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その後獄寺は山本に後をまかせると、そのまま気絶した。
リングは相手に渡り、勝負も負けたけど今回は負けても悔いはない。

「笑える結末だったなぁ!!」

後ろを見やると廊下の奥にヴァリアーが立っていた。
相変わらずいちいち癪に障る言い方で煽ってくるなあの銀髪ロン毛。

「これでいよいよ、貴様らの命は風前の灯だ!!」

「それに君たちの霧と雲のリング保持者はいまだ現れないじゃないか……。
出場者がいなくて不戦勝なんて落ちじゃないだろうなぁ」

あっ。あの黒ずくめの赤ん坊。リボーン君と同じ匂いがする。
でもあっちの方がなんか毒吐く率高いぞ。
警戒して睨みつけると、スクアーロが怖い顔するなよと嘲笑った。

「どうせすぐに俺たちのモンになるんだ」

「っ…いやです!!」

「いいか?俺だってテメェみてぇなカスは願い下げだがよぉ。
意外と使い道があるらしいからなぁ」

「つかい…道?」

「ハッ。女に生まれてよかったなお前」

顔に熱が集まる。それって……。深く考える間もなくすぐにツナが私を背に隠した。
ツナを見やれば羞恥と怒りで顔を赤くし、肩を震わせて抗議している。

「お前!!なんてことを…」

「いまのは流石に言わせておけねぇよな」

あの山本も切れてる。あたふたしながら二人に落ち着いてと声をかけた。
こんなところでドンパチできない。まずは獄寺の手当てしないと!!

「あぁ?チッ。まぁ、テメェらが考えてることも選択肢としてはあるぜ」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべるスクアーロにゾッとする。
ツナだけじゃなく、山本やいつもは鈍い良平ですら
今の発言を聴いて、少女を背に庇うように立った。

「だが俺たちの最大の目的は……」

「君をボスの花嫁にすることさ」

追加するように、赤ん坊の可愛らしい唇が動いた。
え、ボス?花嫁……?ってザンザスの!?

ポカーンとしながら、なんでぇと魂が抜けかけていると
相手も不本意だがそういう作戦だと声を荒げた。
どうやらこの選択にはあまり賛成していないようだ。

「なっ…納得していないならどうにかそれを考えた人に
辞めといたほうがいいよってアドバイスしてきてくださいよ」

さっきまであんなにセクハラ発言だったのに、しだいに嫌々な感じが伝わると
流石に女としてのプライドとか、とにかく傷つく。

「アドバイスだぁ?それが出来れば苦労はしねぇよ
ボスが決定したんだからなぁ!!」

「そうだね。まぁボクは賛成でもないけど反対もしないよ。
そんなことしても、一銭にもならないしね。
それにダメでも日本人の未成年は高く売れるから」

ボソッとあの赤ん坊怖い事言ってる。
ってかボスの決定って……あのザンザスが!?

いつぞやの時みたいにデブ専ですか?と突っ込もうとしたが
あの時みたいに秒速で否定されるのも恥ずかしいし
何より言う前にチェルベッロの二人に遮られてしまった。

「明晩の試合は、雨の守護者の対決です」

雨……ってことは山本!?
弾かれるように山本に視線を映せば
いつもの爽やかな笑みで任せとけと安心させられた。

「ついにテメェをかっさばけるぜ!!」

こわっ。眼が血走ってるよ。
スクアーロとか言う銀髪ロン毛。確かに前回めっちゃ強かったからなぁ。
しかし山本も楽しくて眠れねぇとか煽りスタイルで決め込んでる。
あわわ、やめとこうよぉ。相手に青筋が浮かんでいるのにヒッと私だけ息を飲んだ。
まだまだヘタレキャラはぶれることはない。

