目が覚めるとキレイな顔がドアップだったので死ぬほどビビった。
思いっきり殴ろうと思ったが、体に力が入らない。

仕方がないのでにらみつけるが、神田にしては珍しく気まずそうに
そして少しだけホッとしたように息をはいて、謝罪の言葉を口にした。

目をパチクリさせて、彼の行動をうかがう。

「お前に言うのを忘れていたが、イノセンスは使うたびに
使用者に精神的かつ肉体的にも負担を与える」

それからつらつらと低い声で謝罪なのか言い訳なのか
はたまた遠まわしにディスってんのか分からない言葉を要約すれば
自分と同じ感覚でバカスカ使用しました、まさか倒れるとはって話だった。

「お前のせいかよ」

ギリッと奥歯をかみながら目つきを鋭くすれば
大人しくしていた青年も癪に障ったのか
生意気そうに口の端をあげ、ベッドに横たわる少女を見下ろした。

「そもそもがこんだけイノセンスを使用して
ぶっ倒れる方がおかしいだろ?」

教団で訓練はしたんじゃないのかと嘲笑され
痛いとこ付かれたなと視線を泳がせる。

「あっ…あっちではまず体力をつける訓練ばっかで……」

「いいか?俺は教団のやつらより甘くねぇからな」

死にたくないなら明日から死ぬ気でイノセンスを振るえと
鬼教官のような発言をされ、苦い顔で舌打ちを返した。

ピーマンの言うことは確かに正しい。
数回だけイノセンスを発動するだけで倒れるのは
さすがに今後の戦闘を考えるとあってはいけないことだ。

神田がいたから今回はよかったものの、この前のAKUMAなんて
軽く20体以上はいたなと思い出してゾッとする。

「とりあえず今は休め、見た感じだと
明日にはほぼ回復すんだろ」

今日は自分で調査に出てくると宿を出る青年の後ろ姿をおい
扉の向こうに行ったのを確認し大きなため息をついた。

「あぁ……マジでやりたくない」

………
……

あれから何時間か寝ていたんだろう。
いつの間にか神田が戻っていたのか、紙の束を机に放り
報告だとやや苛立ちながら告げた。

少しだけ体を起こせるようになっていることに感動し
上半身だけおこして何かあったかと聞けば机に放った
紙の中から1枚の写真を取り出してこちらに投げた。

「うわぁっ」

もらった画像に目を通した瞬間、すぐさま投げ捨てる。

グロい画像ならグロ注意って先に言えよと
涙目になりながら睨むと知るかよと冷たく返された。

「でも……こっちに来てから」

「ああ……初のバラバラ事件だ」

調査書に書かれていたとおり、さっき見たのはどうみても
両腕がなくなった状態で発見された子供の遺体。

奇妙な生贄が、まさか本当に行われているなんて。
だんだんと吐き気がしてくる。

神田はそんな少女におかまいなしに、さらに衝撃の言葉を告げた。

「この生贄の後、男が生き返ったらしいぜ」

はと呆けた声を返せば、そのままの意味だと言われ
さらに混乱してくる。

「どうやって死んだ人間が復活すんの?」

様々な疑問がわいてくるも、神田からこっちに来る前に
調査書に目を通したんだろと言われる。

「あ……」

「そうだ、教祖ってやつの力だとさ」

皮肉たっぷりな青年の声に、今回ばかりは私も
どんな冗談だと頭が痛くなり、ぎゅっと目をつむって項垂れる。

「そうだった。変な宗教だったんだっけ。
教祖が死んだ人間を生き返らせるとか……」

しかもその体のパーツに使うのは生贄となった子供や若者なんだろ?
狂ってる、ここの教祖も……それを幸福と信じて疑わない信者たちも。

「こんな宗教おかしいって思わないのかな?」

絞りだすように問いかければ、神田も疲れたようにため息をついた。

「どうだろうな?――ここの街は全体的に貧しすぎる。
恐らく多くがろくな教育すら受けてねぇだろう」

だから多くが病気、災害などの超自然的な現象にたいして
立ち向かうすべを持たないとつづけた。

その中で何かにすがりたくなるのは人間の性らしい。

「俺らだってこんな武器に縋り付いて
AKUMAと戦ってんだぜ?」

世の中には奇妙な話をまともに信じて
命をかけれるバカが大勢いるんだよと皮肉めいて言われ
何も言い返せずにシーツを頭までかぶった。

部屋を出る前に、青年が明日復活した男を見に行くぞと釘を刺した。
もうこれ以上こんな不気味な宗教と関わりたくないと思いつつも
やっぱそうなるよなぁと逃げられない恐怖感に支配されながら目を閉じた。
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