「景品……私が?」

ベッドに横になり、天井をボーッと見つめながら
未だに信じられない気持ちでいっぱいだった。

ハズレでしょ。どう考えてもと冷めた気分になるのは否めない。
今まで自分を賭けて誰かが争ってくれた思い出もないし
むしろ2人一組作ってと言われるとたいてい後まで残るほうで……。
くっ……思い出すと空しくなるからやめよう。

ギュッとよった眉間をほぐすように人差し指と親指でマッサージしながら
この後のことを考えることにした。――これからどうしようかと今までのことを整理していく。
九代目のもとで預かるとは言われたものの、それはどうやら名目上らしい。
九代目はイタリアに居て、ヴァリアーとツナ達の決闘は日本で行われる予定。
なので身柄は中立であるチェルベッロ及び九代目が拘束するとして
日本のよくわからない高級そうなホテルで軟禁されることとなった。

拘束と言われて最初はめちゃくちゃ身構えはしたけども実際は保護に近いということが分かった。
なんでかと言うと、私がここの場所に着くまでに一度他のマフィア組織の人から襲撃されたから。

それを追い払ってくれたのがバジル君とツナのお父さんだった。
その時に私のことを狙うやつらが日本にきていることも聞いたので
この拘束はそんな人達からの保護も兼ねている(まぁ脱走防止も強そうだけど)のかもと
思い直して、大人しくすることにする。まぁどうせ私1人でどうすることもできないし。

ちなみにツナとヴァリアーの決闘はどうなるのかと聞いたところ
モニターで見ることが出来ると言われた。しかしあまり女の子には見せたくないなと
ツナのお父さんには苦い顔をされたので、やっぱりオセロやチェスで対決とかじゃないよねと
血みどろなバトルを想像してヒヤッとする。しかし同時に気になる気持ちも抑えられそうにない。

モニター越しで私は時々であればマイクも使用可能とのことだった。
ツナのお父さんは最後まで見せたくなさそうにしていたが、私がプロレスなどは
時々見るので大丈夫ですと念をおせば、しぶしぶOKしてくれた。

FPSゲームだって好きだし、ホラーゲームも好きだから
多少のグロやビックリさせるものに対しての耐性はある方だと自負している。

それでも心はモヤモヤしていて……大きくて清潔なベッドをごろんと横になりながら目をとじた。

――複雑な気持ち。そりゃあ普通の女の子になら見せたくない気持ちもわかるけれど。
私はもうすぐマフィアにならなければならない。いつまでも血をさけてとおることは出来ないはずなのに。

ゆっくりと目をあけた。慣れない高級そうな家具を見渡してため息をつく。

ツナのお父さんからはなるべく危険なものから遠ざけていたいという優しさと
それが出来ない歯がゆさみたいな苦悩も見えて少しだけ切なくなった。
――今までの周りの奴らは問答無用で血みどろの戦場に引きずりだしてくタイプだったからね。

少し自嘲的な笑みももれるが、すぐに表情はもどった。
いつまでもヘラヘラできない。心では今でも叫んでる。
理不尽だって。きっとそれはどこまで墜ちてもそんな風にわめき続けるのかも知れない。

そう考えると恐ろしいし、つらいし……その声に耳をかたむけると
空しさがこみあげてくる。――私だけなぜこんなことになるのだろうと自問自答してしまう。
そんな声から意識をそらすように、枕に顔をうずめながら
泣きたいような、悲しいような気持ちで私は眠りについた。



ちゃん~可愛いね」

「えっ…えっと」

翌日、目が覚めるとすぐに高級そうなAラインで淡いピンク色のワンピースに着替えさせられた。
まず景品として管理するために私の体調(恐らく病気にかかってないかどうか)など検査するために
医者を呼んでいるらしい。――そして医者がきてくれたのだが
その医者に絶賛、肩に腕をまわされ困惑しております。

