敵チームが一斉に笑い出した。

え、と呆気にとられていると腕を掴んだ銀髪の男も肩をふるわせている。

「何を言いに来たかと思えば、そんなことか」

茶化すような物言いに羞恥しゅうちと怒りで顔に熱が集まる。

「そっそんなことじゃないです!!だって命はたいせつ「マフィアなんだろ」…え」

人の悪い顔で男は目を殺気でギラギラさせながら不敵に笑った。

「俺もこいつらも曲がりなりにもマフィアなんだろうが。
ならテメェの命もはれねぇでどうするよ?」

絶望で身体から力が抜ける。

「そんな……」
それを腕一本だけで強引に抱き留めた男が乱暴に少女を仲間のところへ放った。

「きゃっ」
よろけながら、なんとか転ばずにすんだが
相変わらず少女の膝は震えている。

!!」
「テメェ、女に何すんだ!!」

「あぁ?女?――ちげぇよ。こいつはただの景品だ」

男の言葉が呪いのように頭を駆け巡る。

「け…景品」

慌てて逃げようとすると、ヴァリアーに囲まれていて
サッと血の毛が引いた。後ろを振り返っても戻らせまいとスクアーロが立ち塞がっている。

「まぁそんな絶望した顔をしないでよ。
みんなもあんまりこの子を脅かすと
恐怖で発作ほっさを起こして死にかねないから気をつけてよね」

スッと私の前に赤子が可愛い声とは裏腹に
もの凄いことをサラッと言いながら近づいてきた。

「自己紹介は後でするけど…とりあえず今は
君も彼を応援したほうがいいよ」

ハッと我に返る。私を心配していたディーノやツナ達も
リングに慌てて視線を戻した。

リングのあのライトの熱のせいで脱水症状を起こして倒れる了平に
またどこからともなくタカにのってやってきた赤子あかごが立ち上がれと叫んでいた。

私の知る赤ちゃんの基準を超えてる子ばっかりで頭が混乱する。

「本当の力を見せてやれ了平!!」

コロネロと呼ばれた赤子がリングで倒れている少年に叫ぶ。

「本当の力?――でもどう見ても了平さん弱り切ってるじゃん」
これからどうやって逆転しろっていうの?

「その言葉を待っていた!!」

「おおっ!!」

了平が立ち上がり、味方からは歓喜の声があがる。
しかし私の周りのヴァリアーの人達は冷たい笑みを浮かべたままだった。
まるで勝ち目のない試合だといわんばかり。

逃げないようにスクアーロにまた腕をつかまれながら
なぜか私の肩にのってきた赤子と一緒に試合をハラハラしながら見守った。

「やった!!あたった!!」

温存していたと言う右の拳での攻撃がやっとルッスーリアにあたり
思わず歓喜の声をあげたが、すぐに絶望に変わった。
だって、全然あの人ダメージうけてない。

余裕そうにクリーンヒットならやばかったみたいなこと言ってるけど
普通に今のパンチだって素人からしたらいい線いってたと思うんだけど。
私の周りは化け物しかいないの……。

バリンッ

何かが弾ける音に思わず音を見上げると
次々と強烈な光を放っていた照明器具が破壊されていく。

しかも了平が拳を天に突き上げるたびに、照明はわれ
雪の結晶のようにキラキラとリングに舞い落ちていた。

「すごい……拳の圧だけで!?」

これでやっと了平さんも目をあけて試合ができる。

さらに敵のルッスーリアもこれには驚きを隠せない様子だった。

「圧だって?アンタもルッスーリアもよくあいつの身体をみてみろよ」

金髪目隠れ男子の囁きに了平の身体を見ると、照明以外の何かが煌めいていた。

「あれは塩?――水分が蒸発したというわけね」

ルッスーリアの解説に、私もそういえば夏場めちゃくちゃ汗をかいて家に帰ると
ああいうキラキラしたものが服についてたなと思い出して苦い気分になった。
それから一週間くらい家族の間でクジラちゃんとからかわれたことも忘れてない。

とにかく、照明をわったカラクリが分かって私は少しガッカリし
相手はニヤリと笑みをうかべた。
しかも了平の身体の塩を使って同じように照明をわってみせて
さらに一同驚愕と絶望に包まれる。

「そんな…了平さんの塩を利用して!?」

「へぇ、気付いた?――そうさ。技術もルッスーリアがあいつよりも上」

シシシッと横で囁く少年にビクッと震えて離れようとすると
スクアーロが逃がすかと身体を引き寄せられた。

「いっ痛い」
「なら大人しくしておくんだなぁ」

「おい。その子に指一本触れてみろ!!
俺が容赦しないぜ!!」

ディーノさん。思わずじーんとくる。頼れるのは正統派イケメンだけ。
イケメンにそう言われることなんてこの先一生ないはずだから
とりあえず脳内のフォルダに保存しとくわ。

