お昼過ぎ、私は指定した並盛商店街のベンチに座っていた。
しばらく過ぎていく人をボーっと眺めていたが、音もなく隣に座った赤子あかごの声で我に返る。

「リボーン君っ」

いつの間に!?という声を飲み込んで、バクバクする心臓をおさえて深呼吸した。

「話ってなんだ?」

いつものニヒルな笑みは封印し、真剣な顔でたずねるリボーンに言葉が詰まる。
こんな赤子なのに、威圧感を感じるなんてどんだけヘタレなんだ私。

「えっえっと……実は逃げたんです。ごめんなさい」

ポツポツと私は自分が思っていたこと、感じていた不安を話した。

「修行に参加しろって言われるのが怖くて……。
だって、痛いことも嫌いだしマフィアになるための修行だったら
人を傷つけるようなこともさせられるのかもって……」

黙って聞いていたリボーンは区切りが良い所で口を開いた。

の気持ちも分かる。でも、もうしょうがねぇんだ。
が世界の守護者である以上、ある程度の争いは避けられねぇ」

「そっそんな……私の名前だけ貸して後はそっちでなんとか出来ないんですか?」

「それも考えたが、骸の一件でボンゴレ内でも一部のメンバーにお前の面が割れちまった。
外の組織に万が一もれればの身の保証はできねぇ」

身の保証って……でも、ボンゴレとかに入ってマフィアになってもそれは同じじゃと思ったが
それを見越したのか、リボーンは他とボンゴレとの違いを静かに説いた。

「ボンゴレはマフィアの組織でも一番大きいんだ。その分、弱小組織に比べて層もあつい。
だから戦闘要員はお前じゃなくても大丈夫なんだゾ。
それになるべく俺からもには危険なことをさせねぇように口添えもできる。
だが、万が一他のマフィア組織なんかに狙われればあいつらはお前も戦闘に巻き込みかねない。
お前が嫌がっても薬漬けにしてでも何でも言う事を聞かせるようにするゾ」

くっ、薬漬け!?マフィアっぽいエグいワードキタァ~。
でも、リボーン君だってどこまで危険なことをさせないのか分からない。

「あっあの、なら線引きしたいです。入る前にちゃんとできることとできないこと」

ゲームなら某ゾンビゲーや某ヤクザゲー、某モンスター狩りゲー、RPGゲーその他いろいろ
その辺のグロは結構大丈夫……といかゾーンに入ると嬉々として武器を振り回すバーサーカータイプなのも否めない。

でも、それは現実に出来ないからであって……現実にゾンビが目の前に出て銃とか渡されて
はーい、頭狙いましょうねーとか言われても引き金引くのに戸惑って
覆いかぶさられてムシャムシャされるのが目に見えてるヘタレだ。
リボーンは分かったとうなづいて、しばらく私の話を聞いていた。

「つまり、まず自分が傷つくことと人を傷つけることはダメなんだな?
――次に、一般的に犯罪行為とされることは行いたくない……と」

確認するように問いかけるリボーン君にぶんぶん頭をふって同意する。
自分も人も危険な目に合わせたくないこれ絶対。
次に犯罪行為の片棒を担ぎたくない。私にだって最低限の倫理観はある。
例えば軽犯罪の窃盗でも心を痛めてうつになりそうなタイプだ。

「分かった。俺もそこは考えてたんだゾ。
にまず危険なことはさせねェ……。
またお前を傷つけるやつがいたら俺たちが死ぬ気で守らなきゃならねぇ」

「死ぬ気でって……あっあのね、私の能力がとっても貴重なことは分かる。
でもさ、死ぬ気をかけられても困ります」

リボーン君たちも傷ついてほしくないと笑えばリボーンも少し悲しそうにいい子だなと笑った。
そして静かにそのままで居て欲しいと遠くを見つめる赤子に黙り込む私。

しばし沈黙が流れ、リボーンは思い出したように声をあげた。

「ツナの修行終わるの忘れてたゾ」

「え、どういうこと?」

ベンチを降りたリボーンがニヒルな笑みで地雷原の中でいかにバランスを取るか訓練をさせていると告げた段階で
私はすかさずリボーンを抱えて走り出した。

抱えられるリボーン、走り出す私の後ろ姿に思わずジョジョのBGM
そして『to be continued』が脳内で流れた。

「ツナァアア、がんばってたえてぇええ」

頭をがんがん振られながらあいつは死なねェゾと笑うリボーンと
一見赤子を誘拐しながら必死の形相で走る私。――善悪とはなんだろうか神様。

………
……

「はぁ~がきてくれないと死ぬかと思ったぁ~」

「こっちも間に合って良かったよ……生きてる時にこれて」

速攻でリボーン君にナビしてもらいツナの場所までたどり着くと
そこには本当に地雷が花畑のように広がっていた。
リボーンがツナにもう終わっていいと告げるまでの間、岩の上でぐらぐらするツナに何度きもを冷やしたことか……。

「沢田殿は筋がいいですよ!!」
一緒に特訓していたバジル君のフォローなのか分からない褒め言葉も
私とツナにはあまり響かない。――むしろ笑顔で何言ってんだコイツと
冷めた目になるしかないこれでも常識人組だった。

