大空のリングが奪われた私達はこれ以上負けられないと
緊張の糸が張り詰めたまま、明晩の試合にのぞんだ。

「獄寺…おそいね」

心配だと呟く私を安心させるようにツナが笑う。
大丈夫だと。――いつもの私ならそんな子供だましな言葉に
余計に冷めてしまうが、ツナの言葉には妙な説得力があった。

本当にこの少年がいてくれたら、彼が大丈夫だから
全部任せろと言ってくれれば安心してしまうような。

大空のように包み込んでくれるような人。
一方の敵側のザンザスはどちらかというと、全てを飲み込んでしまいそうな圧を感じる。

一時でも守られて笑顔でいれればいいか……。
それとも、闇に飲み込まれても仲間を救えるならそれでいいのか。

ボロボロになったランボ君のことを思い出しギュッと拳をにぎる。
あの後からどこかで覚悟を決めなければと思っていた。
相手は子供にも容赦しない。――なら私だっていつまでも弱気じゃダメだ。
仲間を助けるためには、商品という立場を悪用してでも……。

これ以上、仲間が傷つくなら死んでやると脅してでも
相手をとめなければ……。本当に死ぬ勇気なんてないし
こんな脅し文句を聞いてくれずに、仲間を殺してでも奪われればおしまいだけど。
でも、ランボ君が……私のために何も知らないあんな子供まで傷ついたんだ。
私だって何かを犠牲にしなければ……。

獄寺はギリギリのタイミングで来たのを確認し
皆が安堵の声をあげた。

彼と視線があうと、昨日と同じように強気な笑みを浮かべてみせる。
そんな姿に私ももう一度昨日と同じようにトコトコ歩み寄ると
無理しないでとつげた。――泣きそうな顔をしないように頑張ったが
一瞬だけ見せた彼の優しい笑顔に気をつかわせてしまったなと後悔した。

「ああ。勝ってくるぜ」

「ハッ。バカかテメェは?」

弾かれるように振り返れば、すでにヴァリアー側も待機している状態だった。
獄寺の相手となる……確かベルと呼ばれていた少年もクスクス笑っている。

「逃げ出したかと思ったぜ」

「っなんだと!!」

「シシシッ」

不気味な笑みをうかべ、少年が一歩ずつ近づいてくる。
一番後ろにいた私との方が一番距離が近くてヒッと息をのむと
数歩きて立ち止まり、ゆっくりと指をあげた。

「全部…王子がもらうから♪」

弾むような声、指さす先には私。
指輪だけじゃなく、私まで奪うと挑発的な宣言に仲間も苛立ちの声をあげた。

「…は物じゃない!!オレたちの仲間で友達だ!!」

恐怖で固まっていた私の心を溶かすような言葉にハッと我に返る。
ツナが怯えながらもそれでもまっすぐ相手を見据えて渡さないと叫ぶ。

「まぁ…今だけでも友達ごっこしておけばいいんじゃね?」

さっきまで指さしていた私ごと興味をなくしたようにクルッと背を向けるベル。
しかし、背中越しに肩が揺れているのは私達をあざ笑っている証拠だった。
それに一同はムッとするも、すぐに試合に意識を集中させる。

………
……


校舎の三階すべてを使った……今までよりかなり大きなフィールドに
獄寺とベルを残し、私達は観覧席にうつった。

さりげなく途中で乱入してきたシャマルに肩を抱かれて
一緒に行こうと囁かれたが、後ろで獄寺が怒号を飛ばしたので
やれやれとシャマルが肩をすくめて私から離れる。

心臓がドキドキしながら、もう少しで大人の色気に負けそうだったので
ナイス獄寺と心の中でエールを送る。

それにしても……いつの間にこんなに?
天井に設置されたモニターの数に驚いた。
確か、獄寺の武器はダイナマイトだったよね。
以前のスクアーロと対峙した際の攻撃に使用していたのを思い出し
この広範囲なら校舎内で爆発したとしても、彼も巻きぞえを
くらう可能性は低いかもと少しホッとする。

火薬系の武器は威力は高いけど、暴発が怖い。
かと言って火薬の量を減らせばそれはただの線香花火だ。
祈るように両手を合わせると、今度は下心はなさそうに
安心させるかのように、私の肩にシャマルが手を置いた。

ちゃん。心配すんな」

視線があうと、さっきの獄寺を思い出させるような優しい瞳とぶつかる。
それに眉をさげて、私は小さく"はい"とうなずくしかなかった。

獄寺のダイナマイトが爆発し、煙があがる。

「やった!!」

喜んだのもつかの間、相手には傷一つついていない。
それどころか獄寺を囲うように無数のナイフが襲いかかった。

綺麗に磨かれ、光を反射してきらめく銀色のナイフ。
その全てが鋭利えいりかつ同一の形をしていることから
相手の使用した武器だと一目でわかる。

すぐに気付いたおかげで獄寺はよけた。
行き場を失ったナイフが廊下床にささる。
全てが上をむいて綺麗に刺さっているナイフに
アレが身体に刺さっていたらと恐ろしくなった。

