「ディーノさん!!もうはじまってますよ」

会場につくとすでにバトルが行われようとしていたところだった。
まるでボクシングのリングそっくりだが、暗闇の運動場でそのリングだけが
ド派手にライトで照らされていて、異様な空気と緊張感をかもし出していた。

「な、なんでがいるの!?」
ディーノにエスコートされた少女を見てツナが悲鳴をあげた。
少女も眉を下げて困ったようにはにかむ。

「危ないのは分かってたけど、でも私の運命だって決まる大事な戦い。
どうしても現場にきたかったの……」

ぎゅっと唇を噛みしめて、視線をそらすと
安心させるようにリングにむかっていた少年が声をあげた。

「心配するな!!俺は負けん!!」

まるで太陽のような眩しい笑顔を見せる少年に
私も少しつられて笑った。――なんだかすごく明るくてポジティブそうな人だ。
万年ネガティブな私とは正反対……。
陰キャの私が陽のパワーに押されて浄化されそうだ。
山本の円陣を組まないかという発言で皆で円陣を組んだ後
照れつつも見送った。肩を組んでみて分かったけど
細身のツナですら私より結構身長高いし、何よりガッシリしていてビックリ。

まぁ、私は体型が円形に近いから……かも。
このことは考えないようにしつつ、目の前のバトルに意識を向けた。

「あの人は……」

「ああ…は知らないんだっけ。
京子ちゃんのお兄さんで了平さんって言うんだよ」

「了平さん……がんばって」

祈るようにこぼした呟きに、隣のツナは瞳を細めたが
やがていつもの困ったような顔で大丈夫だよと笑った。

「お兄さんは強いから」

……


リング上で了平と相手……ルッスーリアと呼ばれていた
ムエタイ使いのオネエのような男性が対峙する。
お互いの肉体はどっちも美しい筋肉におおわれている。
ボディービルダーなんかの魅せる筋肉じゃなく、本当にいらないものをそぎ落とした
戦うための筋肉といった感じだ。

「やはりヴァリアーも晴の守護者は格闘家か」

リボーンの言葉に一同疑問に思いながら振り返る。

「歴代の守護者を見ても…晴の守護者は皆、強力なこぶしあしを持っていた」

「ということは、晴の守護者に選ばれる人はみんな格闘家タイプなんですね」

少女の言葉に頷いて、リボーンは静かに付け足した。

「ファミリーを襲う逆境を自らの肉体で砕き、明るく照らす日輪となる。
晴の守護者の使命だからな」

ファミリーを襲う逆境を自らの肉体で砕き、明るく照らす日輪……。

聞こえはとってもカッコイイけど、それって相当ハードだと思う。
だって何の武器にも頼らずに己の肉体のみで敵に向かい
さらに味方のムードメーカーでいないといけないなんて。

私みたいな卑屈でネガティブで自堕落な人間にはきっと無理だ。
でも彼はまさにその言葉を体現したかのように見える。
少年の面影を残しつつも鍛え上げられた肉体に、こんな時ですら底なしの明るさ。
円陣を組んだ時も私達の間で張り詰めていた空気が和らいだくらい暖かい人。

「でも…ボクシングとムエタイじゃ、ムエタイの方が強そう」

近くにいたリボーンがピクリと反応した。

「どうしてそう思うんだ?」

「私、格闘技とかはやったこともないし
たいした知識があるわけじゃないけど……。
まず、リーチの長さが怖い。――腕と脚なら脚の方が長いでしょ。
その分、相手に当てるためには少しの距離ですむ。
拳でお腹から顔まで打ちにいくには多少、踏み込まないといけないから。

