とりあえず、男二人は何か話し込み、やがて意を決して湖に向かうと宣言した。
ジョージさんだけでなく、私までそれはまずいのではと慌てて止めたが
彼らは任務としてつかわされている以上は何かしらの成果がないと
このまま手ぶらで帰ることが出来ない、と疲れたような顔で説明した。

「やはり逃げ帰ってきたジョージさんを戻すのは難しいです。
僕たちは仮にもエクソシストですし……今回は近づけるだけ近づいてみて
危なそうなら一旦この宿に帰ってきます」

「え、エクソシストぉ?あ、あんたらが何者か知らねぇが
悪いことは言わねぇ。――あんな恐ろしい場所には近づくんじゃねぇ!!」

ジョージは何かを思い出したのか恐怖にゆがんだ顔を浮かべたかと思うと、すぐ悔しげに顔を伏せた。

「お……俺が逃げ出せたのだってバリーが犠牲ぎせいになったからだ。
俺はその間に逃げたんだ………おっ、俺は…バリーを見捨てて…」

「ジョージさん……」

ゆっくり少年が近づいて、安心させるように肩に手を置いた。

「あなたが悪いんじゃありません。でも、僕たちはあなたや犠牲になった方々のためにも
どうにか原因を究明しなければならないんです」

「おい、行くぞ…」

業を煮やしたように扉に手をかける神田にアレンもコートを羽織はおりながら慌ててついていった。

「でっでは行ってきますね!!さんはお願いですからジョージさんを見ていて下さい!!」

アレンの目は余計なことはするなよという警告を孕んでいたと静かには感じた。
ジョージさんを見といて下さいとは恐らく逆の意味ということも空気を読めるちゃんなら分かる。
でも、か弱い乙女と小汚いオッサンを同室にするなよ!!危ないだろと突っ込みたかった。
横でジョージも泣きそうな顔で俯いたまま湖に向かった二人に悪態なのか心配なのかぶつぶつ呟いている。
残された私はかなり気まずく、何度目かになった早く帰りたいという思いが一層強くなった。

………
……

それから体感としては1時間近く経ったかと思われる頃だった。
けたたましい音とともに宿のドアが蹴破られる。

「いやあああああ!!」

バイオ4のチェンソー女みたいな悲鳴をあげたのフライパンが入ってきた人物に直撃した。
ギャグではなく、本気でビックリしたからだと少女はのちにカメラの前で語るのはさておき……。
真横では稲川淳二いながわじゅんじばりのやけに上手い語り口ホームレスジョージの湖でのホラー体験が語られ
おまけにドアを蹴破けやぶる前のズルズル何かを引きずるような音が少女の不安を煽った。

異世界に偶然かトリップ神のイタズラか迷い込んだ心細さ、真横の稲川淳二ばりの語り口調。
すべてが相まっての恐怖を煽り、それをしってか知らずかダイナミック入出してきた人物が決定打となった。
とっさに後ろ手で掴んだ殴るのに最適なフライパン(ランダム武器)がまさか綺麗に決まるとは思わなかったが
入ってきた人物のうめき声で我に返る二人。

「あっピーマ…神田とアレン!?」
アレンはこの人ピーマンと言いかけたな、と殴られた衝撃でぐらぐらする頭で思った。
二人はびしょ濡れで、長髪の神田にいたっては顔中に長い黒髪がまとわりついて貞子を彷彿ほうふつとさせている。

「ナチュラルに怖ぇよ!!こっちはか弱い乙女と弱り切ったオッサンのダブルコンボだどん!!
後早く帰ってきてよ!!寂しくてご臨終りんじゅう手前だったの!!!!ウサギは寂しくて死んじゃうんだもん!!
ああ、もうとにかく全部ひっくるめておかえり!!」

一息かつ早口で怒鳴り込むような少女の口調に面食らう男二人……と弱り切ったおっさん一人。
少女の脳内は二人が無事に帰ってきた嬉しさが1%、残りは怒りの99%の辛口配分だった。

