住む世界が違ったんだ
………
……
「良かったぁ。――目覚めないかと思った」
「ここは……?」
雲雀が意識を覚ましたのは、あれから2日後の病室のベッドだった。
が張り詰めていた糸がきれたようにへたりこむ。
「雲雀さん。あれから2日間寝たまんま目を覚まさなくて……心配してたんですよ」
ホントに、治療後に再会した彼の姿は痛々しくて見てるこっちまで
SAN値がえぐれるようだった。
おまけに、長い
睫毛を伏せた彼の姿はまるで
精巧につくられた美しい人形のようだったので
ますます私の不安をかり立てる。
このまま目を覚まさなかったら……なんて。この2日間で何度思ったことだろう。
「あの後のこと……覚えてますか?」
あの日、急に骸が倒れた後、彼は慌てて駆けつけた少年二人に抱えられてどこかへ行ってしまった。
一方取り残された私はしばらく呆然としていたものの、血だまりに倒れる雲雀さんに気づいて
慌てて彼の携帯で草壁さんを呼んで助けていただいことなどを説明した。
「チッ。今度会ったらかならず噛み殺す」
いつものように強気な彼に苦笑しつつも、視線を病室の床に落とす。
彼がこんなケガをおったのも私のせいだ。私がなぜかたまたま仲が良いだなんて目をつけられてしまったから……。
もし最近
物騒な暴力事件が
相次いでいて、強い人ばかり狙われるのがあの少年のせいだとしたら
いつか絶対に雲雀さんとかち合う事になるだろうけど……。
「私のせいで……「次」
「えっ」
「次、そんなこと言ったら噛み殺すから」
制服のネクタイをひっぱられて、近づけた顔が不愉快そうに歪んでいた。
いつもならおびえるところだけど、今回だけは
無性に悲しくて泣きたくなったのはきっと気のせい。
あれから私はなんとなく雲雀さんと距離を置いている。
……と言うか、今ままでだって距離は取ってたつもりだったんだけど
まさかあんな風に急に
壁際まで追いつめられるような、例えるなら格ゲーの
逃げ場のない壁ハメ(壁際に追い詰めて逃げられなくしたうえで無抵抗な所をボコボコにする)に近い状態まで
陥るなんて、誰が想像するかね?――ええ!?そこで見てるお前<神>か?
と、脳内で一人ボケツッコミ劇場を展開してみるも独り身がさびしいぼっち生活です。
あれから草壁さんの
計らいか何かで、学校に行っても
病欠扱いになってたし
なんならしばらく休んでも問題ない、とまで言われた。
どんだけ悪い病気にしたてあげられたんだ、と思ったものの私のゆるキャラボディーを見れば
何かしら悪い
箇所が見つかってもおかしくはない、という結論に至りため息をついた。
どうりで友人や同級生の哀れみの視線が突き刺さったわけか。(
生類憐みの令が施行されたかと思ったぜ)
ふと目線をあげた先の窓からは楽し気に帰宅する学生がちらほら見えた。
あれからお言葉に甘えて、行きたくなかった学校にも行かずにすむという絶好の機会を逃さずキャッチし
そのままお家でまったり、という名のゲーム
三昧ぐーたら三昧、ときおり夢小説を読みふけるという
まさに生産性のないニートのような生活をしていた。
「まぁ……もともと私と雲雀さんの住む世界が違ったわけだし、これも別に会う前に戻ったわけで
わざとさけてるとかそういう……わけじゃ」
自分で独り言のように言い訳を並べ立ててみたものの、そのとうりすぎてぐうの音が出ず
最後は茶髪をかき乱して、あーっと声をあげてベッドに倒れこんだ。
バカボンではないけど「これでいいのだ」という言葉がおそらくしっくりくるはず。
私も日頃の恐怖から解放されてマンセーマンセーで彼だって
私を視界に入れずにすむし、なんなら同じ空気も吸う必要も、あんな風に……。
あんな風に私のせいで犠牲になるなんてことも、もうきっとない。
ぎゅっとLIN●のくま〈ブラウン〉のぬいぐるみを抱きしめて顔をうずめる。
痛いくらいに食い込んだ指先に、悲鳴をあげたのはぬいぐるみじゃなくて私の心。
………
……
