ベビーフェイスなストーカー
それをまた静止するように、口を開いたのは言うまでも無い。
「きゅっ……九代目!!今なんと?」
「すでに、手は打っておる。この件はちょうど日本にいるリボーンを中心に進めてもらおう」
この言葉通り、九代目はすぐリボーンに連絡を入れると、ボンゴレ内で衝撃の発言で幹部を揺るがせる。
『世界の守護者が見つかったやも知れぬ。もしそうであればボンゴレが総力をあげて
この守護者を必ず手に入れて見せよう。――そして、これはわしの……いや先代からの遺言に従って
時期ボスとなる者は、必ず彼女を花嫁と迎えることが条件じゃ』
………
……
その頃、日本では骸が第二の攻撃を仕掛けるも沢田綱吉の手によって破られる。
しかし、雲雀と距離を置いていた少女は……この事実を知らなかった。
少女の知らぬ世界で、世界は動き出していた。
【リボーン視点】
『チャオッス!!俺はリボーン♪――今回、九代目の依頼で例の女子生徒を
しばらく観察し、人物像をまとめてボンゴレ本部に送ることになっているゾ』
赤子と見間違う程可愛らしいスタイルで並盛を歩きながら
中身はやけに大人びたスーツ姿のリボーンが、今しがた出てくる女生徒の群れの中から画像にうつる女子を探す。
本部がどこからか入手したであろう荒い画素の、恐らく監視カメラの映像写真にうつる女生徒は
おびえた様子で、雲雀の横に立っているぽっちゃり体型の茶髪の女子生徒 14歳。
「お、出てきたゾ♪」
恐らくと思わしき少女が疲れた様子で校門から出てくるのを見計らって
バレナイように後を追っていく。しばらくはこのようなストーカーまがいな行動になるが
リボーンが手に入れたい情報は、書類上のプロフィールではなく生の少女の実態だった。
画像の少女と実物の少女を見比べるリボーン。画像ではどこか怯えた様子で表情も固まっていたが
実際は愛くるしい笑顔で、お年寄りや子供、地域の住民にもハキハキとした快活な態度を見せている。
ネクラかと思ったが……結構愛くるしくて見た目もそんなに悪くねぇな。性格もいいみてぇだし。
後4、5年年食えば……俺の愛人リストにいれてやったもよかったゾ。そんな失礼なことを思いながら
手に持ったメモ帳に、事こまかに記載していく。
『性格も明るくて優しい。ゴミもポイ捨てせずに遠くのゴミ箱まで捨てにいく。困っている年寄りの荷物を持つなど非常に道徳的』
リボーンはメモを確認しながら、怪しげに笑みを浮かべた。
時期ボンゴレの花嫁候補になる少女かも知れないのだ。社会秩序を守れぬような異端者は非常に困る。
しかし目の前の少女は、今時の若者にしては珍しいくらいに良い子で安心した。
と、同時にすでにマフィアの道に進むことが確定したような少女の人生に同情もある。
「お……アレは雲雀か?」
雲雀らしき人影が遠くから歩いてくる。それに気づいた目の前で観察していたは
ふと視線をあげて、少年と目が合うと血の気の引いた顔で来た道を逆走しだした。
……が、いかんせん足がおそすぎて少年の大股の早歩きに追いつかれて
丸みを帯びた腕をつかまれ、路地に引きずり込まれる。
リボーンはそれにニヒルな笑みを浮かべると、てくてく後をついていった。
【 視点】
ど、どうしよう。――アレから避けることに成功していたのに
まさか油断した途端、捕まるなんて。 気まずくてそらしていた視線を
少年の顔色をうかがうような表情で見上げると、案の
定不機嫌そうな顔で見下ろしていたので息をのんだ。
「君……わざと逃げたでしょ?」
もちろんそうなのだが、そうですなんて言えばかみ殺されるよね~と心の中では発狂して転げ回る。
青ざめた顔で、視線はあらぬ方向に泳ぎながらどうにか逃げることに意識を集中させる。
路地裏につれてこられたかと思えば、いつかのように壁ドンをされ
後ろはコンクリ、前は雲雀と退路を失われつつ 何とか空いた片側から逃げようと機会をうかがっていると
その横にも手をつかれて完全に包囲されてしまった。
「ねぇ……答えて」
