飛び出せ!!雲雀の家!!
「僕の言葉に異論はないよね?」
少女は思わずヒッと息をのんで、真っ赤な顔で頭を縦にブンブン振って肯定した。
「おっおっ仰るとおりでございまする」
「フッ……次、そんな自虐的なこと言ったら咬み殺すからね」
バイバイ、と気まぐれな黒猫のように雲雀さんは去っていった。
残された私は機械がオーバーヒートしたかのように顔から煙を出して
その場にしゃがみこんで顔を覆うしかなかった。
朝からなんだ、あの気まぐれなテロリストめ!!
まるでマラソン大会の後みたい、と運動不足な私からしたら
久々にハートがバクバクと脈打って苦しくて、しばらくは腰が抜けたような状態で立てなかった。
………
……
…
「はぁ……やっぱり居候なんて無理があったのかも」
現在は並盛の商店街近くまできている。
あのまま雲雀さんの家に居ても良かったんだけど、なんだか広いし静かすぎて落ち着かないしで
普段どうせ家から出る機会も少ないので、ここぞとばかりの街の散策に出てみた。
日曜日ということもあり、そこそこ人がいて活気に満ちている。
ケバブ屋の誘惑を乗り切りつつ、このまま雲雀さんの家に居ても良いのかと悩んでいると
遠くの方に見知った人影を見つけた。
「あっおい!!ランボっ!!やめろよ!!」
「ランボさんアレ食べたい~!!」
何だか牛ぽい幼児ともめている……アレはツナではないだろうか?
彼も日曜日だと言うのに雲雀さんと同じように制服をきている。
ん?もしかして補修帰り……?
ふとぼんやりと何だか厄介なことになりそうな予感がしつつ(最初の出会いが悪かったし)
そろりそろりとその場を離れようとしたが、ツナの横にいた山本が気づいて明るい声をかけてきた。
「アレ?じゃねぇか!?」
はいっ、スクールカースト上位に捕まったぁ……。
やや苦笑しつつ、どうもーと手をあげると少年達はサーカスの見物のように
ゾロゾロとやってきて取り囲んだ。
「さん……どうも!?」
山本が声をかけた手前か、礼儀正しくツナも声をかけてきた。
獄寺もヨォと最初の敵意はなしで人の良さそうな笑みを浮かべて
挨拶してくる。
「だあれ?ツナくん……この子」
「はひっ!?まさか貴女ツナさんの彼女さんですか!?」
目の前の美少女二人に真剣なまなざしで見つめられ
ぎょっとした顔で慌てて否定するツナと私。
「ちっ違うよ!?ちょっと最近知り合いになった子だよ!!」
「どっどうも!! と言います!!
えっえっと、ツナさんとは少し前にリボーン君?を通して知り合いになりました!!」
マフィアというのは濁しつつも、説明するとリボーンという名前に
あーっと二人は息をのんだ。
「ツナくん達のお仲間さんなんだね!!」
可愛らしい笑顔で天然ぽい女の子がどこまで本気なのか笑いかける。
え……もしかしてマフィアとか知っていてこの発言か、と固まっていると
ツナが小声でこの二人はほとんど何も知らないパンピー(一般人)であることを教えてくれた。
この曇りのない笑顔を疑った私をボコボコにしたい後悔にかられていると
美少女二人は良ければ私も一緒に遊びたいと誘ってくれた。
え、いいのかな…邪魔して……と思ったものの
ツナも何やらこの前話せなかったこととかを話したいと
少しだけ真面目な顔をしていたので、それならば…と私もヒマだし同行させて貰うことにした。
その後は色んなお店を見て回ったりした。
ツナ達3人とは以前会ったことがあるものの、圧倒的に
影キャとして
浮き気味で果たして馴染めるか不安だったが
女の子達は人の良さそうな笑みで話題をふってきたのと
やはりここは上手く言えないが同年代の女子ということもあってか
メイクの話題や最近流行りの映画や俳優、女優の話題なんかになると
ずっと仲が良かった友達同士と錯覚させるほどに話は弾んだ。
こうやって同年代の子と出かけたのなんて久しぶりだ。
もちろん学校でも友達が全くいないわけではないけど
転校してきたこともあり、まだどこか馴染めずに居た。
とはいえ、アメリカに居たときだって馴染めていたとは言いがたい
ちょっと変わったGeek(オタク)だったからなぁ。
最近は家に引きこもってばかりでオタクではない両親から
心配ばかりされていたから、この光景を見せたら
かなり安心されるだろうなぁ、と少し自虐的な笑みがこぼれる。
………
……
しばらく歩いていると、ランボがごね始めた。
「ランボさん、のどかわいたぁ~」
「あっ、ならあそこで休もうか?」
普段なら我慢しろよと怒鳴りつけるが、ここは京子ちゃんの手前だからと
グッとこらえて、カフェテリアを指さす。ランボはわーいっと駆け出していった。
それを見て、俺がおごるんだよなぁとあきれつつも不思議と
嫌ではない穏やかな気持ちになったツナだった。
席につくと女子二人が機転を利かせて飲み物を買ってこようかと立ち上がったので
