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「それでは明晩みょうばんお会いしましょう」

チェルベッロの言葉と同時にリング会場が崩壊した。
さっきまであんなに激闘していても壊れなかったのに
どんな作りになってるんだと思ったが、一部の照明がこちらに倒れてきて
悲鳴をあげた。

恐る恐る目をあけるも、痛みはない。

「え……」

けれど何か固いのが……って抱きしめられてる!?

「あぶねぇだろがあぁ!!」
ひぃいい、助かったのはいいけどよりによって怖い人に抱き寄せられてる。
不可抗力だとは思うけど、でも……色んな意味で頬に熱が集まって視線を泳がしていると
それに気付いたのか、わりぃと素直に身体を離してくれた。

「ハッ。ガキだな」

しかし小馬鹿にするのは忘れないらしい。
ムッと頬をふくらませると、すねるなと頭を乱暴にかき回された。
本格的に子供扱いされてる気がする。

ハッ。今なら拘束とかれてるしいけるんじゃ!?
ゆっくり、ゆっくり離れて、スクアーロが視線をそらしたすきに逃げた。
肩にのってた赤子も勝敗が決まった途端にやる気なくしたように降りてくれたのも助かった。
金髪目隠れ男子がスクアーロに逃げてんぞと告げ口してるがもう遅い!!
スクアーロの大声を無視して、気付いて腕をひろげるディーノさんに飛び込んだ。

「おかえり…

心配していたといわんばかりに大きくて
筋肉質なディーノの腕が少女を包むとすぐにバッと抱擁ほうようを解いて、肩に手を置き
どこもケガをしていないか思い出したように確認した。

「勝手なことしてすみません」
私も慌ててディーノに頭を下げると、呆れたような家光の声が後ろからふってきた。

「本当だ…勝手にお嬢さんを連れ出して」

家光さんも私がどうにか戻ってきたからあきれ顔くらいですんでるけど
実際あのままスクアーロに捕まってたら、勝手に抜け出したこと
怒られたりしたのかなと少しだけ罰が悪くなって肩をすくめた。

「私が行きたいって言ったんです」

そう。なるべく近くで応援したかった。
例えさっきみたいな危険な目にあうとしても
私以上にここにいる少年達は危険な目にあうんだから。
それを私はただ遠く安全な場所で傍観しているだけなんて出来ない。

はぁ……ほんと、我ながらなんて大胆になったんだろう。
もっと昔は慎重だったはずなのに。
そう、雲雀さんと会う前は……。

ってなんでこんな時に雲雀さんのことを思い出してんの!?
顔をぶんぶんふって意識を飛ばす。
雲雀さん……のことは忘れたつもりじゃなかったけど
今はあんまり考えたくなかった。
少ない間の居候生活とか……あの時の綺麗な顔がどアップで言われた

『君は……』

「自分が思ってるより悪くない……」

その時の言葉を次に会った時に否定したら咬み殺すって言われたから
口に出して肯定しようとしても、なんだかしっくりこなかった。

だって、こんなに状況を悪くしているのは
きっと意味が分からない景品という立ち位置にいて、対して役に立つか分からないのに
守って貰わなきゃいけなかったりする私だと思うから。
ぎゅっと唇を噛みしめる。

スクアーロはしばらく私がスッと離れたことに文句を言っていたが
仲間にどうせこっちが勝ってイヤでも手に入るとさとされ
アッサリと帰って行った。――ちょっとノンストップで失礼だな。

私のこと本当に物じゃなくて、人として心配してくれてるのは
ツナ達だけ……でもさっきスクアーロって人助けてくれたよね。
それは……私が景品だから……なのかな。心がズキッと痛んだ。
イヤなことをされても少しの優しさでコロッとだまされるのが私の悪い癖だな
あの人達は敵なんだ。そう言い聞かせるようにして保護してくれていた
ホテルに戻ることにした。――明日はランボ君の試合だ。

翌日の深夜。ツナ達と並盛中学校に集まった私は
チェルベッロの二人に次の会場となる屋上を示され
ランボとともにそこに向かった。

その間もずっとツナと私達の間の話題は
ランボで大丈夫なのかということで持ちきりだった。
実力を疑う……それも確かにないとは否めない。
だってまだ幼児だよ。中身だけじゃなくて身体も。

今自分がどんな状況なのかもランボ君は分かってない。
私達だってまだ子供だけど、そんな私達の二回りも小さい子に
あんな怖そうな人と戦わせるなんて……私はイヤだ。
けれどリボーンが言うには選ばれたメンバーということや
一度選ばれたら戦うしかないといった非情な現実だった。

「これは……」

屋上に出ると何やら棒上のものがいくつも天に伸びていた。
いつの間に待ち構えていたのかチェルベッロの二人が会場の説明に入る。

避雷針ひらいしんって…まさか」

雷が近くで落ちる。反射的にビクッと頭を下げた。
いくら雷の守護者だからって……本物の雷を落として戦うなんてバカなことしないよね!?

雷って高い木とかにも落ちるって聞くのに
こんなに何個も天に向かって避雷針設置したらどっかに落ちかねないんじゃないのと焦る。
晴の守護者の試合でも思ったが、試合する以前の会場に問題があると思うんだけど!?

「エレクトリコサーキット」

名前カッコイイけど、機能的にやばいですよと教えてあげたい。
ハッ。それとももしやチェルベッロ的には両方負けてほしいと思ってる?
疑うようにじとーっと見つめるも、何を考えているか分からない彼女達。

ってか対戦相手二時間前からスタンバってたの!?
なんか可哀想。わいわい騒いでた私達が少しだけ申し訳なくなった。
案の定ツナ達も若干引いてる。10分前行動とは教えられたけど二時間前から豪雨の中で待機はすごいよ。
あのいかつい黒服の人、絶対びしょ濡れだし。明日風邪引きそうだな。
敵ながら少し可哀想な目で見つめていると目をカッと見開かれて
こっちを見てきたので雷以上にビビって飛び上がった。

こわぁ。眼力だけで人を殺せそう。あ、マフィアだからすでに人殺しか。
ランボ君こんな人が相手で大丈夫かな。いざとなったら逃げてねと伝えるも
あんなやつボコボコにしてるぞと言ってきかない。
ツナの真剣な言葉ですら聞いてたのか怪しいし。
案の定アトラクション気分で会場に向かっていった。

「ランボ君よけて!!」
開始早々、避雷針に落ちた雷がランボののっていたワイヤーにも流れ
焦げるような音とともに感電した。

ヒッと息をのんだが、すぐにランボが痛いと起き上がり泣きじゃくる。
な……なんで!?あの雷なんボルトあると思ってるの!?
ランボ君変わった子だと思っていたけど、リボーンの説明によれば
なんとまさか雷に耐性のある皮膚を持っているらしい。 Page Top Page Top