あと、ムエタイは実は脚だけじゃなくて両肘もルールによってはアリと聞いたことがある。
万が一あの脚のリーチをかいくぐり、踏み込んで接近しても危険そう」

ツナや山本、獄寺も感心したように声を漏らした。

私見た目も、まぁ中身もひ弱だけど
格闘漫画とかは好きだったからそこら辺の女の子より無駄に知識はあるかも。

「じゃあ、了平さんは負けると思う…?」

探るようなツナの言葉に、うーんとうなった後
むずかしい試合になると呟いた。

「ボクシングだとローのキックとかで下半身を攻撃されたら厳しいんじゃないかな。
拳で打つボクシングは下半身でしっかりと支えてから上半身の機動力が大事になってくる。
それが土台となる下半身が揺らげば、上半身の支えもなくなって
機動力だけじゃなくて、威力も落ちかねないし下手したらダウン」

「マジかよ、それじゃあ相手の方が有利ってことか」

悔しそうに呟く山本に慌てて首をふった。

「っ――相手のムエタイだって万能じゃないよ!!
もし足技が封じられて顔を集中的に殴られれば確実に脳しんとうでダウンせざるおえない。
顔だけは人間の身体で鍛えることが出来ないから。

私がもしあの場に立つなら、ボクシングやムエタイなんていう
形式的な格闘技にこだわらずに、上半身はボクシングのかまえで
下はキックボクシングの要領でいったほうが確実に勝てると思う。
ボクシングやムエタイだってその一個のジャンルとしての格闘技として
確立されているからこその縛りがあるからさ。

例えば今回は運良くさほどお互いの体格差がない組み合わせになってるけど
これが試合以外の野良の不良同士の喧嘩だったら悲惨な組み合わせになってたかも」

そこは神様に感謝。

「お嬢ちゃん。確かに良い見解だとは思うわ♪」

急にリングにいたルッスーリアが声をかけてきてビクッと身体を動かした。
それに流石に相手側もそんなに怯えないでと間延びした声で笑う。

「ただ……一つだけ忘れてるわよ~。それは坊やと私の経験の差」

了平が抗議の声をあげたが、確かにそうだ。
学生のボクシングなんかきっと比較にならないくらい
あっちは殺し合いとしてムエタイを使ってきている。

膝がガクガクと震えた。最悪の事態を想像して両手をギュッとあわせる。
足に力が入らなくなりそうになった私を近くにいたディーノさんが支えた。

「大丈夫か!?」
「あっ…はい」

呼吸を整えて、私は見つめるだけしか出来ない現実を呪いながら
どうか勝敗に関係なく、了平さんが無事でいてと神様に願った。

リングがさらに明るく照らされた。
強烈な光で了平はおろかリング外にいる私達ですら何も見えない。

「これじゃあ戦うなんてとても無理じゃ」

瞳が大きいからか入ってくる光の量が多くて思わず瞼を覆うと
リボーンがサングラスをよこした。

「ありがとうリボーン君。――それにしても審判さん!!
こっこれじゃあ了平さんだけ何も見えなくて不公平ですよ!!
せめてサングラスを渡しても…」

「ダメです。ーー試合がはじまった時点で守護者への接触は禁止となっています」

「そんな!!だって相手はサングラスかけてるじゃん!!」

ツナの叫びに無常にもチェルベッロの2人は守護者と接触したら失格とすると断った。
リング上では当たるはずもないパンチをむやみに繰り出すしかない少年と
その少年のすきをついてルッスーリアの攻撃がはじまる。

そのあまりにも一方的な戦いに少女はまるで悪夢だといわんばかりに小さく首を横に振った。
「こんなの…ただのなぶり殺しじゃない」

思わずリングにかけよる。まだ今なら了平さんも大きな傷はおっていない。
「お願い了平さん!!負けてもいいから棄権してください!!」

リング越しに敵チームと目が合った。
私はすがるような思いで敵チームにゆっくり近づいていく。

ディーノやツナ達もとめに入ったが、それを遮るかのように
銀髪の男が少女に近づいて腕をつかみ、強引に引き寄せた。

「なんだァ!!自分からノコノコと良い心がけじゃねぇか!!」

上から見下ろされて一瞬たじろいだが、すぐに震える唇で懇願した。

「わっ…私はどうなっても構いませんのでこんな試合中止して下さい」 Page Top Page Top