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突然というのは恐ろしいものだ。
しかし、それに対抗する特性として人間には慣れという特殊スキルが元々備わっている。
いわゆる、適応能力というやつだ。

私は一瞬のうちにディスカバリーチャンネル並の神秘を垣間かいま見たような気がする。

そう…人は慣れるものだ。しかし……この世界は何もかもがずれていた。


「えっ…どうなってんの?これェエエエ!?」
『人間発見~!!ヒャハハハハ!!』

え~っと現在ですねぇ、グロテスクな生き物…なのかな?とたわむれ…もとい追いかけられている所です!!

木の陰から最初はさりげな~く観察していたんですが(好奇心に負けたのさ☆)
何か5秒くらい目が合っちゃったんだよね、これが……。

やつはゴキブリのようなつぶらな瞳をしていた♪


君の瞳に恋する五秒前じゃなく………むしろ見つめあう5秒前に戻りてぇよ。

走りながら先ほどの胸キュン必須の瞳を思い出して、思わず吹き出しよろけてしまう。

このバイオレンスな状態でも、不思議と少女の中には恐怖よりも好奇心からくる胸の高鳴りや、突然の状況が(主にやつの顔面が)面白おかしくて堪らなかった。

何度もふき出すのをこらえるが、最終的に涙目になりながらこらえるのを辞めて下品な笑い声を盛大に響き渡らせる少女とリアル逃走中が繰り広げられていた。

背の高い木々をどんどん追い越して、時々…太い木の根元につまづきながら、少女が逃げる。

「あははははは!やばいって…うぇっ……うひゃひゃ……あの顔反則!」

皆さん、生き物のマーキングポイントを荒らしたのか
はたまた、エサとしてロックオンされちゃったのか分かんないけども追いかけられてます!!


そうだ!!急に私は体をひねって反転させると生き物(よく見たら化け物やん☆)に向きなおり
両手を前に突き出して叫んだ。


「オラに力を分けてくれェエエェ!!ひっさ~つかめはめ波ァアアアァア!!!!」

化け物は一瞬静止すると、訳が分からない様子でこっちを見つめてきた。

ちくしょう。効いてねぇ!!つか、天下の巨匠きょしょうの漫画をしらないとは……ちったぁ乗れよ!!
ここはあれだろ!!ぐおぉおお!ひでぶぅうううう!!的な

北斗神拳炸裂ほくとしんけんさくれつ的に血しぶきをあげて消えてほしいわ……と心の中で化け物の丸っこい身体が血しぶきをあげて吹き飛ぶのを想像してまた笑えてきた。(しかも、昔の安い特撮の爆発シーン並の映像)


……

しばらく二人で見つめあっていると化け物が
またこっちに向って空中浮遊で走って?きた。


「うぎゃあああああ!!私のボケスルーすんなァアアア!!」

怖いので直視せずに背中越しで時折振り返って叫ぶ。

化け物はというと、さっきにも増してすごい速さで追いかけてくる。

私も結構走りには自信あんのに、ちくしょー。
大体、比べんもんが違うんだよォオオオ!!
あいつぜってードーピング使ってんだろ!!何かムキムキで青鬼並にキショイわ!!陸上の対ボル○専用だろあいつ!!

一般人な私は到底逃げ切れる訳など無いわけでして

すぐに追いつかれちゃいました☆(テヘペロ)


さぁ、画面の向こうのプリチィー読者さまに質問だよ。この状況はどうするべきだと思う?


1、土下座でわびれ!!日本の和の文化を見せてやれええ!!
2、餌付けだ!!えっと3匹のガラガラド○戦法で私よりもおいしい人いますよ~って言って散歩してたおっさん指させ!!
3、大人しく食われる。私たちの戦争はもう終わったんだ……。
4、1週間の猶予ゆうよを貰う。その間にみんなに別れを告げ……もとい外国に亡命する準備を整えろ!!
5、化け物の愚痴ぐちを聞いてあげる!!生き物に悪い子何かいない!!

