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「笑ってる」

爆風がはれると、棒立ちのままで流血しながら笑うベルが画面にいた。
私達は、あまりのその異様さにただ圧倒される。
どうみても、この人正気じゃない。

自分の身体を傷つけられて笑っているなんて……。
よほどの戦闘狂かマゾヒズムの持ち主か。

しかもなぜか画面越しに目があった気がした私は
ヒッと息をのんで目の前が歪んだ。

一瞬クラッと立ちくらみのようなものに襲われたが
近くにいたシャマルに抱き留められて倒れずにすんだ。

青ざめながら小さく礼を言うとキザな笑みで二カッと歯を見せて笑うシャマル。

「大丈夫!?」

近くのツナに心配されながら、小さくうなずいて
ゆっくりとシャマルから身体を離した。
彼はもっとそばにいてもいいのにと愚痴っていたがムシする。

「なんだか急にゾクッとめまいが…」

「そりゃあそうだろうなぁ、あれだけ殺気がもれてりゃあお嬢ちゃんにはキツイだろう」

苦々しそうに画面の向こうに視線をやるシャマル。
確かに画面ごしの少年は不気味でぞっとする。どうやらあの姿で殺気までバンバン出してるらしい。
怖い。ホラー映画のサイコキラーのようだ。

まさに無邪気の狂気を感じる。小さな両手を合わせて祈った。
獄寺になにも起こりませんようにと。

ロケットボムが向かっていくが、ベルはそれを華麗によけて前進した。
その素早さと全てのボムをよける身のこなしに驚かされる。

「危ない!!」

突風の影響の中はなったナイフは当たらなかったはずなのに獄寺の頬を傷つけた。
それだけじゃない。相手がナイフをかまえてすぐ迫っている。
機転でボムを相手にぶつけ、ベルが綺麗に吹っ飛ぶ。
よかったと思うのもつかの間、どこかおかしい。
そうか、あの爆風で獄寺も傷ついたんだ。

相手はまた起き上がり、狂気的な笑みで迫ってくる。

『あと6分でハリケーンタービンが爆発します』

アナウンスが無常にも響いた。
それに弾かれるように、この試合が時間制限だったことを思い出す。
まるで時限爆弾。私達はそれを解読することもできず
ただ見守るだけしか出来ないもどかしさでいっぱいだった。

図書館に逃げた獄寺と追うベル。
やはりベルのナイフは当たっていないのに、ボムを切り裂いたりと
おかしい動きをしている。

と、急に獄寺が動きをとめた。

「止まったらダメだよ獄寺くん!!」

ツナの叫びに、そうだよと叫ぶも画面の向こうには届かない。
私達を嘲笑あざわらうかのように可愛らしい声がムダだと告げた。

「モニターではわずかにしか見えてないけど、彼のまわりには
鋭利なワイヤーが張り巡らされている」

「そんなっ」

「いつのまに…どうやって!?」

「やはりナイフだな」

「ああ」

シャマルに続いて、リボーンが短く相槌あいづちした。
ナイフ……?いや、でもナイフは投げてたけど。

「ナイフのにワイヤーがつけてあったんだ。
これでカマイタチの説明もつく」

「ああ、そして二つの切断方法が生まれる」

二つの……切断?

シャマルによると、投げて切る場合。
よけたはずのナイフの機動、つまりワイヤーが風などで獄寺側に曲がって
ベルと間にあるワイヤーが内側に切れ込んで傷つけるパターン。

そしてもう一方が設置型。壁にナイフをさすことでワイヤーを貼れる。
それがそのまま目に見えづらい切断機となり獄寺を傷つける。

「あいつはナイフとワイヤーの両刀づかいだ」

シャマルの言葉に相手がただの頭がおかしいだけじゃなくて
策もねれるだけでなく、その技術力が半端ないことに圧倒される。
それが私達とあまり年が変わらないんでしょ?――天才って言葉じゃ足りない。
むしろ殺しのために生まれて来たとでも言わんばかりじゃない。

しかし私達の心配をよそに獄寺はさらに機転をきかしていた。
こぼした火薬を導火線にし、ワイヤーを設置していた本棚ごと爆破する。
張り巡らされていたワイヤーもたわんだ。
ツナも私も歓声をあげた。ワイヤーが使えなければ同じ飛び道具でも獄寺のボムの方が強いはず。

ボムがベルにめがけて飛んでとてつもない爆風をおこす。
ダメおしでロケットボムも飛び、追撃するように爆発した。
これなら勝ったかもしれない。

不安からではなく勝利の興奮ではやる鼓動をおさえながら
ハリケーンタービンが爆発するまえに逃げてと案じた。


「っ!!」

ハーフリングを掴んだ瞬間、さっきまで倒れていたベルが起き上がった。
それはまるでホラー映画のワンシーンのよう。
死んだはずの死体が生き返ったような心地で息をのむ私達。

シャマルが油断するなと画面越しに一喝したが
画面の向こうでお互いボロボロになりながらリングを奪いあう二人。
ベルにいたってはもう意識もとんでいそう。本能だけでリングを求めている。

『まもなく約束の時間です』

無機質なアナウンスが響いた。

「時間…あっ!!」

「獄寺くん!!」

「いかん。傷のせいで体力が落ちている。――このままではいかんぞ」

どっどうしよう。獄寺にはもうベルを押しのける体力もなさそう。

「やむを得んな……。リングを敵に渡して引きあげろ隼人!!」

一同は弾かれるようにシャマルを見る。
確かにリングは大事だ。だけどあと一分で爆破されるなら獄寺が危ない。

「わっ…私も、悔しいけど今回はにげてほしい!!」

「獄寺!!」

「タコヘッド!!」

皆も同じ気持ちなのか戻ろうとしない獄寺に声をあげる。
確かにここで負ければ後が厳しい。
だけど、獄寺を失ってまで手に入れる勝利なんかいらない!!

「ここは死んでもひきさがれねぇ…」

「っふざけるな!!」

獄寺の声をかき消すように、強めのアルトボイスが響いた。
涙目で隣をみると、ぼやけた視界でツナが肩をふるわせている。

「何のために戦っていると思っているんだよ!!」

「ツナ……」

「また皆で雪合戦するんだ!!花火みるんだ!!
だから戦うんだ!!――だから強くなるんだ!!
またみんなで笑いたいのに…君が死んだら意味がないじゃないか!!」

「そっそうだよ!!だから戻ってきてごくでっ……!!」

ビーと警告音が鳴り響いた後。
ツナの説得もむなしく、爆破が開始された。

みんなの悲鳴が響く。
ツナは倒れ込んだ。私もこらえていた涙があふれ出す。

「そんな……」

「あそこ見ろ!!」

リボーンの声に弾かれるように前方を見ると
黒煙の中からゆらりと人影があらわれた。
赤外線センサーの停止を確認し、すぐに私達はかけよる。

「よかった!!」
「獄寺!!」
「タコヘッド!!」

這うようにして戻ってきた獄寺がついに倒れ込んだ。

「すいません。十代目…リングとられるっていうのに。
花火みたさに……戻ってきちまいました」

「よかった。獄寺くん…」

「そうだよ、生きてさえいてくれればそれでいいよ」 Page Top Page Top