「しゅ……守護者!?」

某少女漫画が一瞬よぎったが、まさかそんなファンタジーでありがちな
それこそマーベル作品みたいに10代で何の変哲もない私が能力を授かるなんてと
真剣に説明するリボーンには悪いが、冗談としか思えないような言葉に苦笑する。

「あの……それならなおさら疑問が残るんだけど………。
普通守護者っていうなら何かしらの能力があって、誰かを守れるくらい強い人ではないと
務まらないというか………そもそもなんで私なんかがそんな風に思われたのかなぁ?」

困ったように眉を下げながら問いかけるとリボーンは静かに説明した。
世界の守護者というマフィアでは都市伝説のような存在がかつて居たという話が残っていること。
世界の守護者という言葉に獄寺はありえないと悲鳴に近い叫びが
遠くに聞こえるほどリボーンの言葉が頭に反響して意識が遠のきそうなほど非現実的な話でおかしかった。

その守護者は大きな力を持っており、その能力があればどこの組織も有利に動け
実際に初代ボンゴレは世界の守護者のおかげで実質トップになったことからも
世界の守護者はまさに幸運の女神として崇められているという話を聞かされた。

「お前達がいた黒曜ランド周辺で、見たことがねぇ炎が確認された」

「見たことがない炎……もしかしてあの虹色の?」

「そうだゾ♪――そしてその炎がまぎれもねぇ世界の守護者の炎」

皆が息をのむ。ごくりと唾をのんだ少女は思考を巡らせた。

そこまで言われると確かにあの時ぶわっと広がった炎や
驚いたような骸と彼がこぼした意味ありげな台詞、そしてがんじがらめにしていた鎖が崩れ落ちた点
全て繋がる。――でも、まって。アレはほんとに意識してやったことじゃないんだけど……。

さん……。あの日何があったの?」

ツナの質問に、あの日の記憶を辿りながらたどたどしく説明する。

「えっと、私がなぜか骸に雲雀さんと仲が良いと勘違いされたせいで
雲雀さんを誘うためのエサとして誘拐して捕らえられてしまって……。
ホントにそんな些細な誤解が原因であの場にいたんだけど
私の前で二人はケンカ……と言えばいいのか……いや、アレは殺し合いに近いかも。
とにかく凄い戦いをしていたんだよね。私は鎖で縛られていたのもあるんだけど
ずっと見ていることしかできなくて………」

「それは大変だったね」

ツナの苦笑に釣られて私も笑って続ける。


「それで雲雀さんが途中で勝ったと思ったんだけど後ろから
不意打ちで骸が攻撃をしかけてくるのに気づいて……。
その時、雲雀さんはふらふらだったし私の方を見ていて気づいていなくて
それに驚いて私が叫んだ後から、少し意識が遠のくような感じがして……。
その後にあの炎が一面に広がっていて……。
私もあのときは何が起きたのか分からなかったし今思い返してみても
混乱して幻でも見たのでは………と半信半疑なんだよね。
と、とにかく……その後縛っていた鎖がその炎のおかげか崩れ落ちて
私は雲雀さんに駆け寄って……そして骸に目を見ろと言われて……」

「それは本当か?」

「えっ……うん。なんか分からないけどそういえば瞳に文字があったような。
でもなんかよく分からずに困ったのを覚えてる」

この言葉が決定打となったのか、リボーンは静かにうなづいた。

「やはりほぼ確実には世界の守護者で間違いねぇな」
「いや……でも、私ホントに何も力なんて………」

困惑する少女をリボーンはつかむと力強い言葉で少女の言葉を遮った。

「このままだと危ねぇ……今からボンゴレ本部に来てもらうゾ♪」

「え……」
それって、悪の総本山じゃね?と思ったのもつかの間。
リボーンの言葉に続くように、獄寺も何か思い詰めた様子で頭をさげた。

「頼む。このままだとお前も……いや、俺たちもあぶねぇ」

私は今日何度目かの眩暈を覚えた。

………
……


あの後、夜も遅いこともありなぜか3人を従えて家に帰った私。
恐らく監視目的もあるのだろうかとちらっと3人を伺うも
さきほどの言葉に相当思い詰めたのか、それとも私に気を遣っているのか
あの山本でさえも終始無言をつらぬいていた。

ただ一言「さよなら」と「おやすみ」だけ告げて私達は別れ
強引に交換したLINEの通知でリボーンから(どうやって打ったのか不明だが)
どうにか理由をつけてとりあえず家を出て欲しいというメッセージだけ受け取ったのを見て
色々なことがありすぎて追いつかない脳が充電切れとでも言わんばかりに
私はベッドにそのまま倒れ込んで朝まで眠った。

