奪われた大空のリング
サーキットの避雷針が熱で溶けてる!?
しかもこんな太いのに全て根元から……なんで。
ふと視線をやると、炎をまとったツナがいた。
両手のグローブから炎、額からも炎が出てる。
熱くないのか心配になったが、いつぞやの額から出てた時も大丈夫だったし
心配しなくてもいいんだろう。――それにしてもいつのもツナよりも顔つきや雰囲気が違う。
「いくら大事だって言われても、ボンゴレだとか
時期ボスの座だとか…そんなもののためにオレは戦えない」
ツナも私と同じようになりゆきでこうなったと聞いた。
だからこそこの言葉は刺さる。――私もツナもできることなら普通の中学生でいたかった。
時期ボスとかマフィアとか言われて戦えって言われても
そんなの急にどうすればいいのか分からないよね。
「でも友達が……」
額の炎が消えた。険しかった顔つきがいつもの幼い顔つきに戻る。
「仲間が傷つくのはイヤなんだ!!」
私達は納得した顔でツナを見つめた。みんな同意だった。
ランボ君を犠牲にしてもし勝ったとしても
それは私達にとって勝利じゃない。
「ほざくな」
「え」
低い声とともにツナの身体が吹き飛んだ。
「あれは…」
給水塔の上に立つ男に空気が凍り付く。
確か敵のボスのザンザスという人だ。
圧倒的な威圧感に足がすくむ。距離が離れてるのになんて眼光のするどさだろう。
その時、視線があった。
ヒッと息がとまる私。――ザンザスの瞳が細まる。
攻撃をうけてのけぞるかのように無意識のノックバックをくらい
数歩後ろに下がったが、ツナがすっと庇うように私の前に出てくれた。
視線が私からツナに移動する。
「なんだその目は…」
両者視線を交差したまま動かない。周りの空気も凍てついてだれもが動けなかった。
「まさかお前…本気で俺を倒して
後継者になれると思ってるのか?」
低い声が響く。感情的とまでは言わないが不快さを含んだ
声色。
間髪入れずにツナは言い返した。
「そんなこと思ってないよ!!オレはただ…この戦いで誰1人仲間を失いたくないんだ!!」
ツナの言葉に仲間もうなずいた。
私も心の中でうなずく。私達もツナと同意見だよ!!
仲間を失ってまで後継者の座なんか手に入れたくないし
きっとツナならいらないって思うだろう。
「そうか…テメェ」
「手…から炎!?」
すぐさまチェルベッロの1人がザンザスをたしなめた。
「ザンザス様、いけません!!――ここで手をあげては
リング争奪戦の意味が…手をお収めください」
「うるせぇ」
ザンザスの手から放たれた攻撃が女性を吹き飛ばした。
みんなが目を見張り、息をのむ。女性はすさまじい衝撃で屋上の床にたたきつけられた。
「俺はキレちゃいねぇ」
どこがだよ。やばいよこの人。頭おかしすぎる!!
私達をあざ笑うかのように不敵な笑みをうかべるザンザス。
楽しくなってきたとか言ってるけど……冗談じゃない!!
「やっと分かったぜ。一時とは言え親父がお前を選んだわけが」
親父……?九代目ってザンザスのお父さんなの!?
衝撃の事実に固まるが、なんで息子に継がせなかったのかとも疑問に思う。
なんでこんなツナとザンザスを争わせるようなことしたの?
ツナだってマフィアになりたくないんだし、ザンザスはすでに人殺しの目してるから
マフィアにピッタリだと思うんだけど……。
「その腐った
戯れ言といい…軟弱な炎といい…
お前とあの老いぼれはよく似ている」
急に笑い出すザンザスにイヤな予感がする。
男はもう1人のチェルベッロの女性に声をかけた。
「おい女…続けろ」
うながされるまま女性の口から淡々と試合の結果が発表される。
結果はツナの妨害によって相手側の勝利。
それにより雷のリングと大空のリングがヴァリアー側のものと告げられた。
「えっ」
「まてよ、なんで十代目のリングが!?」
「そうだ!!おかしくねぇか」
「話が違う!!失格ではないはずだ!!