うーん、1は一か八かだろう。
食うか食われるかの世界みたいだし、果たして化け物に言葉が通用するものか……。

となれば1は奥の手として置いといて
2の付けは…近くにおっさんいないしなぁ。つか、某子供向けの怖いイラストの絵本引き合いに出されても読者さん理解出来ないだろう。


3は無理だ。ぶっちゃけこのままで死にたくない!!

せめて……せめてお札にだいぶ補正された顔が載る位名を残したいわ!!

4か……ふむ。中々いい案だとは思うけども……
何か1と2と同様にあいつ言葉理解出来なさそう。あっでも、一応喋ってるよね。
半分以上奇声やけど喋ってるから多分会話は出来る…ハズ。しかし、言葉のキャッチボールが上手くいかねぇよおい。(まだ、マサイ族の部長の方が会話通じそうだ)

ああ…もう!!ここは裏ルール発動!!

「うぎゃああああ!!誰でもいいからヘルプミィイイイイ~!!」



叫んでみちゃいました☆


「お前!!大丈夫か!?」

ふいに物影から黒髪長髪の女の人が出てきてびっくりした。


「うぉおぇっ!?誰ッすか!?つか、あいつ…あいつどうにかしてよォオオオ!!!!」

畜生。今更になって真の恐怖が込み上げてきたぜ。
ああ……パピー、マミー。そして愛犬のクロたん。

私も、あなた達の元へと向かいます。

意を決して瞳を閉じると、予想してたはずの化け物の爪ではなく
ごつごつとした筋肉質な腕に抱きしめられていた。

「えっ…あれ…?死んだんじゃ……?」

瞼をゆっくりと開けると、綺麗なアジア系の顔立ちがドアップで映し出された。
思考回路が抱きしめられてると判断する前に私は叫んだ。


「うぎゃあああ!!何してんすかああ!!これは…突然の出来事から恋に発展する昼ドラマ的な展開なのか!?「だまってろ!舌切るぞ!!」えっ!?」

おどろく間もなく、気がつけば空中を反転していた。
木々がざわざわと揺れる。木の葉が何千という数で空に舞った。
周りがやけにスローモーションに見えるよ。
まるでマトリッ○スにでも出てるみたい。

これでボロボロでタンクトップ来て、ピッチピチのホットパンツでもはけばアメリカンなヒロインよね。(あ、でも……あんなに出るトコ出てない)


ストンッと華麗に地面に着地すると私たちが立っていた場所はかなり大きなクレーターが出来ていた。


そう、さっきまで私と優雅に追いかけっこしていた化けもんの仕業だというのは一目でわかった。

これには流石の私もひっと息をのむ。

「ちょっ…あいつどうにかしてください!!」

綺麗な女性(でもどうも男っぽいような気がする)人に懇願こんがんすると私を背にして立って、服の隙間から刀を取り出した。

「うわ…この人今までよく銃刀法違反じゅうとうほういはんで引っ掛からんかったな」
思わずボソッと呟く。黒髪の麗人はそんな事は気にせずに刀を慣れた手つきでさやから抜いた。

六幻むげん厄災招来さいやくしょうらい……界蟲かいちゅう一幻いちげん!!!!」

そう叫ぶと、その化け物を刀で一太刀ひとたちにする。化け物は断末魔だんまつまをあげながら灰と化した。



………
……



「あいつ…死んじゃったの……?」
力が抜けたようにへたり込む私に、黒髪美人(勝手に命名)は、ああ…と答えると持っていた刀をスルリと鞘に納めた。

急に涙がこぼれてくる。
何でだろう。私……私さっきまであいつに襲われかかってて……それで死にそうになってたのに……。


「殺す必要はなかったんじゃないの……?」考えるよりも早く言葉がこぼれていた。
思ったより震えなかったが、声色にはまるで糾弾きゅうだんめいた色が含まれていて、自分でもびっくりした。

自分が助けてって言ったのに……身勝手だけど、でも私はこれを望んでいたわけではない。
今の状況は最初から最後までフルスロットルでカオスだけど、自分の考えはハッキリしてる。

