ガタゴト電車にゆられながら、相変わらず仏頂面の神田を人睨みし
渡された資料に目を落とす。

若者が多く亡くなる奇妙な街。
先に潜り込んだ捜索部隊(ファインダー)からの報告を元に作られた資料によれば
この街は奇妙な信仰が根付いているらしい。

その宗教の一番の教えが輪廻転生。
これは別に悪いことでもないし、私が住んでた日本だって
例えば悪い行いばかりして死ねば地獄に落ちるとか
善行を積んできた人間は次はよりよい人生で生まれてくることができるなど
無宗教者も多いとは言え、一定の宗教概念は多くの人が持っていた。

しかし、この街はある意味異質で若者……例えば早く子供が亡くなることを
神様のお出迎えと呼ぶらしい。

なんだそれ、と思いながら少しナーバスになりつつページをめくる。

この宗教の特筆すべき点は、すでに亡くなった故人を
教祖が持つ力で生き返られることが出来るということ。

しかし、この地域は埋葬する墓地の土地が少ないために
火葬が主である。そのためすでに故人の体はこの世にはない。

それを補うのが、若者の体のパーツである。
手足、内臓がなくなった状態で亡くなるが
それらの無くなったパーツは神様が回収し、故人の体を構成し
教祖の力でまた生前と同じ姿でよみがえるらしい。

だから信仰者は誰も悲しまない。
むしろ、多くが神の御業に泣いて喜ぶ。

ページをめくる手をとめた。
なんとも不気味かつ異質すぎて頭が痛くなってくる。
なんか吐き気もでてきた。青い顔でため息をつけば
目の前の男に吐くならトイレ行けと舌打ちされたんで
コイツに思いっきり吐いてやろうかと人睨みする。

個室のドアがノックされ、入室を許可すると
一人のフードを被った小柄な男性が入ってきた。

「ファインダーのトマと申します。
本日はテオスディアの街を案内させて頂きます。
神田様は以前ご一緒されましたね。今回もよろしくお願いいたします。
こちらは……」

チラッと視線があったので軽く会釈する。

「あ…私は です。ピチピチの新米エクソシストです♪
よろしくお願いします〜」

ニコッと微笑めば、照れたようにトマも頬を染めながら慌てて深々と会釈した。

………
……

「トマさんは…」

「あ、トマでよろしいですよ」

「じゃあ、トマで。――トマはさ、先にこのテオスディオの街に
行ってたんでしょ?資料でみると怖い感じなんだけど
街の雰囲気ってどんな感じなの?」

「もともとからの住民の多くが貧民層がメインの街ですね。
と言うのも、この街はもともとは罪人の流刑地として扱われていた過去もあり
街全体を囲むように大きな石垣で囲まれ、数か所ある関所でしか出入りが許可されておりません。

昔はさらに入ることも困難でしたが、少し前からは金が発掘されたこともあり
金を目当ての探鉱者や、行商などが頻繁に出入りするようになっています」

付け足すようにトマはエクソシストだと言うと
信仰者に敵対される恐れがあるので、我々は一風変わった行商もしくは
金目当ての日雇い探鉱者であるようにふるまわないといけないらしかった。

分かったと頷くも、ハッとして神田に目線をやる。
何だと睨まれたが、その睨みすら哀れに思うほど
コイツ絶対行商や探鉱者に見えねぇと青ざめた。

女性の私から見ても肌が綺麗で色白だし
小奇麗すぎるし、ムカつくほど顔がいいし
かと言って行商みたいな口の上手さも愛想のよさもない。

コイツ壊滅的じゃん。街に着いても喋ったら全部アウトじゃん。
マイネームイズ神田すら名乗れるか怪しいレベルじゃん。

「神田、お願いだから街に着いても一言もしゃべらないでね」
と釘を刺せば、お前とは喋らねぇよと返されたので泣きたい。

ピーマンのためを思って言ったのにね!!

「と……とにかくファインダーがすでに街の調査は終えております。
エクソシスト様方にお願いしたいのは、この街が
AKUMAの製造基地になっていないかの確認と
もしAKUMAを発見次第、速やかに破壊して欲しいのです」

トマの言葉に、神田と顔を見合わせた後静かにうなずく。

そうだ、奇妙な宗教も気になるが一番の目的がAKUMAの退治だ。

「まずは街につき次第、いつまで滞在するか分からないので
宿に案内します。そちらで今日はお休みください。
翌日から私がテオスディオだけでなく周辺の地域も案内させて頂きます」

「周辺の地域?テオスディオの街以外にもあるの?」

「はい。テオスディオ周辺には小さな集落が点在しております。
彼らの多くはテオスディオの宗教理念に合わなかった方々ですね。
村と言えるほどの規模ではありませんが、それなりに周りで暮らしています。
ちなみに街を出て徒歩で30分程度の距離にありますので
すぐに案内できますよ」

よかった。これが一日歩いてとかだったら死んでたーと内心ガッツポーズする。

でもAKUMAの製造基地の発見はともかくとして
どうやってAKUMAを発見すればいいんだ?と悩みこむと
それを察したのか、周辺地域でAKUMAの発生例があることや
万が一長期的に見つからなければ追加でアレンも派遣されると呟いた。

「なんで魔王くんの?」

「ま?――チッ」

あ、なんで魔王か聞こうとしたけど聞いたら聞いたで
会話のラリー続くのが、めんどくさくなって舌打ちしたな。

「アイツなら見えるからだよ」

「……見える?何が?あ、意外と霊感あったりするパターン?」

あれ、でもAKUMAって心霊のくくりでいいのかと頭を抱えれば
呆れたように神田が続けた。

「アイツは人間の皮を被ったAKUMAを見ることが出来んだよ」

のちに少女は語る。電車の中でまさかの衝撃告白に
絶叫しなかった自分を褒めたいと。 Page Top Page Top