!?

あの後、丁寧にもディーノさんとリボーンくんに雲雀ハウスまで見送られて帰宅した私。
何が何だかサッパリついていけず、思考停止したまま疲れすぎてベッドに倒れ込みそのまま朝を迎えた。
夢の中でも、どこか戦場のような場所へ投げ出されてろくな物資もないまま私は慌てふためいて死にかける
という夢を2、3パターン見せられてグロッキーな目覚めを迎える。

ふとスマホを見ると通知が来ていた。
LINEでツナから10日間ほどの猶予があることと各自修行に入らなくてはならないことを伝えられる。
その修行とやらがどうやら私も関係しているらしく、リボーンが近々やってくるとのことで
思わずベッドから転げ落ちそうになった。なっな、なんで私まで!?

人生で一番では無いがかなり嫌いなものが勉強とか努力、修行のたぐいいだ。
不器用ということもあるが、私の努力はたいてい空回りして笑われるし
どんな困難にも努力だの、根性だのと精神論を振りかざす体育会系的な考え方も合わない。

見てくれよ私を!!自堕落な人生ガチャ引いて泥と粘土をこねて作ったみたいな未完成人間に
これ以上何の向上を求めてくると言うんだ彼らは!?

っていうか修行って危なくないの?いや、今もだいぶ危ないけど
今まではどちらかと言うと受け身の危なさだった。
――追うより追われたい私としてはピッタリ……うん、茶化しても相変わらず恐怖しかねぇわ。

とにかく修行ってこう……火の輪をくぐったり、ビルの上からバンジージャンプさせられたりしない?
リボーンくん可愛い顔してバイオレンス側のドSの人間だってお姉さん知ってるからね!!
ろうそくの火を垂らされたり、丸焼きの子豚みたいにされたり色々な地獄絵図を思い描いて戦々恐々せんせんきょうきょうと震えた。

「もっもうダメ!!絶えられない!!」

同じ屋根の下で別の意味でドキドキするような生活も、何かに脅えて逃げ回る日々。
そしてここにやってきて修行とやらまで……もう沢山だ!!

「にっ……逃げよう」

どこへ行くかあてはないが、ここに居れば危険しかない。
誰にも見つからないような場所、最悪ネット環境もないような洞窟でもいい。
とにかく私は逃亡を決意した。
それはもう数日前に誓ったダイエットよりかたい決意だった……。(ダイエットの結果は聞かないで)

………
……
雲雀さんの家を出た時、まだ朝でちょうど通学や通勤の時間帯より少し早かったためか
人はまばらにしか居なかったのでホッとする。
本当は夜逃げとかの方が見つかりにくいだろうけどそれだとまた別の意味で危険だ。

怖いものは夜にやってくるんだと親から言い聞かされた子供だましを思い出して自嘲気味な笑みを浮かべた。
うそつき。いつだって悪いことは突然に淡々とやってくるんだ。
見上げた空はいつもと変わらないのに、それを見上げる私はどんどん良くもなり、悪くもなりえる。

商店街近くまでやってきてグーっとお腹がなったので
朝食べてなかったことや、もうすぐお昼だと思い出して項垂れた。

財布をあけても2千円と小銭がちょっとしかない。
もう家にいったん帰るしかないか……と安定の逃げの姿勢で考えたが
待てよ、逃亡がバレたら家族もマフィアの人達に娘どこに行ったんだとか
脅されたりしないかな……と考えて身震いした。

家族よ、ごめん。私は生き残りたい、まだ生きてたい――星座には導かれてないけど。
何かパンでも買って口に入れようかな、どうせ水は公園とかに行けばありそうだし。
逃亡計画は全然浮かばないが、誰にも迷惑をかけたくないし自分の身体にも同じような気遣いをしたい私。
バイオレンスな修行よりも、つかの間の逃亡でもいいから隠れたい気分だった。

はぁ……何をしているんだろうか。
マジでまだ子供だけどこんなくだらない理由で街をさまよっていることがひたすらむなしい。
ただの中学生だよ?それを急にマフィアだの守護者だのと………。
しかもそれから必死に逃げようとあがきまくる私のアホらしさ。
来年受験生これでいいのか、と乾いた笑いまでこみあげてくる。

仮に本当だとしてもさ、幽霊部員でいいじゃん名前だけならいくらでも貸してあげるよ。
私が世界の守護者とかで説明されたように他のマフィアより優位に立てるための道具とかなら
虎よりも豚という感じだが…トラのをかるキツネのように名前だけでも貸してやんよとふて腐れつつ
売店で買った肉まんを頬張りながら人気ひとけの少ない公園を歩いて行く。