私の部屋にやってきた男性は医者でシャマルと名乗っていたけど
医者にしてはチャラそうに見えるのはイタリア男性だからだろうか。
ずっと歯の浮くようなチャラい台詞を連発している。
よくまぁこんなに口説き文句が出てくるんだろうか、そして14才に対していいのかと思っていると
私の思考をよんだのか、可愛い子には今からツバをつけとくとニヒルな笑みで言われて赤面した。

一応診察もちゃんとしてくれたし、スキンシップが激しい人はアメリカでもたまにいたし。
だから辞めてとも言えずに困ったように微笑めば余計に抱きつかれて
ぐえっとカエルのつぶれたような声をあげてしまった。

「しゃ……シャマルさっぐるし……」

「おい、離してやれよ」

た、助かったー。救世主ありがとうと思えば急に肩を引き寄せられて面食らう。
固い筋肉質な身体に、男性用のコロン。少し体温の高い熱を肩とくっついた背中で感じながら
恐る恐る振り返ると、少しだけ不機嫌そうなディーノさんが立っていた。

「なんだぁ跳ね馬、かわいこちゃんとのスキンシップを邪魔するなよ」
口調はおちゃらけているが、目はマジなシャマルに
少し拗ねたようなディーノが過度なスキンシップは女に嫌われるぞとにらみ合っていた。

「お前だって触ってるじゃねぇか」

「あっ!!すまんっ」

シャマルの指摘に真っ赤な顔で身体を離してくれた青年に
こちらまで恥ずかしい気持ちになりつつも、気にしてないと身振りでアピールする。

「ってディーノさん!?」

初めてスクアーロと対峙した時に私とツナを守ってくれたあの
金髪イケメン外国人が立っていて心臓がドキッとはねる。
あの後彼と病室まで一緒に行ったものの、傷だらけのバジル君の治療を優先して
ろくに自己紹介とかしなかったからな。

「あっ、お嬢ちゃんはあの時の……!?
驚いた、まさか世界の守護者が君だとは……」

私もその言葉に、青年同様驚いた。
しかし確かにあの時はリボーンや一部の人しか知らなかったし
一度対峙たいじしたはずの敵側であるスクアーロでさえ私のことは眼中になかった。
となれば中立立場で関係性の遠いディーノが知らなくても無理はない。

彼は驚いた顔をすぐにただすと、優雅に帽子を下げ頭をさげた。

「改めて紹介するな♪俺はキャバッローネファミリー10代目ボスのディーノだ」

人の良さそうな笑みを浮かべるディーノ。
その宝石のような琥珀色の瞳は若いエネルギーでキラキラ輝いている。
普通は、某赤髪眼帯エクソシストみたいにストライークと叫んでいるだろう。もちろん心の中でだが。

しかし、私は聞き逃さなかった。
ファミリー、10代目という発言に。――ブルータスお前もか!!と叫びたくなる。もちろん心の中で。
冷や汗をダラダラ流しながら、私は無害ですという笑みを貼り付けて
後ろに後退しつつ、どうもどうもと頭を下げ続けた。

「わっ私は です。しがない女子中学生です」

ほんと、世界の守護者だなんて大それたもんじゃないですとオタク特有の早口でまくしたてるも
緊張しまくる私にニカッと歯を見せて笑った青年は子供をあやすように頭をなでた。

「すまねぇな…」

「えっ」

一瞬だけ見せた切ない表情に、ドキッとしたが
彼はすぐにニコッと笑みを貼り付けると俺たちは会場に行くが一緒に行くかと聞いてきた。

会場って……並盛中学校……!?
そこってこれから激戦地になるんじゃね、ナチュラルに何この人危険地帯に誘導してるんだと焦ったが
確かにここで見ているよりもずっと近くで応援できる!!

ツナは私が連れて行かれる直前に言ってくれた。
私のことをなんとかしてくれるって……もちろん全てを信じているわけじゃない。
けれど怯えながらも瞳には強い意志が宿っていた。
そんな少年の言葉を私は信じたいし、信じるしか出来ない。

私はどこまででも足手まといなのかな。

「行きます……連れて行って下さい」

家光には内緒だぜとディーノに手をとられて私は緊張しながらも会場に向かった。 Page Top Page Top