………
……

「どうしてこんなことに……」

現在、あの薄暗い路地から学生でにぎわうファミレス店に連行された私達。
目の前の申し訳なさそうな少年達とドヤ顔でふんぞり帰る奇妙な赤ん坊を見やって
ここに連行されるまでの手際てぎわの良さと強引さ、そしてどうにかして拒否して
逃走しなかった自身がくやまれて、もう一度ため息をつくと目の前の少年の肩がびくりとはねて抗議の声をあげた。

「おいっ!!リボーン、なんで連れて来たんだよ?」
「そうですよリボーンさん!!この女にいったいどんな用があるんすか!?」

リボーンくんっていうのか、と赤子を見る。私の視線に気づいたのか
乳幼児とは思えぬ優雅な仕草で黒帽子くろぼうしをとり、胸の前にあてた後小さく礼をしかぶり直す。

「実は……六道 骸についての件でに話があったんだゾ♪」

「えっ!?むっ……骸!?」
「どうしてあいつの名が!?また何かあったんすか!!」
「あれ?骸の知り合いなのか?」

リボーンの反応に様々な反応が返ってくる中、少女ただ一人だけが
その名前を聞いた途端、血の気が引いたような青ざめた顔で表情を固まらせた。

「む……くろ?」

ほとんどうわ言のように紡いだ言葉に、思い起こされる先日の記憶。
早くもトラウマになりかけている、少年二人の血みどろのバトルを思い出して小さく胸の前で手をにぎり身震みぶるいした。

どうしよう、まさかだとは思うけど警察関係者?
確かにあれだけ血みどろの流血バトルしてたし、廃墟の黒曜ランド(これは帰る時に確認した)を
めちゃくちゃ壊したり、荒らしたりしたから………?

ヘタレな私はどんどんネガティブで悪い方へと思考が転がり落ちていくことに絶望しながら
サーっと血の気がひいた青い顔で項垂うなだれた。


冷静に考えると、こんなただの少年が警察なわけはない。
いや、万に一つ……相手が中学生のため警察官の息子を
『同級生の方が聞き出しやすい』という理由で派遣……まぁ、これも現実的ではないだろうが……。

それ以外にも本当であればもっと気になる部分はあるだろうと後で振り返ると思うのだが
この時の私の脳内には、あの時の光景がバレたら殺されるということで頭がいっぱいだった。

誰に消されるかまでは頭が回らないが、何かしらの口封じや社会的な制裁を受けるのではないだろうかと
普通の中学生女子よりは幾分いくぶんか勘が良い少女も、あの血みどろの光景がフラッシュバックする度に
どんどん冷静な思考がかき乱され、さらに普段の卑屈ひくつでネガティブに輪をかけ
もはや思考は誰も思わぬ方向に転がり落ちはじめていた。

カタカタ震える私に、ツナと呼び捨てでいいと言った少年は
赤子に向き直ると、まさか目の前の少女が知るわけないだろう。
――きっと勝手に連行した挙げ句、知らない人物のそれこそ中二病くさい名前を
いきなり切り出されて困惑したんだろうと勘違いした様子でリボーンにつめ寄っている。

「リボーン!!あんまりこの人を困らせるなよ!!」
「あ……あはは、えっと……うーん」

かわいた笑いがもれる。その間も背筋に冷や汗は伝うし目はザバザバ泳ぎまくりで
完全に誰が見ても痴漢かストーカーで捕まった不審者みたいに
居たたまれない様子で身体を丸くしてシートに深く沈みこむ少女。

骸の名前を出した瞬間から銀髪の獄寺と名乗った少年はにらみつけ
空気を読めないのかその隣で先ほど獄寺に続き山本と名乗った少年に至ってはもう
まぶしいくらいの笑顔を浮かべてこちらをうかがっていたので、眩暈めまいがした。

もはや脳が追い付けない程の赤ん坊の奇妙な言動げんどうなど目に入っていなかった。
このままここまで引っ張っておきながら、百パーこいつウソをついているだろと思われるかも知れないけれど
一か八かで知らないと誤魔化して逃げ出そうか、と思い付きハッと青ざめた顔で見上げると
ツナの優しそうな瞳にぶつかって、心臓がドキリとはねた。

その瞬間、脳内で冷静な声でダメだという声が聞こえた気がした。
と同時に思い出したのは先日の正一の言葉。

変な赤ん坊に出会うと奇妙な予言じみたバクダン発言を投げつけた後
矢継やつぎばやで言った言葉が頭に響いた。

『ちゃんと向き合って欲しい』


そう告げた時の目は確かに真剣だった。
それに、今まさに目の前にいる赤ん坊は正一の言葉どうりじゃないか。

はおもむろにリボーンを見やる。
そんな少女の様子にリボーンの横で必死に否定していたツナも
まさか、と緊張した様子で二人を見比べた。

リボーンの不敵な笑みが大きな二重の瞳にうつる。
雲雀とはちがった黒曜の瞳に射抜かれながら
少女はリボーンを見据みすえて覚悟を決めてのどからしぼり出すように答えた。