公園のイスにすわってぼんやりと空を眺めていると、ピコンとLINEの通知がきた。
リボーン君からだった。雲雀の家に行ったが居なかったので大丈夫かと聞いてくる。

「大丈夫……だけど、そうじゃないような……何て言えばいいんだろう」

どうせ私の身の安全よりも自分達の保身とかのためでしょ。
人から必要とされたことは少ないけど、今回の必要は私じゃなくても良かったんだと時々思う。
たまたまこんな力を持ってしまった。それだけで必要とされている。
最悪、動物でも赤ん坊でもこの力があればそれでよくて……私みたいなのが守護者とわかり
きっとガッカリさせた気持ちもあるかも知れない。
そして逃亡までして……迷惑かけて。めんどくさいやつだってきっと思われたかもなぁ。

すぐに謝って逃亡を辞めることが一番ベストかも知れない。
ここまでの争いごとに巻き込まれて、もう無関係ですなんて顔はなかなか出来ない。
でも、それでも私はまだ一般人だって意地を張っていたかった。
だって、もしいつか一緒に戦えとか……マフィアの世界に入れば。

「最悪、だれかを殺せって言われたら…どうすればいいの」

そのための修行だったらどうすればいい?
あまり深く考えないようにしていたが、落とした視線の先の小さな手が震えていたので泣きたくなった。
家事炊事もろくにやったことがない手が先に銃をにぎるの?

人殺しをするために生きてきたわけじゃないし、そんなことをするような人達とも居たくない。
リボーン君も、ディーノさんも……もしかするともう年の変わらないようなバジル君でさえ
マフィアの人達なら人を殺したことなんて何度もあるかも知れない。

人の良さそうな笑みを浮かべて、私が必要だとか良い言葉で近づいてきたけど怖い人だと自分に言い聞かせる。
実際良い人ではあるんだろうけどみんな。――それでも怖い。
私がもし人を殺したらあんな風に笑ったり平凡そうには一生できる自身がない。
いつまでもそのことを悔いて、自分を責めて生きていくしかできない。

それは、私が弱いだけなのだろうか?
それとも、私もいずれそうなっていくのか……。

そこまで考えて怖くなったので頭をふった。

ダメだ。このままじゃ……。
逃亡したけど、いやしようとして現在進行形で失敗してる感じだけど
やっぱりリボーン君にもっと私の考えを言うべきかも知れない。
いつもは人の顔色をうかがって流されがちだけど、今回は流されたら取り返しのつかない沖の方まで流されちゃいそうだし。

『話したいことがある』

それだけリボーン君に送って、指定した並盛商店街まで何か肩にのしかかるような重苦しさを抱えて
とぼとぼと泣きそうな顔をして歩いて行くしかなかった。

その頃、ヴァリアー邸。

「お呼びかボス!!」

勢いよくドアをあけたスクアーロを、ただ座ったまま静かに見上げる男。

「ハーフボンゴレリングの褒美をくれるってんなら、ありがたく頂戴するぜ!!」

しかし男の返事はなく、それどころかスクアーロの頭を机に叩きつけた。
それを理不尽だとばかりにキレるスクアーロを制止する。

「フェイクだ」

ハーフボンゴレリングを指だけで砕く男に、スクアーロが自身が持ち帰ったものがニセモノだったことに唖然とする。

「日本へ発つ。そして、奴らを根絶やしにする」

立ち上がりながら静かにつげると、男はなお続けた。

「それから、例の守護者が見つかった」
「はぁ?例の?」

「世界の守護者だ」

「そっ、そんなのありえねぇ!!」
「…ボンゴレ側が接触に成功したと報告があった。――俺が先に手に入れる」

「手に入れるって、本気でどこのウマの骨かも分からねぇ女を」
「これ以上何か言いたいか?」

ギロっと殺気だった視線に絡まれて、スクアーロはしぶしぶ黙った。

「――こいつだ」

手渡された写真は恐らく違法に入手したような防犯カメラを引き伸ばしたような粗めの画像。
それでも、戸惑いがちにオドオドとうつる少女にスクアーロは見覚えがある。

「こいつはっ」
ニヤリと笑ったスクアーロに、男は静かに瞳を細めた。
怪しげに響く雷鳴。物騒な計画が水面下で着実に進んでいくのを少女はまだ知らなかった。 Page Top Page Top