「そうだった。変な宗教だったんだっけ。
教祖が死んだ人間を生き返らせるとか……」

しかもその体のパーツに使うのは生贄となった子供や若者なんだろ?
狂ってる、ここの教祖も……それを幸福と信じて疑わない信者たちも。

「こんな宗教おかしいって思わないのかな?」

絞りだすように問いかければ、神田も疲れたようにため息をついた。

「どうだろうな?――ここの街は全体的に貧しすぎる。
恐らく信者のほとんどがろくな教育すら受けてねぇだろう」

だから多くが病気、災害などの超自然的な現象にたいして
立ち向かうすべを持たないとつづけた。

その中で何かにすがりたくなるのは人間の性らしい。

「俺らだってこんな武器に縋り付いて
AKUMAと戦ってんだぜ?」

世の中には奇妙な話をまともに信じて
命をかけれるバカが大勢いるんだよと皮肉めいて言われ
何も言い返せずにシーツを頭までかぶった。

部屋を出る前に、青年が明日復活した男を見に行くぞと釘を刺した。
もうこれ以上こんな不気味な宗教と関わりたくないと思いつつも
やっぱそうなるよなぁと逃げられない恐怖感に支配されながら目を閉じた。

翌日、死者から教祖の力で生き返ったとされる男性を見に
少し開けた広場を訪れた。

私と神田は隣同士、トマには何かあった時のために
少し離れた場所で待機してもらった。

もちろん、イノセンス武器は常に手元に持っている。
緊張から握りしめる手の平が汗で滲んだ。

「それにしても……よく信者でもない私たちが堂々と入れたね」

あたりを見渡しながら小さな声で神田に尋ねれば
あぁと低い声が返ってきた。

「見てみろよ、ここには俺ら以外にも信者じゃない奴がちらほらいるぜ」

神田の言葉にゆっくりあたりを見渡せば確かにどう見ても
信者じゃないような旅芸人風の男や、商売の途中で抜けてきたようなおばさんも見られた。

「で、でもどうして?――普通こういうのって信者同士でしか公開しないんじゃ…」

探るように問いかけると神田は少し考え込み、少しの沈黙の後口を開いた。

「逆だろうな。あえて公開することによって、教祖の力を
周りにアピールする目的があるのかもしれねぇ………」

ハッと皮肉ぽい乾いた笑いの後、神田は静かに目を伏せた。

「なんにせよ、これを嬉々として見に来てる奴らも大概だけどな」

短いファンファーレの後、教祖らしきローブをまとった
恰幅のよい老父が複数の女性信者に連れられ登壇した。

「我らが偉大なる教祖マリシャス様の奇跡の御業を
とくとご覧あれ!!」

女性信者の高い声が広場に響くと同時に、壇上で布を
被せられていた人影に人々の注目が集まる。
すぐにおおわれていた白い布は取り払われ、顔色の悪い中年ほどの男が
椅子に腰掛けた状態で姿を表した。

地割れのように信者は歓喜の声をあげ、信者ではない観客も感嘆の声をもらす。
この場にいるほとんどが教祖の力に心底ほれ込んでいるようで
今、変なことを言えば刺されかねないなと流石の私でも口をつぐんだ。

「あれが……蘇え…いや、復活したとされる男…」

一見すると怪しい所は見られない、至って普通の男性だ。
壇上には男性の家族だろうか、駈け寄られ教祖に頭を垂れて感謝の涙を流していた。

「あ、神田……」

急に人込みの中、踵を返し立ち去ろうとする男を追いかける。
帰るなら一言くらい言えよと内心悪態をつきつつも
どこかホッとしている自分がいた。

一刻も早く、こんな気味の悪いところから立ち去りたい。

あの奇跡のショーの後、数日が過ぎた。
その間も私たちは教団の謎を追いかけながらも、なかなか教団の
謎が分からないまま、周辺で発生するAKUMAの退治に追われていた。

「ああ、疲れた〜」

見た?今日のAKUMAの数と愚痴れば隣の神田が皮肉ぽく笑った。

「あれだけでバテてたらこの先やってけねぇよ」

悪かったなと思いつつも、武器を振るいまくり豆だらけになった手を見つめる。
エネルギー不足で倒れたあの日以来、倒れることはなくなった。
いくら教団で体力づくりをしていても、実際の現場で数を
こなしていた方が体力がつくんだと実感させられる。