「レヴィ隊長。何者かが校内に侵入し遊撃隊を次々と倒しています」

「何?」

急に現れた黒ずくめの男に安定のビビりを見せつつも
さらに彼の一言にゾッとした。え、また敵?と
慌てて辺りを見渡しいつでも逃げれる準備を整える。

「うわああっ」

えっ、何!?どうしたの!?
ビクッと身体を揺らし、視線をやれば吹き飛ばされる男。
そして……。

「雲雀さん!?」

なんでここに?っていうか気まずっ。
勝手に雲雀さんの家から逃げたっきり会ってなかったんだけど。
彼は一瞬だけ切れ長の瞳を丸くし驚いた顔をしたが
すぐにいつものポーカーフェイスに戻して、校内の様子に舌打ちした。

「校内への不法侵入…及び校舎の破損。連帯責任でここにいる全員噛み殺すから」

あ、なんか助かったかも。
あっちは私より校舎のボロボロにお怒りだ。
しかし噛み殺されたくないし、この後めんどくさそうなので
片足ずつバタバタさせて急に走っても足首を痛めないように注意しつつ
ゆっくりと距離をあけていく。ホントにゆっくり、牛歩のごとく。

なんか雲雀さんのことをリボーン君がバジル君に説明しているな。
風紀委員で、雲の守護者!?――あれだけ長くいたのに
知らない情報なんだけどと内心ショックをうけつつも
場外バトルを開始しそうな雲雀に青ざめた。

「ちょっ、雲雀さん!!失格になりますって!!」

山本が止めに入る。英断だけど、彼が説得されるだろうか。
案の定意外と雲雀さん脳筋だからすぐトンファーを振り上げ山本に襲い掛かった。
しかしスゥッと舞うようによける山本がいつの間にか雲雀の背後に立ち武器を抑えている。

「邪魔するものはなんぴとたりとも噛み殺…「ちゃおっす!!」…」

戦闘態勢の雲雀を遮り、リボーンが可愛い声で挨拶する。

「ここで暴れちまってもいいが、でっけぇお楽しみがなくなるぞ?」

「楽しみ?」

「今すぐってわけじゃねぇが、ここで我慢して争奪戦で戦えば
遠くない未来、また六道 骸と戦えるかもしんねぇぞ」

その言葉を聞いて、雲雀は攻撃をやめるときびすを返した。
六道 骸ってあの……私を誘拐した挙句に鎖でつないだパイナップルヘアーの!?
アレが全ての悪夢の始まりだったなと青ざめていると
そうだと雲雀が足をとめて、少女に向き直った。

「君はあとで話があるから」

私はないですと瞬時に言おうと思ったが、周りの視線が今は逆らうなって感じだったので
黙ってうなずいた。ものすごく不本意だがうなずいた。

その後ヴァリアーはさり、入れ違いできたディーノさんから
雲雀さんの修行をつけていたことやスクアーロの過去を聞いた私達。

雲雀さんが去ったので逃げるタイミングを失った。
雲雀さんが来た時点でダッシュで逃げればよかったなと
この後のドキドキ☆おしゃべりタイムを思い出して胃が痛くなる。
そんなイベントに分岐した覚えはない。
しかし選択肢がバグってここのルートに進まざるおえない。

もちろんすっぽかして逃げることもできるかも知れないが
その後に彼と遭遇したらもっとやばい。
ただでさえ絶滅危惧種なみの危うさの私。
逃げる覚悟なら国外逃亡レベルの覚悟がないとむずかしいだろう。

ひと昔前のやれやれ系主人公の気持ちになりつつ
今は頭に浮かんだ疑問をたずねることにした。

「雲雀さんが雲の守護者なのは分かりました。
でも、雲雀さんって群れるの嫌いですよね?」

こんなわいわい大勢で大丈夫なのかなと不安げな顔をすると
ディーノが苦笑しつつも、どうにかするとフォローした。

「強いやつと戦えるって説得して、大人しくしてもらうさ」

やっぱり不安しかない。ってか雲雀さん家にいた時も
一言も雲の守護者だとか言ってなかったよね。
あっちは私のことを分かっていたのかな。

商品……ヴァリアーに言われた言葉。ズキッと胸が痛んだ。
なんとなく知られたくないし、知って居たらなんて言われるのかな。

私の顔に不安の影がよぎったのに気づいたディーノが静かに
恭弥と話があるんだろと促したので静かにうなずいた。 Page Top Page Top