「親方様が見込んだだけのことはあります」

少年の親方様という何度目か分からぬ言葉に私とツナも少し呆れる。
これだけこの少年をたぶらかし……もとい尊敬を集める人はどんな怪しい人物だろうか。
ツナも私と同意見なのか親方様に対して疑問の声をあげていた。

「バジル君の話には必ず出てくるよね~」

ツナの顔にはイヤなやつだろうなと予想しているのが浮かんでいたので
私もご愁傷しゅうしょう様ですとあきらめ顔で頷くしか無かった。
リボーン君はじきに会えると私達に告げたが……正直いい大人が少年たぶらかし
もとい尊敬という名の洗脳させたという事実を考えるとあまり会いたいとは思えない。

バジル君に指輪おしつけた人なことも思い出して
何も知らない子供だと思って都合良いこまとして使われてないかなと不安にもなる。

「それじゃあ私はこれで……」

修行していたツナ達と帰宅していたがやっぱり自分の家に少し戻りたいと告げると
リボーンはあっさりとOKしてくれた。
どうやら雲雀さんの家に居づらい感じも伝わったらしい。
あの商店街での話し合いもあり、巻き込んでしまった以上は極力私の考えを聞くように
努力してくれると約束してくれたのも効果あったのかなと我ながら思う。

「幸いなことにの家はツナの家だけでなく他の守護者の家からも近い。
それに家の周辺に配置する警備班もイタリアから到着した。
身の安全は雲雀の家に居た時よりも保証するゾ」

「よかったあぁ。セコム大事!!ありがとう~!!」

「でもツナの家でも俺はいいんだけどナ♪」

「へっ……」

「だって、(未来の)俺の愛人にしてやってもいいと思ってる大切な女だからな♪」

あああああっ愛人!?――恋人もいたことないのに色々すっ飛ばして愛人!?
他の人から言われたら失礼だが、リボーン君の可愛い姿だとあまり深刻にならない。
でもかと言って笑って返せないほどリボーン君は幼児らしからぬ色気がある。
私の手をとって、大きく輝く黒曜石のような瞳が見上げるのに頬が紅く染まる。

それにフッと笑うリボーン君。
バジルのその時はお赤飯を炊こうという発言やツナの叫びに近いツッコミも遠くに聞こえた。
熱い頬を押さえて私は子供がからかっちゃいけないよと喉から絞り出すと
熱を振り払うように慌てて家に走って行った。

………
……

「ったくお母さんもこんな危ない時に買い物なんか頼むなよなぁ~」

母から押しつけられたエコバッグと財布だけ持って家から飛び出してきたものの
これじゃあ危険だからと慌てて帰った意味が……と項垂れる私。
ちょうど夕飯を予定していたカレーのルーだけまさか足りないことに気付いたらしく
良いタイミングで帰ってきた私はそのまま靴をはいてるんだしと
ぐるっと玄関でターンをさせられ、また外に出されてしまった。

「でもカレーは私も好きだしなぁ……仕方ない商店街いってさっさと買って…ん?」

パッと顔をあげると、子供と大人が歩いている。
しかし不自然なのは子供の背後から忍びよるような男の動き。
じっと思わず目で追っていたが、予感は的中し子供は後ろを振りかえり叫ぶ。
そして次に目に飛び込んできたのは子供が背後の男から棒状のもので叩かれそうになっている場面だった。

「はっちょっ――ちょっと待って!!」
走っても間に合う距離じゃない。
私は思わず持っていた財布を男に投げた。

男に財布は的中したが一瞬ひるんだのち、このタイミングを逃すまいと
振り上げたままの腕を振り下ろした。

「やめて!!」

「危ない!!」

私の叫びと少年の声が重なる。

聞き慣れたその声の方を見ると、なんとツナが立っていた。
ツナも私に気付いて驚いた顔をするも、すぐに子供の方に視線を戻す。

「ぐふっ……ああっ」

その瞬間、男がコンクリート壁にうちつけられていた。
一瞬何が起きたのか見えなかったが、拳をかまえた少年と倒れた男で
この人が殴り倒したことが分かる。

「ボンゴレファミリーはれの守護者にして…コロネロの一番弟子。
――笹川了平ささがわりょうへい見参けんざん!!」

その後も山本と獄寺が登場し、どこからともなく出てくる敵を一撃で倒した。
安堵するツナと相変わらず戦闘民族についていけない私。

なぜ彼らは息をすうように簡単に人を倒せるのだろうか。
いや、そもそも一般人がこんなに狙われ……あ、マフィアでしたね。

この場をダッシュで逃げたかったが、私に気付いた山本に手をふられて
その爽やかな笑顔を裏切れないと苦笑いで小さく手を振り返すしか出来なかった。

「家光の奴…なんとか間に合ったみてぇだな♪」

「みんな~」

「ツナにぃ怖かったよぉ~」

まだ小学生くらいの男の子がかけよってくる。
この子達もツナの知り合いなのかな?
並盛が狭いのか、それともここらへんの子供ってそんな多くなかったりするんだろうか。
あ、確かイーピンちゃんだっけ?――傷だらけになってる。
心配になって近づくと、照れた顔で山本から絆創膏ばんそうこうをつけてもらっていた。 Page Top Page Top