獄寺がナイフに応戦するように今度は3倍のダイナマイトを投げるが
大量の風に外に吹き飛ばされてしまった。

「風の動きをよんで…わざとよけなかったの?」

そんなことが人間に出来るのか。
ヴァリアークォリティーが高いとはいえ……ここまでとは。
シャマルも険しい顔でモニターを見つめている。

でも、相手だってナイフなら投げ技だから獄寺のダイナマイトと同条件なはず。
こんな風の中で投げられるわけ……え。

あの風圧の中を泳ぐようにナイフが獄寺に飛んでいく。
1度目は教室に飛び込んでなんとかよけたが、2度目は彼の頬をかすめた。

唖然とする獄寺とモニター越しの私達。

ベルが風にナイフをのせるだけだと見せつけるように笑う。
一同でどよめきがあがった。

「気流の流れを読むなんてそんなこと…」

ツナの言葉に、私も動揺の声をあげた。

しかしシャマルが苦々しく呟く。

「不利だと思われる状況を逆に利用して…こんな人間離れしたことをやってのけちまうんだ。
認めざるおえないな……やつは本物の天才だ」

「てん…さい?――そんな」

獄寺が危ない!?どうか、無理しないでと祈るような気持ちで
モニター越しに見つめるしか出来ない自分が悔しかった。

ナイフがどんどん飛んでいく。
これじゃあ攻撃するタイミングがつかめない!?
モニター越しの獄寺も焦った様子で、ここは一旦引くことにしたようだ。

ダイナマイトの爆発と同時に相手と私達の視界から消えた。
次に彼を視認できた時は教室で、安全のために壁を背にしていた。
よかったと安堵するも、またナイフがどこからか飛んできた。
しかも彼の肩をかすめる。ざわめきがあがった。

なんで!?ベルって人はまだ廊下にいて……獄寺のことを見つけてすらいないのに?
さっきの芸当は気流をよんだということで納得がいくけど
今度のは人間離れどころかホラーだ。

慌てる私をよそに、獄寺は何か考え込んでいた。
なぜ当たるのかのカラクリを解こうとしているのかも!!
次は当たらないようにと願ったが、今度は画面越しのベルが
大量にナイフを飛ばすのが目に入り思わずよけてと叫ぶ。

この声が届かないのは分かっていたがそれでも叫ばずにはいられなかった。

何かに刺さる音。人体模型じんたいもけいがドア越しに倒れてそのまま廊下に飛び出した。
なんでアレにナイフがと疑問に思うのもつかの間
ツナと私は急に動きだしたソレにヒッと悲鳴をあげた。

「獄寺!!」

人体模型を動かしていたのが少年だと気付いて安心する。
よかった。どこも刺さっていなくて。
でもなんでと思ったが、何か細いものが人体模型の頭に巻き付いているのに気がついた。

「アレは…ワイヤー?」

なるほど、さっき肩を叩いた時に獄寺につけたんだ。
そのワイヤーにそうようにナイフを走らせたから、ナイフがまっすぐ少年に飛んできたと。
突然飛んでくるナイフのカラクリがとけてホッとする。

でも……あの風の中ではいくら
ワイヤーのカラクリをといたところで
獄寺から攻撃するのは出来ないんじゃ?

「ボム!?」

ツナの叫びに弾かれるように獄寺に視線を移せば
獄寺がダイナマイトを何本も指に挟んでかまえている。

「でも…あの風の中じゃ」

「あたんねぇボムをあたるようにするために……
ナンパ返上で付き合ったんだぜ」

さりげなく肩を抱き寄せられたので
えっと振り返ると、ニカッと歯を見せて男が笑った。

「だからちゃんもそんな不安そうな顔しないで
あいつのこと、応援してやってくれ」

シャマルは私に熱い視線を送っていたが、言い終わるくらいには
すでに獄寺へと真剣な眼差しを送っていた。
私も肩に置かれた手を振り払えずに、小さくうなずいて
すぐに獄寺に視線をうつす。

「ボムがまがった!?」

「すげーな獄寺!!」

嬉しそうな山本につられて、皆もワッと声をあげた。
空中で何度か曲がったダイナマイトが風圧をものともせずに
ベルに向かって勢いよく飛んでいき、爆発した。

「ロケット・ボム。――こいつこそが特訓で隼人がつかんだ技だ」

特訓?シャマルさんと獄寺が特訓していたんだ。
私は逃げ出してしまったけど、でも皆特訓してこの場に挑んでいる。
胸が苦しくなった。私が特訓したところでたかが知れてるけど……。
それでも、苦しい思いから1人逃げ出したことへの後悔は残る。

リボーンもシャマルの説明に補足するように付け加えた。

「方向転換するボムか」

「ああ。仕込んだ推進用火薬の噴射で二度方向が変わる。
――隼人に最もたりねぇのはスピードだった。
そこで武器そのものの機動力をあげたわけだ」

見てもすごいし、説明聞いてもすごいってなるけど。
でも冷静に考えると二度方向転換するのを操るってかなり至難の業じゃない?
二回曲がるのを予測して投げないといけないんだし。

「すごいよ獄寺くん!!」

「やったのか!?」

直撃したと告げるバジルの言葉に、良かったと安堵した。
当たっていないと意味がない。
もちろん爆風だけのダメージも相当だと思うけど。
でも相手は戦いの天才と言われているほどの少年。
確実にこの一撃で仕留めてどうか時間以内にハーフリングを獲得してほしかった。 Page Top Page Top