結局その日は最後までラビに訓練を付き合ってもらった。
え?神田?――ぶち切れて戻ってこなかったわ。

ラビが間延びした声で神田の言うように、やりすぎはよくないけど
やはりイノセンスを扱うなら体力は必須と何度も釘をさされた。

特に寄生型は生まれてずっとイノセンスと距離が近いし
なんなら身体の一部ってこともあるから扱いやすいらしい。
でも装備型は例えば刀や弓だったらそのための訓練をつまないといけない。
もちろん、寄生型だとしても訓練はつむけど……でも装備型は
体力がつきて、武器を落としたり扱えなくなった時点で詰む。

それに敵は時には何十、何百にもおよぶこともある。
そんな相手に対して一人で戦わないといけないなら体力はあって損はない。
神田の無理矢理感と比較して、きちんと理屈を話して
納得させたうえで訓練をさせるラビは頭がいいんだなと感心した。

とりあえずラビも教団にいる時は身体がなまるといけないからと
なるべく私の訓練に付き合ってくれた。
毎日3キロ走って、筋トレして……化学班がイノセンスを武器に加工するまでは
とにかく基礎体力をつけるためだけの訓練を繰り返し行った。

忙しい仕事の合間をぬって加工してくれた武器が届いたのは
それから一ヶ月後だった。

「これが今日から君のイノセンス武器だよ」

化学班の人から受け取って、頭を下げる。

「忙しい中ありがとうございます」

しかし手の平にのるほどの一見携帯ストラップみたいな
鉄状の棒の先に球体、その周りにいぼいぼと鎖がついたのを渡されても
めちゃくちゃリアクションに困るんですけど。

一生懸命作ってくれたのに、これ……投げて相手にぶつけた方がまだダメージ通るでしょとか
思ったが言わないように努力し、引きつった顔で再度礼を述べてポケットにしまおうとすると
慌てて説明された。

「それは明けの明星モーニングスターっていうんだ!!
さんのいうように今は持ち運びがしやすくなってるけど
かいと唱えながら上に軽く投げてみて!!」

促されるまま、指示された言葉を唱えてポンッとなげると
一瞬で私の背丈の半分のでかさになった。

「うわっ…えっ、すごっ」

丸形のまわりについたイボイボがこれなら痛そう。
片手で持てる重量で、女性の私でも何とか扱えそうで安心した。
聞けばなるべく軽量かつ丈夫な素材を採用したらしい。

「そして…これができあがった隊服です」

手渡されたのは黒地に所々銀色の線が入り、身体のラインが
くっきり分かるようなタイトなライダースジャケット。
下は同系の素材で作られた丈の短いホットパンツ。

受け取ってみて初めて分かるが、結構重い。
こんなのをエクソシストは着てるのかと不安になったが
手渡した彼が補足するように付け加えた。

「確かに普通の服よりも重いでしょう。
しかし、それだけ丈夫な素材で作られているんです。
また難燃素材も使用しており、火にも強いです」

いや、それ着てる本人ダイレクトに燃えたら死やぞと口には出さず
ありがとうとだけ苦笑いして受け取った。

別に隊服と言っても毎回着る必要はないらしく、皆だいたい任務外だと私服も多いとか。
ただローズクロスがついた飾りは外出時はほぼ必ず、つけなければいけないとのことだった。
理由を聞いたところ、これを身につけていればヴァチカンの恩恵で
多くの交通機関が無料かつ、あらゆる場所への出入りが自由になる証明書になると言われた。

めっちゃ便利じゃんと感激していると、希望者には外出時に何らか……
例えば多くの場合が戦闘による破損や、万が一紛失などの事情で隊服が着れない場合
私服の着用時にもローズクロスのバッチだけでなく
ピアスやペンダントでのアクセサリーとしても支給があるので
そちらとも併合しつつ、身につけてくれと説明された。

「しかし……女の子なのに少々露出が多いのでは?」

「だからいいじゃん!!それにリナリーだってかなり短いスカートだし」

「かっ…彼女は脚部につけたブーツがイノセンス武器だから仕方ないんです!!」

そういえばだったわ……と納得しつつ、でもこの方が可愛いじゃんと結局譲らずに
この隊服で今回はごり押しした。一応、上着はローズクロスが入っているので置いといて
オシャレを楽しみたい私としては下はホットパンツ以外にもプリーツスカートやスキニーパンツ
リナリーとオソロで可愛いかなとハイソックスなども作ってきてねと改めて押しつけ
ただでさえ忙しいと嘆いている化学班の男性が唖然とするのを横目にバイバイと手をふって後にした。

ルンルン気分でリナリーやラビに見せようと自室で着替えて教団内を歩く。

最初に目に留まったのが運悪く神田だった。
うげっと声を出し、回れ右をしてみなかったことにしようとしたが
人を見てなんつー声を出すんだお前と苦言を呈された。

「いや〜、絶賛絶交中だったっしょ?うちら」

あんたも避ける。なら私も避ける。
それに意味もあるか。

「おい」

ハッキリと絶縁しているのにまた声をかけてきた神田に
苛立ちながら振り返れば相変わらず端正な顔を引きつらせた
彼の切れ長の瞳と視線が交差する。

「なに?見てわからないかな?忙しいんだけど、これからちゃん
ガールズコレクションin教団のお披露目パーティーすんだから」

「ガールズ?は?……あー、アレだ。前のは…その、悪かった」

「驚いた。神田っちに謝るという能力が備わっていたんだね〜」

おちょくるようにからかえば、やっぱり撤回すると言われたんで
もらった言葉をどうやって返すんだよまた揉めた。

「アレ?神田に…?」

可愛い声に振り向けば、我が教団の癒し!!リナリーが立っていた。
いやぁ、今日も可愛いね〜誘拐したいなと思っていると
口に出ているよと苦笑いされる。

若干距離をとられたのに心が悲鳴をあげた。

「そういえば、二人のことを兄さんが呼んでたわよ」

兄さん?リナリーにお兄ちゃん呼びさせるとはどこのどいつだけしからんと憤慨するも
あ、一人だけリアル兄ちゃんいたじゃんと我に返りコムイのとこに向かう。
その間中もまさかこいつととか神田がボヤいていたが無視した。 Page Top Page Top