「まぁまだ試合は始まったばかりだがよぉ
誰がみてもすでに勝敗なんてついたようなもんだろ?」

スクアーロの言葉に少しカチンとくる。

「なっ!?――まっまだ分からないじゃないですか!!」

「これだからガキは……いいか?現実をみろよ。
どうせこいつら全員負けて、ハーフリングだけじゃなく
テメェごと奪われるんだよ」

ズキッと胸が痛んだ。それはもっとも恐れていた悪い結末。

「それでも…希望をもつのは私の自由じゃないですか」

視線をそらしながら啖呵たんかをきると、相手は馬鹿にしたように笑った。

「ハッ。――その可愛い顔が絶望に歪むのも時間の問題だろうな」

カァッと頬に熱が集まる。思わずキッと睨み付けると
相手は大げさに肩をすくめてみせた。

「まぁテメェが暴れたりしないなら、こっちも半殺し程度にしてやってもいいぜ」
「はっ…半殺しって」

スクアーロの瞳がギラッと怪しげに輝く。

「もっとも、加減ができるかは分からねぇがな」

リングからは勝手に言わないでちょうだい~とルッスーリアが文句を言っている。
どうしても了平をお持ち帰りしたいそうだ。

「了平さん!!棄権して下さい!!」

「あっ…コラッ暴れんなっ」
リングに近づこうと掴んでいる腕をはがそうともがくと
また強引に引き寄せられた。面倒なのか首ごとグッと腕にからめとられる。

そんな少女に仲間から心配の声があがるなか、リングの少年は強がって見せた。
「大丈夫だぞ!!――俺はまだ右拳が残っている!!」

了平さん。こんなボロボロなのに……どうして。

「んもぉおお!!それは見切ったって言ってるでしょお!?」

ルッスーリアが地団駄じだんだを踏んで抗議している。
確かに私からしても了平さんの右拳がいくら強くても
あのルッスーリアに勝てるとは思えなかった。

コロネロがよく言ったぞと上空から檄を贈った。
それに弾かれるようにハッと仲間に視線を戻した。

仲間達はまだ心配げな表情だが、諦めていない。
なのに、私はすでに気持ちで負けてた。

ぎゅっと手を握る。スッと息を吸い込み
大きく横隔膜おうかくまくを震わせた。

「了平さん!!がんばって!!」

しかし右の拳までルッスーリアの鋼鉄の膝に砕かれる。

悲痛な声がリングからも外からもあがった。

「了平さん!!」

心臓がバクバクする。左だけじゃなくて右まで……。
ボクシングの技しかもっていない少年がこれ以上どう戦えばいいの。

「お兄ちゃん!!」

え、あの声は……京子ちゃん!?
そしてイーピンちゃんと隣の少女は誰だろう?
とにかく、こっこんな所に私よりも一般人がきていいの!?

しかも連れてきたのがツナのお父さんって……ちょっと何してくれてるのこの人!!
ツナも焦った顔してるよ。そりゃあマフィアだって隠してたし。
やばい、これ見たら流石に危ないことしてるってのはバレたんじゃ。

「お兄ちゃんやめて!!ケンカはしないって約束したのに!!」

え……ケンカ?――こっこの状態が!?
ツナ達も私も呆気にとられた。なんだか分からないけど
ただのケンカだと思ってるぽい。

「俺はもう負けん!!」

「立った!!」

ツナの言葉に了平へと視線が集まる。
どうして、あんなにボロボロなのに……チラッと京子ちゃんを見た。
私なんかよりも可愛らしい顔をゆがめて今にも泣き出しそうな
心配げな表情で見つめている。
もしかして、京子ちゃんを心配させないよう……?

「しつこいわね!!これで終わりにしましょ」

空中に飛んだルッスーリアが鋼鉄の膝を了平にむけて落とす。
しかし了平は臆することなく、右の拳をその膝にむかって突き上げた。

「これが本当の…極限太陽マキシマムキャノン!!」

マキシマムキャノン!?すごい…了平の身体からあれは死ぬ気の炎だろうか
とてつもないエネルギーが放出されている。
特に拳にのせたエネルギーは素人目からみても強力なのが分かった。

「メタル・ニーが砕けた」

やった!!これなら……。
肩の赤子がルッスーリアはもうパンチを防ぐ手段がないと呟いた。

京子ちゃんはコロネロとともに行ってしまった。
また別の緊張感がとけてホッとする。

リングでは了平がルッスーリアにハーフリングを渡すように促していたが
ルッスーリアは片足でも勝ってみせると渋っていた。

「すごい執念しゅうねん
ボソッと呟いた言葉に首をロックしていたスクアーロが笑った。

「ちげぇ」

ボンッ

ルッスーリアの身体が爆音とともに跳ねる。
火薬の匂いと皮膚の焼ける匂い。

ハッと後ろを振り返るとスクアーロの横にいた大きな身体をしたやつが
味方であるはずのルッスーリアに容赦なく撃ち込んだところだった。
思わずヒッと息をのむ。――ツナ達もありえないと血の毛が引いた顔で抗議していた。

「あいつ味方を!?」

「弱者は消す…これがヴァリアーがつねに最強たるゆえんの一つだ。
ルッスーリアはそれに恐怖して動揺していたんだ」

淡々とけれど残酷なリボーンの言葉に、そんなことがまかり通るなんて
おかしいと思った。いくらマフィアだからって……仲間は流石に大事じゃないの? Page Top Page Top