翌朝、昨日のことが頭を離れずにノイローゼ気味になりながらも学校へ登校した。
今日はいつもの遅刻ではなくむしろ早すぎるくらいの登校だったこともあり
雲雀さんとの遭遇イベントもなく、べつの意味で憂鬱な気分でいっぱいだった。

ガラガラッと開けた教室にはまだ誰も来ていない。
小さく誰に言うでもない悪態をついて、明かりをつけるのも面倒なので
そのままいつもの自分の席について机につっぷした。

本当に、面倒だ。
世界で一番めんどくさいことを避けて生きてたい人種なのに……。
そもそも、どうやって家を出れば………まさか家出しろってこと?
いやいや、待て待てちょっとマテ茶!!――なんで私はあんな初めて会った
チャッキーみたいな(恐らく首もまだ座ってない時期なのに二足歩行してしゃべり出す)赤ん坊を信じてるの?

「ホントに……全てがありえないよ」

ありえないなんてことはありえない!とか誰かが言ってたな、なんて薄ら笑いを浮かべるも
こんなイレギュラーすぎる状況にどう対応していいか分からずにうなだれる。
危ない……のかな。言われた言葉がリフレインする。

「うーん、誰かの家で泊まったことなんかあっち(アメリカ)に居た時
何度かヤン君の家に泊まったくらいしかないなぁ……」

それも小さい時だし、数年会ってないけどヤン君はもうだいぶ大きくなってるだろうし流石に気まずい。
あ、ヤン君というのは中国人の友人だ。アメリカに居た時に友達になって以来ずっと交友がある私の数少ない友人の一人。
思い出に残っている彼の姿はまるで日本人形のように綺麗で可愛らしい容姿の美少年だ。
私の髪よりサラサラの黒髪とスッとすずし気な切れ長の瞳でどこか雲雀さんをマイルドにした感じかも知れない。
同じアジア系がクラスで二人だけだったこともあって凄く仲良くしてたことを思い出した。

最近不運な事に両親を事故で亡くしたらしく、叔父さんだっけ?がいて日本に興味があったらしくこっちで生活してる。
うちの両親は彼の両親とも親しくしていたのと、ヤン君から気をつかわせるから言わないでとお願いされたこともあり
一応、彼の家で泊まるという口実はバレることはない。(彼は両親とこっちに来たとウソをついている)
とりあえず、リボーン君達の言うことを完全に信じたわけではないが、あの六道骸の一件とか
ただならぬことが起きてるのはきっと間違いない。そうなると家族にまで被害がおよぶのは避けたい。

なので、とりあえず今は不本意だが家を出るだけ出て……うーん、でもホントに
悪の総本山かも知れないボンゴレ本部とやらに行くのか?そして、そもそもそこはどこだ?
あ、でも確かイタリアンマフィアとか言ってた気がするからイタリアに行くことになる……?

と、ここまで悩んでハッと気が付いた。完璧にバカじゃん。そうだよ、骸の一件は事故だ。
予期せぬ人生のちょっとしたアクシデントだと思うんだ私!!
あんなの関係ないし、ましてや何なん『能力者』とか言われて間に受けてるんだ。
痛い奴通り越して危ない奴じゃん。

――それにヤン君までまき込もうとして最悪だ。
少女はうめきながら頭を抱えた。
でも頭の中をこのままだと危ないかも知れないという思考がぐるぐる回る。

もう胃が痛いなぁ。全て投げ出して逃げたいし、なんなら今誰か世界滅ぼしてくんねぇかしら。

もう一度小さく悪態をついて、スマホを指ですべるように操作しながら
他に当てもないし、久々に声が聴きたかったので画面に楊・戮力ヤン・ルーリーと映っているのを確認して耳に押し当てた。

1コールが過ぎて流石に朝早くに失礼だったかと切ろうとした瞬間にコールはやんで[#ruby=懐_なつ#]かしい声が返ってきた。

『hey!!チャン!?――ドウシタ?』

片言の日本語でがんばって話しかけてくる感じがかわいいなぁと和んだものの
久々に聞いた声が少し低く聞こえて焦った。
そっか、同学年だけどあっちの方が早生まれだし男子はそろそろ声変わりしてくる時期よね……。

《ここから先は英語で話してます》

「あっ、ヤン君久しぶり!!――急に朝早く電話してごめんね。
実は理由があって、しばらく家出したいんだけど……」

『え?』

ま、まぁいきなりサラッとこんなこと言われるとドン引きするよね〜。
案の定、電話先の声は動揺しているようだった。

『ど、どうした?――まさかおじさんおばさんと大喧嘩した?』

「うーん、まぁそんなところかなぁ。そんな感じでしばらく家を出たいんだけど
流石に行先告げずに出て警察沙汰になっても困るからさ。迷惑かも知れないけど
ヤン君の所に泊まるってことにしてもいいかな?」