コムイさんの思惑に引っ掛かって悔しい気もするけど
ここはイノセンス回収抜きにしても、かなりあたりの練習場だなと思う。

けれどそれは今もどこかでたくさんの命がAKUMAの
生贄になっていることでもあって………。


「でもイノセンス回収どうすんの〜?」

ベッドに寝ころびながら気だるげに問いかければ
そこも解決してからしか帰れねぇぞと冷たくあしらわれて項垂れる。

「テキトーに修行積んで帰る気満々でいたのに」

そりゃ、回収のこと忘れてたわけでもないけどさ。
でも、いくら周辺で探ってもなかなかボロを出さない。

「もうどっちかがあのヘンテコな宗教に凸るしかなくない?」

「とつ?――まぁ、どのみち行くことにはなるだろうな」

なら神田さんだけで行ってくださいとめんどくさいオーラを出していたら
空気を察したのか眉間にシワをよせながら低い声で釘を刺された。


………
……

「1人で残すわけねぇだろって……」

残してくださいと返したが無視されたのは言うまでもない。
まだ1人で宿で待ってた方がよかったよとごちりながらも
神田の後についていくと、思ったより早く宗教組織に入れてビックリする。

自分で言うのもアレだが、どう考えても怪しい二人なのに
よく招き入れたなこいつ等と呆れを通り越して
セキュリティのガバガバさがぶっちゃけ怖い。

しかもなぜか女性と男性は別に改宗のための儀式があるとかで
神田とも離されてしまった。

「いや、あの…今日は話を聞きに来ただけで
まだ入るとかそんな……」

「おほほ、皆さんそういいながらも入って行かれるのですよ♪」

「ええ、特にアナタは合格ね!!」

やばい、話が通じないうえに勝手に進んでいく。
合格ってなんすかという前に出されたお茶を飲むように言われ
緊張から一気飲みする。

どこから来たのかとかアジア人なのか聞かれているとめまいがしてきた。
アレと思った時には、体が倒れこむのを感じる。

「はぁ……やっと効いたわ」

頭上から声が聞こえてきて動かない体で焦る。

「ほんと、いつもはすぐ効くのになぜかしら?」
「人種が違うと効きづらいんじゃない?」
「あれ?でもこの前の行商の男にはすぐ効いたらしいわよ」
「ああ、あの人ガリガリだったからじゃないの」

クスクス笑う声に、体を起こして下さいと頼もうとして辞めた。
意識はまだある、というか意識はハッキリしてる。
ただ体が動かないし口も動かない。なんだこれ金縛りか。

この女たちのリアクションを見るに、すでに意識がないと思われているようだ。
眠り薬か何かを盛られたんだろうが、麻酔が効きづらい体質で良かったと初めて感謝する。
と、同時にこんな危険なところに連れてきた神田に後でキックしようと誓った。

女達にズルズル引きずられながら、引き離された神田も
もしかしてやばいんじゃないのかと焦る。

いや、神田は茶を出されても平気で断れるタイプだよなと1人で脳内でガヤガヤしてると
すぐに別室に連れていかれた。

バレないように目だけ動かせば、そこは埃ぽい小さな部屋だった。
ただ怪しい本や置物がズラッと四方を囲み、よく見ると床には魔方陣のような模様も彫ってある。

本格的にやべっぞと内心怯えていれば、腕を掴んで引きずっていた女の声で我に返る。

「教祖様、女の方をお連れしました」

教祖の目の前まで引きずられて、やばいと慌てて目を閉じて気絶したふりをする。
太った指で顎を持ち上げられるとフゥフゥ息遣いが聞こえた。

近い、近い、近いと気持ち悪さ半分とバレないようにと願う気持ち半分で
しばらくジッとしていると教祖の男が手を離す。

「少し幼いが、この子は美しい。信者にしてあと数年待つのもよいが
すでに信者の数は多いからな………残念だがこの子は別に回そう」

え、別に回す?と疑問に思っていればまた女たちに引きずられて
部屋の真ん中にあった円のところまで連れていかれる。

「我らが主も、珍しい東洋から来た……この美しい生贄に喜ばれることだろう」
Page Top Page Top