――沢田殿はフィールド内に入っていなかった!!」
しかし女性はフィールドの破損は明らかな妨害だと訴え
ツナのリングを強引に奪い取った。
ルールを決めるのはチェルベッロ側にあるにしても
ちょっと卑怯じゃないの!?
確かにツナの行為は試合の妨害ともいえるけど。
でもそれならば最初にそのことを説明しておくべきではないのかと
みんなも私も怒りで熱くなりながら、何もできずに見守るしかできなかった。
「お前を葬るのはリング争奪戦で本当の絶望を味わわせてからだ」
絶望!?ギリッと唇を噛みしめる。これ以上の絶望があるの!?
ツナはランボ君を目の前でボロボロにされて、リングもうばわれて
しかもお前をいつでも殺せるとかつげられ……これ以上の絶望なんかあるのか。
私も、仲間がボロボロになったり理不尽な目にあったり
商品だって粗末に扱われるのはイヤだ!!
泣きそうだったが、こいつらには意地でも泣き顔を見せてやらないぞと
ぐっと奥歯をかみしめてこらえた。
「あの老いぼれのようにな」
ザンザスの言葉にその言葉の意図をよんだ少数の人間が
ハッと弾かれるように目を見張り、抗議の声をあげる。
「ザンザス貴様…九代目に何をした!!」
九代目って……え、でもザンザスのお父さんにあたるはずだよね?
そんな……まさか家族にも手をだしたの?
サーっと血の毛が引く。
ザンザスはさらに身の毛のよだつ提案をしてきた。
この後もリング争奪戦を行い、私達が勝ち越せば大空のリングだけじゃなく
ボスの座もゆずると。急に太っ腹な提案だなと面食らうも
次の負けた時の言葉がズシンとのしかかった。
「お前の大切なものはすべて消える」
ツナにむけての発言かも知れないが、チラッと一瞬こっち見たよね!?
その視線は恋の熱視線というよりも故意に殺すぞといわんばかりの殺気を含んでる。
あ、いや……そうか商品だから殺されはしない……?
あれ、でもあの人のとこいったら監禁とか薬漬けとかやばそう!!
リボーン君がボンゴレにいるから守ってあげられるとか言ってたことを思い出した。
「明晩のリング争奪戦は嵐の守護者の対決です」
嵐の守護者?――リボーン君にだれが何の守護者なのか確認しとけばよかった。
あ、でも後ろで獄寺がんばれとか騒いでるから獄寺が嵐の守護者ね。
脳内の少ないメモリーでメモしつつ、相手は誰だろうとうかがうと
ニヤニヤしてこっちを見てる……のか目が隠れて分からない
金髪の目隠れ男子と目が合った。
「ベルか……悪くない」
ザンザスの声が聞こえた。
ベル……。あの金髪目隠れ男子だね。あの人、なんかヤバそうだなぁ。
まだ若そうなのに、あの年でヴァリアーってよっぽど経歴すごいのかな。
なんか無邪気ぽさの中に邪悪さがにじみ出てて明日の試合はどうか
獄寺が無茶をしないようにと強く願った。
あの人十代目のためならとかいって喜んで神風特攻しそうだもん。
獄寺に近づいて声をかける。
視線があうと少年の固かった表情が一瞬ゆるまった。
「どうかしたか?」
「えっと…あのさ、明日の試合どうか無茶はしないでね?」
命を大事にしてほしいとつげると少し驚いた顔をして
ニヤッと少年は不敵な笑みをうかべた。
「俺が負けるわけねぇだろ?――安心しろよ。リングもお前も渡す気はねぇ」
後ろではよくぞ言ったぞと了平が騒いでる。
この人腕逝ってるのに元気だな。山本もいつもの爽やかな笑顔をうかべていた。
大丈夫、と私も心の中で繰り返す。どうか試合がおわっても
また皆で笑い合えるようにと願いながら。
ランボ君は病院に、私達は各々家路に帰った。