
吐く息ですら痛い。これも幻覚?
リボーンの言葉を思い出した。

「無いものを、在るものとする…これが? 」

ないものというよりも、むしろ現実じゃないかと錯覚しそうなほどリアル。
カタカタと震える身体を少しでも熱を逃がさないように抱きしめる。

少女の小柄な体が簡単に吹き飛ばされた。
氷漬けのステージは消えたが、変わりに少女は体育館の床に転がっていた。
落とした武器にあわてて近づくクローム。

それに気づいたマーモンが、大事そうに抱えた武器が彼女の弱点だと気づき
間髪入れずに破壊した。粉々に砕け散る三叉槍と響く彼女の絶叫。

「ダメ!!」

次の瞬間、苦しそうに吐血したあと倒れ込んだ。
クロームのお腹が……しぼんでいく!?

細いとかの次元じゃない……あれ、中の臓器とか……どうなってるの?
もう試合とか中止して、今すぐ病院にでも連れていくべきじゃ。

「にわかには信じがたいけど…幻覚の内臓で延命していたんだね」
マーモンの言葉に、一同唖然とする。

「幻覚の内臓!?」

「それで幻覚のコントロールをうしない、腹がつぶれたんだな」

そんな……どうしてそこまでして戦えるの?
しきりに彼女は骸の名を呼んでいる。
彼のために……偽りの内臓で延命してまで戦うの?

彼女の身体が霧につつまれていく。
その瞬間、なぜか寒気が体を駆け抜けた。
言い知れぬ恐怖がやってくるように。

「「くる」」

ツナと重なるように呟いた言葉。
私は確信を持てなかったが、ツナはハッキリと六道骸がくると告げた。

マーモンも男の声に違和感を覚えたその瞬間。
割れた地面の衝撃で吹き飛ばされた。

「ずいぶんと粋がってるではありませんか」

あの声、あの口調……はれた霧の中から浮かぶシルエットに思わず身震いした。

「お久しぶりです。――舞い戻ってきましたよ。輪廻の果てより」

「六道骸…思い出したよ。確かヴィンデェチェの牢獄から一か月前脱獄に失敗した…」

脱獄ー!?え、今駆けつけてくれてうれしいけど……脱獄はヤバいでしょ。
前回の拉致られて、なんらかの術をかけようとした経緯は忘れてないからね?

そりゃ、マーモンのいうような音も光も届かないような
最下層に閉じ込められているという情報は可哀想だし
流石にそこまでの罰を与えたいわけじゃないけど……
一か月間道路のゴミ拾いとかでいいから、前回の一件を悔い改めることはしてほしい。

マーモンはクロームにかけた幻覚の一種だと思っている。
でも、あの感じとか……幻覚にしてはリアルすぎない?
いや、さっきから幻覚にたいしてリアルだなとしか思ってないけど
でも……なんだろうな。――この人独特のオーラとかの感じ?

こればかりは幻覚じゃないような気がしてならなかった。 Page Top Page Top