私は、ただこの生き物から逃げる事しか考えてなくて……その結果、こいつがどうなるかなんて先までは無責任にも考えていなかった。
本当は武器を抜いた段階である程度、察しがついていたはずなのに………。


涙目で黒髪美人を見上げるとその人は目を見張ってまるで信じられないというように私を見る。
その目にはどこかありえないと嘲笑ちょうしょうの色が強く出ていた。

「お前……AKUMAアクマに襲われてたんだぞ?」

「あっ…悪魔って……一応あいつは化け物みたいなグロテスクなルックスをしてるけど…たぶんワンちゃんだって!!」
そうだよね。何かの突然変異だよ…きっと!!
あ、でもたまに芸能人でも親はルックス良くても掛け合わせるとブサくなる例もあるから……それの可能性も………。

「いや…どう見ても犬じゃねぇーだろ。今時、ゴールデン何とかでもあんなでかくないぞ!!」

「ゴールデンレトリーバーだろ。ちゃんと言えろよ。
つか…私も確かにあのときはどうにかしてってたのんだけど……何も殺す事はなかったと思う!!」

黒髪美人は早口でまくし立てる私にため息をつくと、説明してくれた

あいつはAKUMAで、人の皮を被っている殺人兵器だと言うことを。
AKUMAは人の悲しみを原動力に製造される。千年伯爵というこの世界の終焉しゅうえんを望む者の手によって。

説明を聞き終わる前に涙はとうに乾いてしまった。
説明を一通り終えると、私にそれでもAKUMAを殺す事が悪いと思うか?と聞いてきたから
私も何だかムキになって答える。

「分かった。あいつが悪魔(AKUMA)っていうのは分かったけど…
それでも、殺すまではしなくてもどこかで監禁するとか、精神安定プログラムを習わして
ついあいつ殺してぇーな的な思考をこう…元の人間に戻してあげるとかさ」

神田と名乗った男はあきれたようにため息をついた。それにムッとし、また続ける。

「はたまた、ポケ○ンみたいに使い魔?的な感じで従えて攻撃させるとかいろいろあんじゃん!!!!」

呆れたように沈黙を貫きこちらを見下ろしていた彼も、相手にするのが疲れたように黒髪をなびかせ私に背を向けて歩き出す。

「どこかの新人みてーな言い方だな……」

そう私に振り向きざまにボソッと吐き捨てると神田と入れ変わりで白髪の少年が私に駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか!?ケガしてません?」
そう年の割には紳士的な少年は、いつの間にか逃げる時に木の枝か何かで切ったらしいウサちゃんスリッパをはいている足にハンカチで応急処置をしてくれた。

「ありがとうだけど……どうしたの?――君の方がダメージでかそうだけど………」

へ……と可愛らしく目を丸くする少年に、同情を込めて髪の毛を指さした。

「髪の毛真っ白になる程……追い詰められてんの人生?」


KY?いやいや…空気読みまくりでマジかんべんの略だろそれ。
私の発言にフリーズする少年をよそに、私はハッとさっきのショッキングな映像を思い出して叫んだ。

「そそそっ…そういえばね!!さっき、悪魔とか言う生き物もといワンちゃんが私を追いかけてきたんだよ。
それをさー、そこの黒髪美人(神田)が真っ二つにチュドーンッて!!バビューンッて切っちゃったわけよ!!
どうしよう。私、犬とは言え殺人……じゃない一方的な人間のワンちゃん殺害の現場見ちゃったよ!!!!」


もう一生消えないトラウマを抱えていくのね。――よくある過去もちヒロインの気分。
誰か……イケメン&美少女限定で私をなぐさめてくれェエエエエ!!!!


半分以上意味不明なワードを繰り出す私に少年は苦戦しながらも
話をまとめてくれた。

「つまり…あなたはAKUMAに追いかけられている時に神田に助けてもらって
それで、AKUMAを倒す(←あえて殺すと言わない所が紳士だよね!(by談))
神田に対して、もう少し倒す以外のすべはないのか?と迫ったわけですね……?」 Page Top