「私が知ってることは教えます。
しかし、その前にあなた達のことを教えて欲しいです」

震える声でなんとか言い終えた私に
みんなの視線はさきほどまでの温かい空気を一変させ
どこか信じられないと恐怖と緊張にゆがんでいたのが苦しかった。

まるで雲雀さんのような立場になったな、と自嘲気味な笑みを浮かべる。

人からさげすまれることはあっても、こんな恐怖や畏怖いふの対象ということは珍しい。
沈黙に耐え切れずにえっと、と言葉をおどけたようににごして
眉をさげ、いつものどこか困ったような顔を浮かべた。

警戒心をといてもらうようにあわてて付けたした言葉は
先ほどよりも嘘っぽくて……そんな自分に反吐へどが出そうだった。

「だって、あなた達がなんで連れて来たのかとか
どういう人達なのか、私はよく知らないから……」

本当は『私もよく分からないんです。――何か知ってるなら助けて欲しい』が言いたかったはずなのに
私の唇はいつものように、気をきかそうと強引にどこか真実をちりばめつつも
本心ではない、本当に今このタイミングで質問するべきではない言葉に歪んでいたことに
言い終わった後に気づいて、またかと心の中で舌打ちをした。


いつものように自分がきらいになるのを感じて
だんだんさめていく感覚と、そんな現実に眩暈を覚えた。

………
……

「えっと……つまり、話を整理すると
あなた方はマ………マフィアということなんですか?」

リボーンくんは確かに乳幼児らしからぬ奇妙ないで立ちで
それこそ天才を通り越して不気味なほど(中に誰か乗り移ったんじゃないかというくらい)
ハッキリとした口調で何度も私の言葉に肯定して頷く。

「すいません。突然こんなことを言われても困りますよね……」

慌てて弁明するかのように言葉をつむぐツナの必死のフォローもだんだん遠くに聞こえる。
当初はなんの冗談だ、私をからかっている?とバカらしい気持ちでいっぱいだったが
赤ん坊の奇妙な言動、最近起こった他校生狩りやあの黒曜ランドの一件など
確かによく考えると、常識を越えた何かこう大きな力が動いているようでならない。

思わず血の気が引き、目眩を覚える。震える唇で何度もマフィアという言葉をこぼし
聞き間違いじゃないのかと自分に言い聞かせて、動かない思考に動くようにうながす。

「マフィアって………あのマフィア?えっと、よくアクション映画とかで出てくる
あの怖い人たち………?」

この前そういえば深夜番組でたまたまやっていた有名なマフィア『アル・カポネ』のドキュメンタリー見たなと
ぼんやり思い返した時には時すでにおそし。思い出さなければ良かった、とマフィアの恐怖の実態を思い出し
さらにうなだれて、ほうけたように放心気味でもう一度マフィア……と呟いた。

だんだん血の気が引いておびえる私の様子にリボーンは不適な笑みを浮かべ
ツナにいたっては、どう説明していいか分からないといった困惑した様子で
何度も私とリボーンを見て、深くため息をついた後リボーンの言葉を補足するかのように真剣な表情で言葉を紡いだ。

「えっと、自分達は……というか俺も少し前までは信じていなかったんだけど
どうやらマフィアらしく、さんもリボーンの言葉だとどうやら
骸に関係したせいか、恐らく今多くのマフィアが狙っている……んだと思う」

骸と関係という言葉にビクッとした私に、追い打ちをかけるように
イラ立った様子で、殺気を飛ばしながら獄寺がガンを飛ばす。

「やっぱりテメェ、あいつのこと知ってるんじゃねぇか!!
まさか、他のマフィアの回しもんか?」

ドスが効いた声に怯えて息をのんだ私は、なんで骸(あんな奴)を無意識に
かばって嘘をつこうとしたのかと内心後悔した。
いや、かばうというよりもむしろ逃げに近いかも知れない。
最悪自分には何も関係ない、分からないでしらをきろうかとすらも思っていたのもあり
目の前の少年達に嘘をつこうとしたことは事実なため、骸との関係性を指摘されると
痛いところ突かれた感じと同時に一抹いちまつの罪悪感を覚える。