自分達は命からがら戻ってきたんだぞとびしょ濡れのまま肩で息をした二人が項垂れる。

「うぜぇ……」
「た……ただいま」

倒れ込むように二人が室内になだれ込んだので、思わずいつものオチャラケをやめて
真面目な顔を作り心配してみせる少女。

「二人とも顔色凄く悪いけど、ねぇ本当に生きてるよね?」

指先で精一杯体から離したフライパンでつつく。

「反応は無い。ただの屍のよ「生きてますよ」こりゃ失礼しゃっしたぁー」

「というかさっきから意思の疎通そつうできてるじゃないですか?
あ、そうか…出来てませんでしたね普段から」

「ちょっひどーい!!うちらズッ友って誓ったじゃーん!!」
SNSで愚痴るぞとつめよる少女に呆れるアレン。

「ずっ?あの……友達ならまずフライパンで殴りません。そして殴るのがあんなに綺麗に決まりません。(まずランダム武器の引きの強さ凄いです)
ついで友達ならまず帰還を喜んで下さいよ。――後、ふく物を下さい」

あ、そうか……こやつらびしょ濡れでしたわと少女はアレンの言うとおりに大判タオルを手渡した。
ちなみに神田に渡そうとしたが、気の利かねぇ女だと捨て台詞を吐かれたのでムカついてフェイントを何度かかけて渡した。

二時間後。

遅い時間だったのでジョージさんはとりあえず近くの宿に泊まって貰うことにし(費用は教団持ち)
服を乾かすために半裸になった二人のボーナススチルを堪能しつつ、話を聞く。

「え、じゃあ本当に亡霊はいたの?」

驚いて声をあげる少女に、二人は気まずそうに頷いた。
二人もやはり人が湖から出てくるなんて信じていなかったらしいが
湖に近づくと、眩い光とともに女が現れ狂ったように叫びながら
二人を湖に引きずり込もうとしたらしい。

どうにか二人は避けたり、振り払ったりして何がおきているのか掴もうとしたらしいが
女に攻撃をためらったアレンが湖に引きずられそうになり、慌てて逃げ帰ってきたらしい。

あ、だから神田がボロボロになったアレンを引きずってきたのかと納得する。
しかし、引っかかるのは二人から聞かされた女の言葉。

「男は許せないって、過去に何かあったのかしら」
よっぽど男に苦い経験をしたのか、単に男嫌いなのか。
でも湖に引きずり込んで溺死させるなんて、相当な恨みとしか思えない。
もはや亡霊より怨霊って感じだと少女は感じた。

「その人はえー、AKUMAってやつ?それともイノセンスってやつなの?」

「いえ、今の段階では分かりません。…ただ、やはり普通ではないと思います」

「そっか~。どっちか判明したら本部に連絡して別の人に代わって貰ったりできたのに…」

「んなこと出来るかよ……俺たちはエクソシストだぜ。
そこにイノセンスがあるって分かってんのに帰れねぇだろ」

神田の説教くさい言葉に少しムッとする。

「でっでもさ…こう言っちゃなんだけどまだ二人だって若いじゃん?
エクソシストってのは他にもいるんでしょ?だったらその人達に頼もうって!!
――それにいくら仕事でも命が危ないんだったらこんな仕事辞めちゃって、もっと別の仕事を…」

そこまで言いかけていつもなら悪態をつく神田が急に静かになり
アレンも困ったような、どうしていいか分からない泣きそうな顔でこちらを見つめたので
少女はそれ以上何も言えなくなった。

沈黙が流れる。神田は少し考え込むように視線をそらし、アレンは困ったように笑った。

「そう…できたらいいんですけどね」

どこか泣き出しそうな困った、それでも笑みを絶やさなかったアレンの呟きに
私はこの事は軽々しく触れてはいけないことだったんだと少し胸がズキリと痛んだ。

「あ、あの…私…その」

「えっと……あっそうだった!!」

普段はお喋りでうるさいと言われる少女がやけに言葉に詰まりつつ謝罪をしようとすると
それを知ってか知らずかアレンが遮るように半裸のまま前のめりに倒れ込んだ。

「ちょっ…何してんのアレン君」

急に真剣に拝むように土下座しだす少年。こっちが日本人だからとりあえず何かあったら土下座で乗り切ろう的な
間違えた海外のジャパニーズイメージかな、と困り切っていると少年は衝撃しょうげきの言葉を口走る。

「お願いです!!女性であるさんにも今回の任務ついてきて欲しいんです!!」

「え……ええええええええ!?」

宿に少女の絶叫がこだました。
次回、ちゃん死す!!に繋がるルート進行具合を何とか全力で回避しようと
最大限もっている全てのスキルをフル活用し、何とか行かずにすむよう
説得してみたり、脅してみたり、泣きついてみたりと色々試した。
しかし、一人は申し訳なさそうにもう一人は進まない話に若干キレつつ拒否することを拒否してきたので
ロープでぐるぐる巻きにされながらついていくしかなかった。 Page Top Page Top