あれから1週間くらいインフルエンザか何かということで学校側は休ませてくれたので
その間ゆっくりと今後の自分を見つめ直す機会が出来た。
希望の高校にチェックを入れる。近場で普通科の無難な選択。
だけど、それで良かった。――いつだって私には平凡が似合う。
確かに乙女ゲームのような修羅場も経験してみたい気持ちはあるけれど
ふと思い出すのはあの事件のことで、あんなのはもうこりごりだった。
そんなつかの間の日常がくずされたのは何気ない
清々しい朝の出来事だった。
ベルを鳴らした来訪者に、警戒せずにドアを開けたのは一生の後悔。
「あ……あれ、あなたはえっと………」
「やっやぁ!!―― さん……だっけ?」
どもりながらぺこぺこと頭を下げたのは、顔だけ見慣れた同級生だった。
えっと、名前が確か……。
「あっ!!そうだよね?僕たち同じクラスになったことなかったから知らないのも無理ないか。
僕は
入江正一って言います。君のクラスの隣の特進科に通っているんだけど……」
そこまで言いかけたところでああ!と大きく頷いた。
なるほど、どうりで見た事があったわけだ。目の前のどもり気味で親近感を覚える彼は
わが校の天才中の天才でよく名前を見聞きする機会も多かった。
私は普通科の情報処理選択だったから、特進科の彼とは同じクラスにはなることはなかったんだけど
彼が、どうかしたのだろうか。緊張したように頭をかいて
何度も申し訳なさそうに何か言いかけては謝ってを繰り返している。
「あっえっと…あの、こっ……これからさんは変な赤ん坊とかに出会うかも知れないんだけど」
え……赤ん坊?――私はとっさにバカと天才は紙一重という言葉を思い出した。
私の視線に気づいたのか、はたまた自分で言って居た
堪れなくなったのかは謎だが
お腹を押さえて、
唸るようにまくしたてた。
「とっ……とにかく、これから色んなことがいっきに起きるかも知れないけど
ちゃんと向き合って欲しいんだ!!――じゃっ、じゃあ……そういうことだから」
「えっ……あっあの!!入江さん!?」
それだけまくし立てると逃げるように去った少年が、正一でいいよと走って行ったので
思わず面食らって、何だったんだろうと正一の言葉が頭にリフレインするのをその時は疑問に思わずに過ごした。
逃げるようにさった正一が、ごめんねと呟いたのは少年だけが知る文字上の運命のせい。
『同じ中学の はこのままだと……』
そこから先は
滲んでいたが、少年は自分が与えられた役を演じるしかないと腹をくくった。
………
……
…
その頃、ボンゴレ本部。
「いいか、お前達に集まってもらったのは……例の世界の守護者についての話だ」
「はっ。馬鹿馬鹿しい。――確か、
超自然的治癒力ひいては寿命の延長……
さらに大空の守護者さえしのぐ唯一無二の存在というウワサの守護者か」
「アレはもはや都市伝説ではないのか?」
「――ですが、話はマフィアの間でかなり
浸透しております。
特に
六道 骸の一件で黒曜ランド周辺一帯にめずらしいタイプの死ぬ気の炎が確認されていますし……」
「アレも、あやつの幻術では………?」
「だとしても、すでに出来たばかりで戦力がとぼしい組織などは
この
一攫千金のチャンスにかけ、存在すら怪しい守護者を求めて日本へ渡り始めています!!」
新しくあがる情報に、集まった幹部達に緊張が走る。
その重たい空気の中、
口火を切ったのは九代目だった。
「当時、同時刻黒曜ランド周辺にいた人物の
目星はほぼ分かっているのだろう?
家光よ」
家光と呼ばれた男性が、その言葉に弾かれたように反応し、すぐに眉間にしわを寄せて
険しい表情で告げた。
「はい。周辺人物の調査はだいぶ終わっており、中でも可能性が高いと思われるのは当時黒曜ランドで
雲雀 恭弥と共に居た一般人の女学生です」
その言葉に、さらに幹部達はざわつく。ここまで目星がついているのに
自分たちは他のマフィアが動く中、動かなくても良いのか……と焦りにも似た声さえ上がり始めた。