「あ~、に……逃げたっていうわけでは「逃げたよね?」……はい」
ノンスピリチュアリストの私でも分かるくらい殺気という名のオーラが見える気がする。
そんな彼に問い詰められれば、もちろんイエスとしか言えないわけで……。
その時だった。
あれ?とアルトボイスが横から聞こえてきたのは。
目の前の少年がめんどくさそうにため息をつく。
私はた、助かったと思ったと同時に今のこの状況を見られたら
誤解されないかと不安になって目の前の雲雀さんを見上げた。
目の前の彼はどこか面倒くさそうに、けれども
苛立ちすら見せながら
低く声を落として、さきほどの声の主に反応する。
「なんだい?」
その声に釣られるように少女がゆっくり雲雀から視線を表通りのほうに向けた。
そこに立っていたのは数人の人影。恐らく真ん中にいる人が声の主だろう。
というのも――あ、やばい声をかけてしまったといいたげな表情から察しがつく。
は心の中でその気持ち分かるぜとエールを送ったのは言うまでも無い。
ツンツン頭の太陽のようなまぶしさを感じさせる茶髪がまず目に飛び込んできた。
次に幼さの残る顔立ちが可愛らしく印象的だった。小柄な体格だが
男子学生用の制服を身にまとっていることや
仕草から恐らく少年だろうと推測する。
つれている少年二人もこの少年の言葉に連動して、視線をこちらに移していた。
「あっ……えっと、どうも?」
一気に注がれた視線と目の前の彼にどうしていいか分からずに
とりあえず反応してみせると、実は雲雀に向いていた視線が少女に集まるのを感じ
私のほうがやばい、という気分で反省した。
「なんだい?
沢田綱吉……」
沢田綱吉くん……恐らく少年の名前だろうか。それにしてもめずらしい、他人に興味がない雲雀さんが名前を
把握してるなんて。
全然怖そうじゃないし………何者なんだこの少年、とまた新たな捕食者かと失礼にもみがまえた瞬間
甲高い叫び(おそらくツッコミ)が耳に飛び込んできた。
「ななななっ!?――何やってるんですか雲雀さん!!女の子相手に!?」
小さく雲雀が舌打ちする。
「君には関係ないよ」
「で……でも、この状況って………」
顔を真っ赤にして、肩で息をつきながら私と雲雀を見比べる。
ああ、きっとカツアゲか何かだと勘違いされたのかなと思っていると
怖い物知らずなのか、銀髪の少年がくってかかってきた。
「おい!!てめぇ雲雀!!――十代目になんて態度だ!!」
「そうだぜ雲雀先輩……みんなで仲良くしようぜ♪」
後に声を発した黒髪で短髪のいかにも体育会系といった少年の人の良さそうな笑顔に
なんとなくパリピさがにじむのを感じた。
こんな風に思っていることがさっそく
僻みかも知れないけど
その眩しさがやけにスクールカーストど底辺オタク(私)には突き刺さるんです。
しかし、これが
功をそうしたのか。はたまた
絡まれてげんなりしたのか
もう一度軽く舌打ちをした雲雀さんは、私の方をちらっと見やった後
仕方がないと言った様子で、路地を後にした。
「あっ!!おい!!テメェ――女にまさかカツアゲでもしてねぇだろうな?」
「ちょっ……ちょっと
獄寺くん!?決めつけは良くないって」
そんな獄寺と呼ばれた銀髪の少年の言葉に、少しだけ意味ありげに雲雀は「まさか」と口にして
一瞥した。
こんな捨て台詞も忘れずに……。
「君……次逃げたらかみ殺すからね………ってうそぉ」
雲雀の言葉を反復するようにつむがれるの言葉に、切れ長の美しい漆黒の瞳を細めると
よく出来ましたとでも言うかのようにフッと念押しの笑みを浮かべてその場を後にする。
残された私たちはあまりにもいきなりの出来事と
そのバイオレンスな言葉とは似合わぬ仕草の気品さと色気に圧倒されながら
真っ赤な顔、
困惑した顔、怒り顔、にこにこ顔と様々な表情でその後ろ姿を見送った。
それを遠くで見つめていたベビーフェイスなストーカーは遠ざかる雲雀の姿と
取り残された4人のあっけにとられたような様子に笑みを浮かべ面白くなってきたとばかりに
路地に取り残される少女へと歩みを進めた。