電話先の声が一瞬やむ。
え、ちょっと待って超気まずい。絶対久々に電話して何言ってんだこいつって思われてるよね?
慌てて取り消そうとしたら、電話越しで小さくため息が聞こえてビクッとした。

『アイヤー……我也是个男人?(俺も男だけど?)』

電話先でまたため息交じりに独り言?のような中国語が聞こえてきたので
なんか愚痴ってるな、と思いながらツッコむ。(こういう時はだいたい悪態ついてる時だもん)

「それどういう意味〜?」

少し不機嫌かつ探るような口調に焦ったのか慌ててあっちは話を誤魔化した。

『っ…まぁ、どうにか家主に聞いてみるね。
而且我的无法置之不理(それに俺は君を放っておけない)
でも自分の家じゃないから、確実とは言えないけどね』

「あっ、うん。あの、そ…そのことなんだけど」

名義(口実)だけ取り付けたかったんだけど勘違いしているらしかったので
慌ててつけたそうとすると、電話越しに慌てたような焦る声が聞こえて来た。

『あっ、やばい…もう朝の配達の時間だ!!
――ごめん、これからちょっとバイトあるからまた後で連絡する』

「あっ、うん。こっちこそ急にごめんね!!…バイトがんばって」

言えないまま会話終了してしまう不安を抱えたまま、カワヒラのおじさんにどやされるとかなんとか
叫ぶヤン君が電話を切るのをぼうっとした思考で聞いていた。

うーん、どうしよう。とりあえず後でしっかりと誤解解かなきゃ。
あ、そうだ。リボーン君にLINEしようと思い立ちLINEを起動させた瞬間
ちょうどタイミングよくあちらからメッセージがきた。

『すまねぇ、作戦変更だゾ』

え、どういうこと?
リボーンから届いた内容を読み解くと、そのまま本部に行くのがなんか
危ないということになったらしい。(この時点で恐怖に震える私)
危ないというワードだけで豚の丸焼きのように炙られる私の図とかが脳内に浮かんできて戦慄した。
かと言って、このまま家に居るのはあまりオススメ出来ないらしく
しばらくはリボーンの目の届く範囲内で生活してもらい機を待って本部に行きたいらしい。
その際はまっすぐ本部へ行くのではなく、安全のためにどこかを経由してから向かうとのこと。

さっそくこの時点で震えてた私はイミフ、と思考停止し
その後のビザやあちらでの生活やらは保証するという文にホントにしばらく思考がおいつかなかった。

数分思考停止後、現状の行き詰まり感に気づいて悪態をついた。
脳内で計画着工中だった予定が一気にガラガラ音を立てて崩れ墜ちた。

とりあえず危ないから家から出る→ヤン君の家に泊まると嘘をついて
本当はボンゴレ本部とやらに行きしばらく滞在するという予定はパアだ。

ここで出てくるのは、嘘ついて家を出る事は出来るだろうがどこに寝泊りするかという問題。
中2の小遣いなめんなよ、こちとらお年玉崩してオタグッズ買いあさってる大貧民だぞ〜。
心の中でソッと涙を流してみるものの、現状はかんばしくない。

1日、2日くらいなら運が良ければインターネットカフェとかもアリかな〜。
あ、でも今もよく小学生に間違われる見た目の圧倒的未成年(私)は
よほどズボラ店員じゃなければチェックされて厳しいか。
となると公園……も危ないし。お泊りさせてくれそうな友人や親せき、知人も頭に浮かばない。

思考は完全に行き詰まっていた。

「誰か泊めてくれる人……リボーン君に頼めばどうにか手配してくれないかなぁ…」

ほら、あの人一応見た目チャッキーっぽいけどマフィアらしいし……(まぁ今でも信じがたいけどね)
こう……小庶民には分からないような金と権力でどうにか………と一人さびしく百面相していると
頭上から聴きなれた低音が降ってきて、飛びのいた。

「ひひひっ、雲雀さん!?――なんで、ここに居るんですか?」

周りの椅子や机にぶつかった痛みより、電気もつけない教室でずっと独り言をしてた変人と
思われかねないかとか、気づいた時に思いのほか端正な顔立ちが近かったので真っ赤な顔で恥ずか死ぬ寸前だった。
そんな私を面白がるような薄い笑みを浮かべた少年は、もう一度少女に問いかける。

「君……家出するのかい?」

「へっ……なぜ?」

「だって、泊まるところを探しているんでしょ?」
少しからかうような笑みで聞いてくる少年に面食らう。 Page Top Page Top