慌ててそれなら私も、とついて行こうとしたが、私達は手が空いてるし二人は話があるんでしょ?と
気遣われたので、それに甘えていつもの困ったような笑みで礼をのべてお任せした。
その二人を見て獄寺と山本もじゃあ食べ物は俺らが買ってくるから…とこっちも気遣ったのか
私とツナを二人きりにするようにランボ達幼児も連れて行ってしまった。
席についてふぅと息を吐く。
「良い子たちで良かったぁ……」
「そうだよね。俺も仲よさそうで良かった」
ツナもホッとしたように
安堵の笑みを浮かべている。
どうやら自分も無理を言って誘ったんじゃないかと心配していたらしい。
慌てて少女は否定するように首を振った。人に気遣われるのは居たたまれない。
「あ、そういえば話したかったことって何ですか?」
「そうだった。――いや、この前さ…リボーンが言ったこと。
俺、色々と考えてみたんだけどさ…やっぱり理不尽だと思って…」
少し真剣で不安げに顔をくもらすツナに少し身構える。
「俺もいきなりマフィアとか物騒な話をされてビックリしたから分かるよ。
でも、俺はまだ男だし……少しはムチャもできるけど。
さんは女の子だから………心配で」
本当ならこんなことに関わって欲しくない。
俺もできる限りリボーンを説得してみようと心がけているけど
リボーンは関わらざる終えないの一点張りだとツナはうなだれた。
「あ…ありがとう。でもツナさんだってあんまり危険なことには関わって欲しくはないです。
――それは男とか女とかは私の中では関係ないかな。……ただ私は自分の大切な人達が傷ついて欲しくない」
ツナの言葉に少し考えて、この前から考えていた言葉を告げる。
もちろん、私もマフィアの世界なんてごめんだとも少し茶化すように続けた。
少年は少し驚いたが、私の本音に少し嬉しそうだけどどうしたらいいか分からない子どもみたいな顔で苦笑した。
「さんは優しいんだね。そうだよね。俺だって本当は嫌だよ。
痛いことも嫌だし、誰かを傷つけたくもないんだ。――決めたっ!!
俺も、さんもどうにかマフィアになんかならない道を考えよう!!」
「わっ…っツナさん!?」
興奮気味の少年に両手を取られ、面食らいながらも言っていることには同意見なので
どうすればいいか分からずに真っ赤な顔で頷くしかできなかった。
「おっ俺…絶対にさんが安全でこのまま過ごせるように頑張るから!!」
意気揚々と決意をかかげるツナ。
リボーン君の逃れられない運命と言われた言葉すらも何だかくつがえしてくれそうな
そんな妙な頼もしさもあって、この手は振りほどけなかった。
「ツッツナさん!?」
「じゅっ十代目!?」
「あらっ」
「おぉ~」
いつの間に戻ってきたのか。そしていつから見ていたのかは不明だが
ビックリしたような皆の声で我に返って、ツナは慌てて手を振りほどいて離れた。
「ごごごっごめん!?いきなりこんなっ嫌だったよね?」
その間も律儀にを気遣うのは忘れない心優しい少年。
「やーいっツナのスケベ―」
「こっコラ!!そういうんじゃないって!!イーピンもうっとり勘違いしないで!?
べっ別にちょっと話が盛り上がっただけで……」
「ツナさんはそうやって女の子の手を簡単ににぎっちゃうんですね…ハルのはないのに」
「ああっ!!ハルも落ち込まないでってば!?ほっほんとに勘違いだから!!不可抗力だから!!」
「仲良しさんでうらやましいな♪」
「なっ仲が悪くはないとは思うけどっ京子ちゃんが思うような仲じゃないからね!?」
ここまで否定されると傷つくを通り越してコントだなぁとまだ真っ赤な顔で笑うと
それに気づいたツナも真っ赤な顔でいや……あの、と頭をかきながら視線を泳がせた。
「いやっでも、別にさんに魅力がないとかっそういうわけでもないからっ」
やばい、母性本能があふれ出そう。オタク特有のニヤケ顔を封印しながらBLドラマCDを
家族が隣に居ても聞ける能力を発動し、顔だけはどうにか真顔を作ったものの
心臓は衝撃で止まりそうになるのを反射的にドンドン叩いて誤魔化した。
この子は可愛い顔して天然タラシではないだろうか。
優しい男はモテるんだと
太宰治も立証している。褒められ慣れていない私はもう頭がクラクラしてきた。
ほれてまうやらーと近くのゴミ箱に叫びたい欲求にかられる。
脳内の小さな住人はすでにここに教会を築こうとか言い出し脳の中でサンバを踊り出した。
そんなカオスな脳内をどうにか落ち着かせようとコンマ数秒の間に脳内では私が大きな手のひらで教会をなぎ払い
脳内小人に縁起でも無いことを簡単に言うんじゃないこのオタク脳!!もし一生
喪女だったら責任とれんのかお前らと暴れる。
表面ではすずしい顔をどうにか作りだしながら(多分私だけが作っているつもりかも知れないが)
私も話がお互い盛り上がりすぎただけだからと否定しておいた。