「獄寺、そういうなって……だってビビってたんだろう。
そりゃあ突然目の前で戦闘されたりしたらな………。
早く忘れたい、もう二度と関わりたくないと思うのは至極当然ダ♪」

赤ん坊の発言に涙目で何度もヘッドバンキングで同意する。
そうなんだよ、もう関わりたくないんだよ!!平和におだやかに
ああいう世界がもしあるとしてもなるべく関わらずに傍観ぼうかんしていたいんだ!!と思ったときに
一瞬なぜか雲雀さんの顔が浮かんだ気がした。
確かに、彼も遠くでなるべく関わらずにいたいな……。

「チッ。――まぁ確かにこいつどう見ても一般人っぽいしな。
おいとか言ったな。いい加減骸のこと吐かねぇと一般人でも容赦ようしゃしねぇぞ」

「ひっ!!――わ、分かりました。で、ですが誓って下さい!!
もう二度とあんな怖い目には会いたくないんです!!」

胸の前で握りしめたこぶしをほどいて、強調するかのように真剣に机に手をついて懇願するも
そんな私の姿にリボーンは悪魔のような発言で私を地獄にたたき落とした。

「――それは無理だゾ♪お前が望むも望まないも、もう運命は動き出しちまったんだ。
腹をくくって、大人しくボンゴレに入ることだナ♪」

そんなリボーンの思ってもみなかった言葉に今日一番の絶叫したのは
私だけじゃなくて少年達3人も同時だった。


………
……

そこから叫んだ私たちに嫌悪感けんおかんしめしだした客達の反応で我に返り
なぜかあれよあれよとツナの家にお邪魔することになった私達。

ツナのお母さんはとても美人な方ですごく若くて並ぶとまるで姉弟のようだと関心したら
気をよくしたのか、それとも私のような子でも女の子が来てくれた事に感激したのか
美味しいお菓子とお茶まで用意してくれただけでなく、見ず知らずの私をすんなり家にあげてくれた。

お茶を飲んで一息つく。
ファミレスの続きの話をした。皆……特にいきなり巻き込まれたという生い立ちに共感したのか
ツナは一番真剣に聞いてくれて、他の二人……特に獄寺もだんだんと巻き込まれただけだった真相に気づいて
さっきまでの攻撃的な様子を反省し、居たたまれない様子で頭を下げた。

「すまねぇな。てっきり俺はどっかのマフィアのやつかと思っちまった」

「そ、そんな……。こんな戦闘力0な奴がマフィアだなんてありえないですよ!!
それに私まだ子供ですし……あ、でも皆もボンゴレ?っていう組織の一員なんだよね」

ちらっと視線をあげて3人と赤ん坊を伺うも、どう見てもどこにでもいる男子生徒と
乳幼児のまだ子供って感じでいまだに実感がわかない。

もう一度リボーンが私の話を確認するかのように、恐らく私が嘘をついていないかどうか確認の意味も込めて
可愛らしく舌っ足らずな声で話を反復していく。

「つまりはたまたま雲雀の女だと思われ、雲雀をおびき出すためのエサとして骸に捕らえられ
たまたまあの場に居合わせた被害者ってことだナ♪」

「おっ……女って、リボーンくん。それはゾウが逆立ちしてもないし
私が男でも100億もらっても無理だよこんな奴………」

自分に親指をさして真顔で否定する私にツナが冷や汗をかいて自己否定強すぎると呟く。

「恐らくたまたま仲が良いと思われたんじゃないかな。あ、最近よく一緒に居たし
あの日も途中まで二人で居残ってたから………」

「ほう、最近よく一緒に居てあの日も二人で残っていた………これは確実に男女の仲…」

「ないない!!――てかきっと、こんな奴なんか雲雀さんが迷惑だよ」

たたみかけるように過剰かじょうな否定する少女に、リボーンはニヤニヤと笑ってふーんと信じてないような顔で肯定した。

「まぁあいつと仲が良いのは良いことだゾ♪」

「そ、そうなのかなぁ……あ!!それで私がなぜマフィアにねらわれるか教えてくれないかな?
後はなんでその狙っているはずのマフィアの一つかも知れないボンゴレに入ることになる理由とかさ……」

だって戦闘ゲームや格ゲーならまだしもろくにケンカしたこともないし
学力も平均以下で、容姿も下位打線スタメン独走中よ?
アメリカにいた時も日本でも彼氏いたことがない=年齢の私がマフィアの女特有の
ハニートラップなんか無理だと青ざめていると、リボーンが丁寧ていねいに説明してくれた。

「骸との戦闘中に無意識で目覚めちまった能力、ツナが大空の守護者であるように
お前もひょんなことから守護者として認定されちまったってことダ♪」 Page Top Page Top